第12話 報告

 数分後。


 王城から小走りで出て来たのは、昨日アルベイル王の後ろに控えていた線の細い男。その男は此方まで来ると、俺に向かって少し礼をする。


「ゼル様、改めまして、ユリアン・ハーサイと申します。王はお忙しいので、代わりに私が昨日の依頼のお話をお聞きしますよ」


 ユリアンは笑顔で接する。その隣ではそれよりもニコニコな騎士団長が居た。


 因みに周りを見渡しても近くに門番の姿はない。

 本当に王の依頼を受けていた者を蔑ろにしたのだ。なるべく近くには居たくないのだろう。


 ゼルはユリアンに視線を合わせる。


「分かりました。もう1度確認しますが、依頼は大量発生したサイレントカメレオンの討伐でしたよね」

「はい。流石にお一人では厳しい依頼だと思っていたんです。王も無茶な事をおっしゃいます」


 ユリアンは大きな溜息を吐いて、眉を八の字に歪ませる。


 難しい事ではあったが、決して無茶な依頼では無かった。流石王城の文官、相手が平民だと言うのに、丁寧な言葉遣いで気を遣い、接してくれていると予想ができた。


「ほぅ。君はあの問題を調査したのか」


 その横では興味深いとでも言いたげに顎を触り、考え込むような姿勢をとる騎士団長が。


(調査…? いや、俺討伐の依頼って言ったよな…もう1度確認しとくか)


 何度も言うと無礼と思われるかもしれないが、勘違いされた方が後々面倒になる事が分かりきっている。


「いえ、討伐を依頼されました。なのでご報告にと。全部で約30体程の討伐の成功。その中の1体は5メートルはするであろう巨大なサイレントカメレオンのような物が群れを指揮していました」


 ゼルは淡々と答える。


(まずは討伐した事を伝えてと…)


 それに対して2人は動きを止める。


「「は?」」


(…聞こえなかったか?)


 頭の上にクエッションマークを浮かべる2人。それを見たゼルは相手からの言葉を待つ。


「ちょ、ちょっと待って下さい。色々聞きたい事はありますが、まずゼルさんはサイレントカメレオンを討伐してきたのですか?」

「? そう言う依頼では無かったのですか?」


 俺がそう言うと、またユリアン様の動きが完全に止まる。今の報告で不備があった所はない筈だが…


 そんな事を思っていると騎士団長が此方に来る。そして肩を組む。


「ハッハッハッ!! 良いねゼル君!!」


 騎士団長は天を仰ぎ見て、声高らかに笑うとゼルの頭にポンっと手を置いた。


「ちょっと王城にある中庭まで来てくれない?」

「え?」


 その笑顔を見ると、ゼルは一瞬顔を強張らせる。その騎士団長の表情が誰がどう見ても、優しい笑顔ではなかったのだ。


「ソラン騎士団長!? 何をする気ですか!?」

「ユリアンさん、想像がついてるでしょう?」


 騎士団長は焦って問いだたすユリアンに向かって微笑みを返した。

 微笑みを返す騎士団長を見たユリアンは、顔を青褪めドタバタと王城の中へと入って行く。


(何だ…?)


 ゼルは訝し気にユリアンを見つめるが、その間へ騎士団長が割込み遮られる。


「さっ! 早く行こうか!」


 ゼルは騎士団長に無理矢理王城の中へと連れて行かれた。




 ガチャガチャ


 騎士団長は中庭にある小さな小屋の中に入ると、中から木剣を2本取り出した。


「何故此処に連れて来たのか、不思議とは思わないのかい?」


 騎士団長は此方に木剣を投げると、首をコキコキと鳴らしながら言う。それから、腕を伸ばし、足を伸ばしてと、まるで今から運動でもするかの様に身体を慣らしている。


「…いえ、不思議に思っております。ただの平民如きに…何故この様な事を?」


 ゼルは静かに受け取った木剣を正眼に構える。


「ハハッ、まぁ、ここまで来たら流石に分かるか」


 それに呼応する様に、騎士団長も木剣を構える。


「アルベイル王国騎士団長ソラン・アルファード…君と手合わせをしたい。良いだろうか?」

「…平民如きの私に拒否する事なんて出来ませんよ」

「ふふっ…別にやめてもらっても構わないが…今はそっちの方が都合が良さそうだな」


 中庭の大きさはおよそ縦横50メートル程。その中心に2人は立っていた。2人の間は3メートルもない。


「…いざ尋常に…! 勝負!!」


 アルベイル王国、いや世界でもトップクラスであろう強さを誇る騎士団長が、ゼルへと飛び掛かった。

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