第13話 vs騎士団長
「くっ!」
「これは凄い!! 普通の奴ならこれで終わりだぞ!!」
ゼルと騎士団長は鍔迫り合いを繰り返し、木剣から何度も軋む様な音が鳴る。
(凄い力だ。1度打ちあっただけで手が少し痺れている)
このままでは押し切られると感じた俺は、上手く騎士団長の木剣を滑らし受け流すと、距離を取る。
「力はそうでもないのか?」
「そうですね。私はまだ子供ですから」
「まぁその分、速さと技術はそこらにいる騎士よりもあるけどね!」
騎士団長から怒涛の攻めが行われる。
騎士団長の上下左右、あらゆる方向から出される斬撃に少しずつ押されて行くゼル。
「それぇっ!!」
(これは、受け流せない…!!)
下から持ち上げる様に放たれた一撃に、ゼルの身体が宙に浮かぶ。
(体重差もあるだろうが、それを差し引いても分かる圧倒的な力…っ! まずい!!)
「これはどう避けるかな?」
騎士団長はそう言うと、宙に浮かんだ俺に対して横薙ぎに木剣を振るった。
「
俺はそれを咄嗟に木剣を立てて防御した。
しかしその一撃は、光の様な速さでゼルに迫った。空中に居たゼルにとって、それはあまりに予想外な攻撃であり、空中では受け流す事が出来ない。
ドォン!
「……どうやらここまでの様だね」
「くっ…」
俺は何も出来ず、中庭の端の方まで飛ばされた。そして持っていた木剣は騎士団長からの攻撃に耐える事が出来なかった様で、見事に真っ二つに分かれている。辛うじて攻撃される方向が見えた為対処出来たが、当たっていたと思うと背筋から嫌な汗が流れ落ちた。
(…もう少し続けたかったが…しょうがないか)
「お前ら! 何をやっている!!」
そしてやって来たのはコートを羽織ったアルベイル王と、汗だくのユリアン様。
「安心して下さい。今終わりましたので」
「安心って、お前の事だからゼルの実力が気になったのだろうが……はぁ、それよりもゼルよ。依頼の件で来たのだったな。どうしたのだ?」
まだユリアン様から聞いてないのか。
アルベイル王の格好を見た所、寝てる時に急いで来たって所か。
ゼルは急いで跪く。
「はっ。サイレントカメレオンの討伐完了しました」
「むっ…昨日出したあの依頼か?」
「はい。それと
「待て! 討伐対象はサイレントカメレオンだったな? それを昨日のうちに?」
俺が続きを言う前にアルベイル王が口を挟む。
「? はい。そうですけど…」
またこれか。まぁ仕方ない…俺はFランク冒険者だ。そこまでの信用がないのは分かり切ってる事だ。
「ふむ…では全部で何体ほど討伐した?」
「そうですね…正確には覚えてないですが、30体程だったと記憶しております」
アルベイル王は、ユリアンの方を向く。ユリアンは姿勢を正すと、ずれていた眼鏡をかけ直して頷いた。
「なるほど…ではサイレントカメレオンの素材はどうした?」
「申し訳ありません。1人では運びきれないと判断して持ってきませんでした。なのでなるべく早くご連絡をと思い参上した次第でございます」
「…そうか、ご苦労だった。王都周辺を確認次第、使いを送る。報酬はその時話そう」
アルベイル王はそう言い残すと、踵を返し王城へと戻る。
「待ってください。その他にもご報告する事があります」
「む? 何だ?」
俺は不躾にもアルベイル王を呼び止める。
(これは伝えておかなければならない…)
そう思った瞬間、大きな声が鳴り響く。
「王よ!! あと3分後に会議ですぞ!!」
「ん? おぉ、ギラス卿。もうそんな時間か?」
王城から大柄で筋肉質な男が大きな声を上げ出てくる。
その男はゼルを見ると、目を細める。
「はい…所で王よ…この見窄らしい服装をしたこの子供はどこの子でしょう?」
これは典型的だな…。
「ゼルの事か。サイレントカメレオンの討伐依頼を受けた者だ」
「っ! この者がですか…?」
射殺すかの様な鋭い睨みをしてくる。
その目は、未だに依頼を受けた者として
(やはりこの人は典型的な貴族派って所か)
多くの国では派閥が存在する。
国王派、貴族派、中立派の3つの派閥を基本としている。国王派は国王の機嫌を1番に考える派閥。中立派は何事も状況を見て行動する穏健派閥。この2つは基本平民と接してる時でもあからさまに態度を変える事はない。強いて言うなら少し目つきが鋭くなる事ぐらいだ。因みにアスティラ公爵家は典型的な国王派だった。
そして残りの貴族派。あからさまに態度を変え、貴族が最も偉いと平民を奴隷の様に思っている過激派。
最初公爵家に連れて来られた時は、この様な扱いを受けていた。少しは慣れている。
「Fランク冒険者のゼルと申します。お見知り置きを」
俺が跪き、頭を下げると大男は鼻で笑った。
「ハッ! Fランク冒険者? ただの初心者ではないか、ここに居るのも烏滸がましい。早く失せろ」
そう言うと大男は、アルベイル王を誘導する様に王城へと導く。
「待って下さい、アルベイ
「口を慎め平民!! 王はお忙しいのだ!! くだらない話で時間を使うのではないわ!!」
大男は俺の言葉を遮って、大声で叫ぶ。
「ゼルよ、また今度話そう」
アルベイル王は申し訳なさそうに眉を八の字に歪めると、王城の方へと戻って行った。
(あの魔物の事を伝えなければいけなかったのに。どうするか…そうだ! これをガンツさんに話せばどうにかなるかもしれない!)
俺はアルベイル王の姿が見えなくなった後、立ち上がる。そこですかさず、騎士団長が話し掛ける。
「何かあった様だけど…それよりも君、騎士団に入る気はないかい?」
「……」
後ろを振り返ると、真剣な眼差しで此方を見ているソラン騎士団長が居た。
「何故私なんかを? 私の実力は先程分かった筈ですが」
「分かったからこそだよ。君の年齢でそこまで出来る子はいないよ」
「……いえ、私の様な実力で入る事など出来ません。それに…」
「それに?」
平民の俺が入っても貴族の人達の規律を乱すだけだ。
「いえ、まずは冒険者で実績を積んでみたいと思います」
「……君ならもう実績を積まなくても大丈夫だと思うけどね」
「…失礼します」
俺は騎士団長に礼をすると、中庭から出て行った。
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