第28話 建物の下へ

(はぁ、ナイフ出すタイミング間違えたよな…)


 俺は1人建物の中を歩きながら思う。


 今持っているのは弓と矢筒のみ。念の為に弓を持ってきたが、使う所がない。


 ビルド鍛冶屋に出したは良いものの、弓以外の戦闘方法が格闘だけだと不安が残る物があった。


 ナイフがあったらすぐに制圧出来ただろうなと少し肩を落としながらも、リゼが入ったショルダーバックを持ち上げた。


「お待たせ、リゼ」

「ピィ!」


 元気よくリゼが返事をしたのを確認して身につけると、ゆっくりと辺りを確認する。


 床には転がったテーブルに椅子、棚。その棚には何も入っていない。それ以外にも食料も水もなく、余計な物が存在しない。


 普通の暮らしを演出している様な、違和感ある部屋だった。



(それに何より…)


 此処に居たのは若い男が8人。全員命を絶った筈。


「あの2人がいない」


 俺が外から聞いたであろう女性と老人の姿がない。


 確かにあの声は女性特有の高さと、老人の深みある少し枯れた声だった。男の中で高い人も居たとなれば違うかもしれないが、老人がいないのは可笑しい。




 そう思って部屋の中を探索し始める。


「うん…此処にも何もないな」


 数分後、ゼルは部屋の真ん中で立ち尽くしていた。この部屋の隅から隅まで探したが、何の手掛かりも掴めずに居たのだ。


(こんなにも何もないとは…だけど…)



 ゼルは部屋の1番奥に掲示されていた当番表なる物を眺める。


(警備、清掃、運送、そして餌やり。何の当番だ?)


 ゼルは頭を傾けながら、唸る。



「いや、今はこれを考えてもしょうがない。老人達が何処に行ったのかだ」


 ゼルは切り替えて顎に手を当てて、考え始める。


 此処に入る前に、入り口の扉の方も見ていたが出て行った者は居なかった。制圧する途中も、見た限り逃していない。


(となれば…)


 ゼルは地面スレスレまで屈むと、地面をノックし始める。


「…」


   コンッ


「此処か?」


 先程までは何の音もさせなかった床が、ほんの少しだけ変わった音を鳴らす。


「……壊すか…」


 ゼルが、その隠し扉であろう物を天井と同様の開け方をしようとした瞬間。



 ガチャ


「っ!?」


「な、何だよこれ!?」

「お、おい! 皆んなどうしたんだよ!?」


 扉の開く音が鳴り、武器を持ち、革の鎧を身に纏った冒険者風の男が2人、建物内に入って来る。


 俺は音が鳴った瞬間に素早く、近くにあったテーブルの影へと隠れる。


 男達は倒れている者達の所へ駆け寄る。


「う、嘘だろ…」

「お、おい。これ不味くないか…」


 2人は動揺しながら辺りを見渡す。


(隙を見せてたら…)


「おい…誰も居ないぞ! もしかしたらもうに!!」


(お…?)


 1人は先程までゼルがノックしていた床への近くへと寄り、1人は入り口の方へ走って壁を押した。


 ガコン ガガガガガガッ


 押すと同時に先程の床が奇怪な音を立てて、開いた。


「主任に会わせる前に始末するぞ!!」

「お、おう!」


 そうして男達は急いで、その扉から下へと入って行った。


 アレが恐らく警備の当番だった者達なのだろう。あの後を追えば主任と言う者の所へ行けるかもしれない。


 ゼルは短く息を吐くと、空いている隠し扉から下へと続く階段を降りて行った。




 *


「はぁ、これでは流石にあのトマスでも私を見つけるのは無理ですね…」

「…」


 サーラは先程、黒いローブの男から牢屋から連れ出され、手錠を付けて長い時間歩かされていた。


 此処に入ってまだ、1日も経っていないのに出されるとは思ってもいなかった。


 此処まで早く行動されると、見つけられる物も見つける事が出来ない。


 ガチャ


 長い道を何分も歩き続け、着いた先は…


「うっ…」


 私は思わず手で口を覆った。


 部屋の中心には大きな手術台と小さな手術台が並んでいる。また、あちこちに紙が飛び散り、近くにある棚には沢山の本、不気味な標本に、何か生き物が入っているケースなどが乱立していた。


 そして…サーラの視線の先にあったのは大きな檻。


 その中には、この世の物とは思えない禍々しい物体が蠢いていた。


 サーラが動かずに立ち止まっていると、男は振り返りサーラの髪を掴んで、思いっきり引っ張った。


「あぁっ!!」


 サーラが悲痛な声を上げ、ドンドン引き摺られて行く。


 こういう時こそ、その様な才能が役に立つのだろうが昔から運動神経には自信がなく、諦めていた。

 サーラは少しでもトマスに教えを乞えば良かったと後悔する。


「や、やめて下さい!!」


 少しでも抵抗しようと、大声で制止の声を上げるが男は止まる事もなく、サーラは手際良く手術台に乗せられる。


 次々と手、足などを拘束されて身動きが取れなくなるサーラ。


「い、今から何をするか分かりませんけど…この様な事は間違っています!!」


 仰向けの状態でサーラは叫ぶ。


 すると男は、


「今回の材料は元気そうで何よりだ。いつも人型が来る時は元気な物が少なくてな」


 そう、少し笑って言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る