第11話 王門にて
「ふぅ…」
「王よ、そろそろ休まれてはどうですか?」
私は椅子にもたれながら、ユリアンから休みを促される。自室にある窓からは眩しい程の光が差し込んでいる。
「何だ…もう夜が明けたのか…」
「そうですよ。もう3日寝てませんよね? そろそろ眠りについた方が宜しいかと…」
「ふむ…そうだな。流石の私も疲れた。少しだけ休ませて貰おう」
椅子から立ち上がると、私は寝室へと向かう。何故こんなにも徹夜をしているのか、それには理由があった。
最近の王都は謎の失踪・誘拐事件が多発しており、その話が王である私にもよく話が舞い込んでくるのだ。毎回ユリアン、警備隊長と3人で話し合って対応してするが、中々収まらないのだ。
トントントン
そんな事を考えながら寝室へと向かう途中、扉がノックされる。
「入れ」
「朝早く申し訳ございません。ゼルという少年がお話をしたいと申し立てているのですが…」
許可を得て扉を開けたのは、白髪で顔に深い皺が刻み込まれた執事長。
その執事長は、昨日あったゼルと言う少年の名前を出す。
(確かあの少年にはサイレントカメレオン等の討伐を頼んでいたな……こんなに早いと言う事は…流石に無理だったか)
「悪いが、今は疲れてるんだ。昼過ぎにまた来てくれと頼んでくれ」
普通に考えれば此処で話を聞いて、後で寝るのが楽だろう。
しかし、王は弱さを民に見せてはならない。今の隈がハッキリと出来ている顔は見せる事が出来ない。それに討伐が出来ていないなら、その話は後回しでも問題ない。
アルベイル王はそう判断した。
「はっ、かしこまりました」
綺麗なお辞儀を見せて執事長は出て行く。
「もし良かったらですが…私が話を聞いておきましょうか?」
ユリアンが私の疲れた顔を読み取ったのか、ゼルの話を聞くのを申し出る。
ユリアンは先代国王から仕えている優秀な文官だ。この男が居るからこそ、この国は回っていると言っても過言ではない。
「頼んでも良いか?」
私は威厳を保ちながら、言う。
「はっ、お任せ下さい」
ユリアンは笑顔でそう言うと、深く礼をし、部屋から出て行った。
ユリアンが出て行った後、私は大きな欠伸をかみ殺しながら寝室へと入って行った。
しかし、数分後。
ガタガタゴトッ! ガタッ!!
(…騒々しいな)
廊下から、ドタバタと普段ではなり得ない足音が鳴り響く。それは決して1人の足音では無く、少なくとも4、5人はそこら中を走っている音が聞こえる。
ドンドンドンドンドン!!
「な、何だ!?」
突然部屋の扉がとてつもない音を立てる。私は急いでベッドから起き上がると、慎重に自室の扉を開ける。
「お、王よ!?!」
そこには大きく息切れをしながら、汗を垂らしているユリアンの姿があった。
「ゆ、ユリアン!? 何だ! 何事だ!?」
部屋から飛び出して、ユリアンの手を取る。ユリアンの表情は青褪めており、今にも倒れてしまいそうだった。
(ここまで動揺するなんて…)
私は王らしく、ユリアンの背中を撫で、落ち着く様に促す。
(何故こんなにも焦っているのか…)
「まさか! 貴族派の連中が謀反を起こしたのか!?」
アイツらは今も私の席を狙っている筈だ。確たる証拠もないが、此処に登り詰めるまでで、怪しい行動が目立った。
しかし、ユリアンは首を横に振る。
「はぁ、お、王よ…。簡単にその様な事を言ってはなりません。…一旦着替えて、中庭まで来て下さっても宜しいですか?」
ユリアンの表情は何処か懇願する様な眼差しだ。ユリアンかこの様な表情になる事なんて早々見られないだろう。
「分かった。直ぐにでも行こう」
私はユリアンの言葉に頷き、上着を羽織り直ぐに部屋から出た。
*
数十分前。
「おはようございます。朝早くに申し訳ございません。今から王と面会する事は出来るでしょうか?」
ゼルは王城の門の前に立っていた兵士へと話しかけていた。
夜の内にもったいないからと、放った矢を全て回収し王城へと直行し終えるとこの時間になってしまっていた。
「あぁ? こんな朝早くから面会? お前みたいなガキがか?」
「はい。王直々に依頼を承りまして、その報告にと赴いた次第です」
兵士からの汚い言葉遣いに、ゼルは少しだけ頭を下げる。
王城で働くと言う事は、最低でも貴族ではないと働けない。それは門番でもあってもそうだ。
此処で無礼を働けば、鞭打ちに遭ってもおかしくない。そう思ったゼルは頭を下げたまま、門番からの言葉を待つ。
「ハッ…王直々の依頼ね。冒険者ランクは?」
門番は見下すかの様にゼルを見る。
「…Fランクです」
「はぁ? てことは初心者じゃねぇか!」
門番は呆れてものも言えないとでも言いたげな態度で、肩をすくめる。
「それで王直々に依頼が来るかよ! さっさと帰れ!!」
「……」
虫を払うかの様に手で払う門番は、それこそ虫を見るかの様な蔑んだ視線を俺に向ける。
此処で帰ったら、アルベイル王と会うのは難しくなるのではないかと、ゼルの頭の中で一瞬にして導かれる。
「どうした? 早くしろ」
「…はい。失礼します」
しかし、だからといって言える訳ではない。相手は位の高い者。初対面の平民に言い返されでもしたら、罪を無理矢理着せられるかもしれない。
ゼルは踵を返す。
「待って下さい」
そこで凛とした声が響く。振り返ると居たのは、黒髪童顔のフルプレートの鎧を着た美騎士。身長は170ぐらいだろうか、少し低い。鎧の所為で鍛え具合は分からないが、立ち振る舞いから相当強い事が伺える。
「こ、これは騎士団長殿!? お、お疲れ様です!!」
門番はさっきまでの態度は何処に行ったのか、背筋を伸ばし敬礼する。
「お疲れ様。それで…その子は?」
騎士団長と言われた人は、目を細めながら此方をジッと見つめてくる。
(何だこの人…)
「あぁ、ただのイタズラ小僧だったみたいです」
門番が持っている槍の矛先が、俺の方に向く。しかしそれは決して戦闘の体制という訳ではなく、相手を舐め切った様子で指を差したと同義だった。
(そう思ってたって訳か…)
ゼルは静かに拳を握る。
「…へぇ? さっき聞いた話によると王直々の依頼って聞いたけど? 確認しなくていいの?」
騎士団長は門番を見て、片眉を上げる。それに対して、門番はドキリッと身体を強張らせる。
(…ここ、だな)
俺は騎士団長に向かい、跪く。
「私はFランク冒険者のゼルと申します。昨日、王直々に依頼を頼まれ、今そのご報告に来た次第です」
そう言って、ゼルは騎士団長に冒険者ライセンスを差し出す。
普通なら冒険者ライセンスを見せて依頼人の元へ行く筈だが、昨日の依頼はギルドを通っていない。その事からライセンスを見せなかったが、騎士団長が来たからには話は変わって来る。
この人には見せた方がいい、そう勘が働いていた。
「ふむ…冒険者になったのは昨日なんだね…」
騎士団長はライセンスをチラッと見た後、ゼルを舐め回す様に見ると、口角を上げた。
「なるほど…中々面白そうだ…」
「え?」
「いや、何でもないよ! とりあえず、そうだな…執事長に伝えておくよ。少し待っててくれるかい?」
一瞬見せた表情は何処に行ったのか、騎士団長はゼルから返事を貰うと、王城の中へと入って行った。
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