第10話 サイレントカメレオン

「サイレントカメレオンか…」


 ゼルは王城を出てすぐに、王都の城壁の近くまで来ていた。

 そして小さなでこぼこに指を引っ掛け、城壁の上まで登り切ると、森に向かって仁王立ちしていた。


 よし…行ける。


「鷹の目…!」


 ゼルは鷹の目を発動させると、辺りを見回す。辺りには幾重もの木が連なっている。


 なるほど。アルベイル王が言うだけの事はある…此処から見るだけでも恐らく、4匹いる。

 サイレントカメレオンの隠密性で正確には分からないが…まぁ、撃てば分かるか。


 ゼルは背負っていた弓を手に取ると、矢をかけ、弓を引く。


 ギギッ…ギィッ


「…ふっ!」


 バシュッ!!


 矢を射った瞬間、ゼルから小さく息が漏れる。そして、


「………ギャァ」


 時間差で遠くから魔物の叫び声が響く。サイレントカメレオンの眉間には綺麗に矢が刺さっており、いつもなら森に擬態してたり、限りなく透明に近い擬態をしているが、それは解けていた。


 うん…やった。


 その後も3連続で矢を射ると、何処からともなく3匹の魔物の悲痛な叫び声が鳴り響く。


 やっぱり4匹だったか。これなら何とかなりそうだな。

 俺は小さく安堵の息を吐く。


 しかし此処からが本番だ。夜になればサイレントカメレオンを見つけるのは至難の業。今でも見つけづらいのに…夜になるとどうなるんだか…これは明日までかかるな。


 ゼルは鷹の目を発動すると、弓を構えながら王都の周りを囲っている城壁を走った。




「ん? アレは…」


 その数分後。何匹ものサイレントカメレオンを射ってる途中、城壁の上を走るのをやめ、立ち止まり目を凝らす。


 そこにいたのは、大きな木にへばりついている、巨大な魔物。擬態はしていないがサイレントカメレオンと同じ体格をしている。

 その周りには何十体ものサイレントカメレオンが群れを成している。


(…もしかして、アレが今回の大量発生の原因か?)


 そう思ったゼルは弓を構える。巨大なサイレントカメレオンの眉間に照準を合わせると、先程よりも力を入れて引き、そして矢を放った。


「…!?」


(ちっ! 避けられたか…)


 巨大なサイレントカメレオンはその図体には似合わない俊敏さを見せて、矢を避けた。


 今までとは明らかに力の差があるサイレントカメレオン…。あの巨大さに、周りには沢山のサイレントカメレオン。


「これはもう少し時間が掛かりそうだな…」


 ゼルは10メートルはある城壁から飛び降りる。そしてその衝撃を膝で綺麗に吸収すると、一直線に巨大カメレオンとその群れに向かった。


 はっきり言って巨大なカメレオンのみだったら何とかなった。

 だが、厄介なのは群れのカメレオン。最初に親玉を狙って外した所為か、全部木の影に隠れてしまった。これだと城壁の上から狙えない。


 射ってる途中に来られても面倒だけど…1匹ずつやるしかないか。


 そう決めたゼルは、急いで群れの下へ向かった。




(居た…まさかあそこまでの大きさだったとは思わなかったな)


 数メートル先には何匹ものサイレントカメレオン。普通のものは体長1.5メートル前後。

 しかし、あの巨大なサイレントカメレオンは5メートルはある。横幅も普通のものより2倍はあり、重さもあるだろう。それなのにあの速さ…厄介だ。


 気配を消しながら近づく。


 彼方は警戒している様だが、まだ俺には気づいていない。これなら此処から射っても大丈夫そうだ。そう思った瞬間、


「な、何だあれ!?」

「あ、アレは…サイレントカメレオンか!?」

「嘘だろ!? あんなの見た事ないぞ!?」


 3人の冒険者パーティーが大声を上げる。


(…あの巨大なサイレントカメレオンに目が行きすぎたか)


 俺は先輩冒険者パーティーがどの様な対応をするか、観察する。この国の冒険者はどれほどなのか知りたかった。だけど…


「ちっ! 早く行くぞ!!」

「「お、おう!!」」


 3人はいとも容易く引いていく。


(…戦闘をするよりギルドにこの事態を知らせた方がいいと思ったのか。情報をギルドに売った方が恐らく金になるし、戦闘で壊れたりした武具に金を掛ける必要がなくなる。勉強になるな)


「ギャアアアァァァァァッ!!」


 つんざく様な叫び声が鳴り響いた後、サイレントカメレオンの群れが冒険者パーティーを追った。


(お、丁度いい。あの群れは先輩達に任せて俺はこっちを相手するか)


 俺は巨大なサイレントカメレオンの数メートルの距離まで近づくと、弓を射った。


 バシュッ!!


 気配を消し、気付く暇も与えない一撃は、巨大のサイレントカメレオンの頭を貫いた。


 ズズゥンッ


 死んでる…な。

 俺はサイレントカメレオンの元まで行き、ちゃんと死んだ事を確認する。もう心臓も動いてないし、目に生気がない。間違いない。


 だけど、これはアルベイル王に報告しないといけないよな。


 巨大なサイレントカメレオンの様なもの。その下にはその群れ。


 そしてその群れは巨大なサイレントカメレオンの様なものに命令されて動いていた。


 これだけでも驚愕な報告だろう。




 ゼルは膝まづき、矢を刺した所の傷に顔を近づける。


「何で血がなんだ?」


 ゼルは疑問を抱えながらも、まだ途中だった王都周辺のサイレントカメレオン討伐を続けた。

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