第27話 侵入

「はぁ、今日俺当番だ」

「うわ、マジか」


 俺は先程まで一緒の当番だった者に告げる。

 建物の奥にある、いつもの掲示で自分の当番を見ると自然と肩が下がった。


 今日の俺の当番は1番憂鬱な餌やり当番。アレは1番見てて気持ちが悪くなるし、恐怖で足がすくむ。


 その他にも警備、清掃、運送があるが、餌やり当番が此処の1番のハズレ当番だ。


 まぁ、だからと言って浮浪者の俺達からしたらこれをしてるだけで、金が貰えるのはありがたい事だが…。


「今日は何番の餌やりだろうな?」

「頼むから3番だけは辞めてくれ」


 俺達が2人で話し合っていると、それは唐突に起こった。



 バキバキバキッッッ



「な、何だ今の音は!!」


 突然何かが、砕ける様な音が建物中に響き渡った。

 こんな音普通なら鳴らない。音からして、壁がひび割れる様な音をしていたが、此処の壁は間50センチにもなる分厚い壁だった筈。


 壊れる筈がない。そう思っていた。



「こ、こっちだ!!」



 入り口の方から声が聞こえて、俺達2人も急いで向かった。


 そこには大量の瓦礫に、呆然と上を見上げる同僚達の姿。


 そして。


「あ、あれ…」


 隣にいる同僚と共に上を見上げる。そこには大きな穴が出来ていた。


 普通では出来ない。意図的に壊れる事は絶対に有り得ない様な、そんな穴が。



 しばらくして少し冷静になった俺は、皆んなへと問いかけた。


「…ま、まずは瓦礫の撤去でいいんだよな…?」


 俺は皆んなからの返事を待った。

 辺りはまだ薄く砂埃が舞っていて、皆んな動きを止めていた。


 しかし、待っていても皆んなからの返事は来なかった。


 俺が此処に働き始めて4年。この中では1番の古株。今までこんな事が起きる事はなかった。


 此処でやってる事に比べたら、平穏過ぎるぐらいに…。


(こうなるのも仕方ないか…)


 俺は1人納得して、瓦礫を持ち上げる。


「あ、あと主任にも誰か連絡を


 振り返り、少し大きな声で話す。


「ぐっ!」


 すると少し後方からくぐもった声が響いた。


「何だ?」

「どうした?」


 その声に反応して、皆んなも疑問の声を上げる。


(そうか! あんなデカい穴普通では空かない! 誰かが此処に入ってきてるよな!?)


 そう思った俺は急いで入り口へと向かった。


「うっ!」

「お、おま」

「く、くそっ!」


 次々と皆んなの声が消えていく。


(よし! 逃げれた!!)


 俺は入り口のドアへと手をかけた。



「悪いけど、逃がさない」


 そう耳元で聞こえた瞬間、俺の意識はなくなった。


 *


(…よし、思っていた以上に上手く入り込めたな)


 ゼルはバレない様、天井から中へと侵入していた。

 瓦礫と落ちると同時に降り、土埃で辺りが一瞬見えなくなる所で物陰に隠れる事が出来た。


 中にこれほど人が居た事は予想外だったが…見た感じ服装を見ると浮浪者の様な格好の者ばかりで、瓦礫が落ちたお陰か、物が散乱している。物は棚や椅子、大きめなテーブルなどが置かれており、今の所は変な物もない。


 簡易な武装はしているものの、動きからして素人。


 ゼルの相手ではなかった。




(まずはアイツ…)


 瓦礫が落ちている現場から1番遠くに位置していた者の背後に忍び寄ると、一瞬にして首に腕を回す。


「ッ!!?」


 男は腕を取り払おうと抵抗を見せるが、その抵抗虚しく締め上げられる。


「…大事をとってこの服装を借りるか」


 そして先程締め上げた男の服を剥ぐと、服の上から着る。

 その男の服は廃れていて、端が少し切れていて嵩張るが、相手の油断を少しでも誘えたらと思っての判断だ。ないよりはマシだろう。


 ゼルは男を持っていた縄で身動きを取らない様に縛ると物陰に隠す。そしてその近くにリゼが入っているショルダーバックを置いた。


「…リゼ、少し待っててくれ。すぐ終わらせてくる」

「…ピ」


 呟く様に言い、リゼから返事を貰ったゼルはすぐ様行動を起こした。



(まずはアイツ…)


 ゼルは素早く、瓦礫の方を呆然と見ている者の後ろに着くと手際良く首を絞め、制圧していく。


「あ、あと主任にも誰か連絡を

「ぐっ!」


(しまった!)


 締め上げた者から少しくぐもった声を出させてしまった。恐らくさっきの反応から俺が居た事は気づいていなかったけど、今ので気づかれただろう。


 そう思ってからのゼルは早かった。


「うっ!」

「お、おま」


 何人もの首を締め上げる。


 リゼを置いたゼルのスピードは先程の比ではなかった。


(…後はアイツか)


 ゼルは逃げ出そうとしてる者の背後に忍び寄ると、静かに首を絞めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る