第32話 10分
「ぐぁっ!!?」
「通り道をやった。もうさっきの黒いのは使えないだろ」
ゼルはシーバにそう言って近づく。
絶視
何故これでシーバの腕を狙ったのか、それには理由があった。
最初絶視で見た時、黒いオーラがシーバの身体を包んでいた。
その時黒い煙は手に集中していたが、アレは常にそうなっていた訳ではなかった。黒いモヤが掌から出る前だけ、急激に黒い煙が溢れる様に膨らんだのだ。それに加えて身体にあった煙もほんの少しだが減った。
つまり、身体から何らかの力を手に送っていただけ。俺はそのホースを切断した。
これは一部の魔物にも見られた現象だった為、上手く対応出来た。
何故居場所が分かったのかは別にして、何ら魔物と変わりないと思って対処したらこの通りだ。
ゼルはシーバに問いかける。
「此処は何をやってる場所だ。言わなければ…」
そう言って鏃を突きつけた。
シーバは顔を俯かせたままクククッと笑うと、顔を上げた。
「此処は私にとって大事な場所。教えてたまるか」
「大事な場所の割にはボロボロになってしまったけどな」
「この国を壊せれば私は良い」
「…どういう
ゴゴゴゴゴッ
俺が問い詰めようとした瞬間。とてつもない地響きが辺りを震わせた。
「初めにアンタを見てから勝てないのは何となく分かってた…だからこうした」
シーバは笑ってゼルを見た。
「自壊のレバーをこの部屋に入った瞬間に倒した。此処はあと10分もしないで崩れる」
「何だと!?」
ゼルはシーバの胸ぐらを強く掴み、身体を浮かせる。
「ぐっ…私はこの国を壊す為なら命さえ問わない」
「クソッ!」
(アレは鉄格子を下ろして俺を閉じ込めようとした訳じゃなかったのか!!)
ゼルはシーバを離すと、急いで部屋から出ようと鉄格子に向かう。
鉄格子に手を当てると"発勁"を使って鉄格子を折ろうとする。
しかし、
「随分硬い、なっ!!」
「それはドラゴンの骨から出来てるからな。破れないさ」
「なら10回ってとこか」
「…何?」
ガッ ガッ ガッ ガッ ガキッ
「10回もいらなかったな」
ドラゴンの骨から出来たと言う鉄格子に5回程"発勁"すると、鉄格子は破壊されゼルは部屋を飛び出した。
*
「ふっ、私では勝てない、か。さて…」
シーバはゼルが見えなくなったのを見計らって、足で壁を押した。
「何も強い奴が生き残る訳じゃない」
シーバは笑って壁と繋ぎ合わせたまま、後ろへと倒れて行った。
*
急がないと囚われている子達を助ける事が出来ないと、ゼルは全力で地下を駆け抜ける。
もし、助ける者が2人程度ならば自分が抱えていけば良いだろう。
しかし、あの鉄格子の中には何人もの子供が横たわっていた。
もしかしたら、時間が足りなくなってしまう可能性もあった。
「ッ! クソッ、こんな時に…」
ゼルは"絶視"の影響で足下をフラつかせる。今日使った回数は全部で3回。長く使った時もあれば、一瞬だけ使った時もあったが、短期間に使った反動が今になって返ってきていた。
「ピィ!!」
「…分かってる…大丈夫」
俺はフラつきながらも走った。
そして、あの場所に着く。
中にいる者達は最初見た時と変わらず、まばらに散らばっていた。
俺は鉄格子を蹴って折り曲げる。
「よし! 助けに来た!」
中にいる者達に俺は手を伸ばすが、何も返事をしない。
「どうした!! 早く!!」
そう言って俺は子供達の腕を掴んで引っ張ったが、そこで気づいた。
「…お前ら…足が」
子供達のアキレス腱が切られていた。これでは立つ事さえも困難だった。
「…もう、終わりでいい」
掴んだ子供の頬に涙が流れる。
その小さく発せられた声に俺は、強く歯を噛み締めた。
*
ゴゴゴゴゴッ
「「!!」」
突然地響きが起きて、周りにある器具が揺れる。
私が何事かと辺りを見渡すと、男は私を解剖するつもりだったであろうナイフを置くと、私から離れて部屋の扉を開けた。
「…チッ、何かあったか」
男はそう言うと部屋から出て行った。
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