第14話 Sランクパーティー

「こんにちは、エリナさん」

「あらゼルくん、こんにちは。今日はどんな用かしら?」


 ゼルは王城から出た後、ギルドマスターであるガンツにいち早く知らせる為、ギルドに来ていた。


「申し訳ないんですけど、ガンツさんに会う事はできませんか?」


 ゼルが聞くとエリナの眉尻が下がり、困ったように笑う。

 他の受付嬢を見ると人目を憚らず、背伸びをしたり、欠伸をしたりしている。


 エリナさんの顔をよく見ると顔色も良くないように思える。


「ごめんね。ギルドマスターとは簡単には会えないの。この前は偶々時間が空いてたけど、普段は忙しい人だから」

「でも緊急の知らせなんです!」


 ゼルは緊急性を伝えるため、少し語気を強める。それにエリナは驚いたのか、少し身体を強張らせる。


(ビックリさせてしまったか…でも伝えないと…)


 そう思っていると、


「おい、お前」


 背後から何処か聞いた事がある様な声が聞こえてくる。振り返り、そこに居たのは3人の冒険者グループ。装備を見ると、純粋な剣士。その剣士の男が顎を上げ、見下すかのように喋る。その後ろには女が2人。黒いローブを被り、杖を持った魔導士風の女の子と、拳に棘の様な突起が付いたグローブを着けている武闘家の様な女の子が心配そうに男を眺めている。


「…何ですか?」

「お前、新入りだろ? 此処には此処のルールがあるんだ。出しゃばると痛い目に遭うぞ!」


 男は俺の胸倉を掴んで眉間に皺を寄せる。


(この人達はあの時の…)


 ゼルの目の前に居る冒険者はサイレントカメレオン討伐の際、大量のサイレントカメレオンを惹きつけてくれた冒険者。恐らくギルドに巨大なサイレントカメレオンの事を知らせたであろう者達だ。

 あの時は助かった。あのサイレントカメレオン達が居たら、あそこまで上手くいかなかっただろう。


 まぁ、それを俺が倒してしまった訳だが。


「ふん! こんな事でビビってる様じゃ、冒険者はやっていけないぜ!」

「ちょっと! アレン! そんな子供に突っかからないでよ!!」


 その時、武闘家の女の子が剣士の男アレンを止めに入る。


「うるせぇぞ、ミーサ!! こういう奴には指導が必要なんだよ!!」


 俺の首元がさっきよりも強く締まる。エリナさんの方を見ると、唇を噛みしめながら此方を見ている。どうやらギルドの方からは関われないって事らしい。


「ちょっとやめなさいって!! ソフィも手伝ってよ!!」


 2人はもう俺の方を見ていない。もはや喧嘩と言っても過言でもないだろう。

 呼ばれたもう1人の魔導士の黒ローブの方を見ると、つまらなそうに此方を見ている。周りに座っている冒険者は少しイラついているのか、舌打ちをして居る者もいる。


(しょうがないな…)


 まだ冒険者になったばかり。

 あまり印象は悪くしたくない。ここは俺がどうにかするしか…なるべく穏便に済ます。


 俺は2人に聞こえるように大きく溜息を吐く。


「あぁ? 何だよお前? 俺に喧嘩売ってんのか?」

「ちょっと!」


 アレンの顔がゼルを威嚇するように近づく。


「いえ…このままだと周りの冒険者の方々から袋叩きにされそうだったので、1回落ち着こうと思ったんですよ」


 そう言うと2人は周りを見渡すと、見るからに動揺している。自分達が何をしたのか分かった様だ。


 此処は名高い冒険者の国、アルベイル。その本拠地である王都の冒険者ギルド。俺を除けば、周りに居る者ほとんどが強者だろう。その者らから攻撃されるとなると大変なことになる。


(もしこの人らが、あの有名なSランクパーティーとなれば話も変わってくると思うが…)


「ちっ!!」


 アレンはゼルの胸倉を掴んだまま、ギルドの出入り口に向かう。

 ゼルの体格は16歳という年齢の割には、とても小さい。片手で引き摺られながら、ゼルはまた大きく溜息を吐く。


(俺を引き摺る辺り、力もないしこの動揺している顔からしてSランクパーティーではないな)


 しかし、大事にはしたくないと思ったゼルは大人しく引き摺られる。


 ギィ


 ギルドの扉が開かれる。


 だが、それは引き摺っていた男が開けた訳ではなかった。


「おい、早くしろよ。もう既に大分遅れてるからな」

「アマンダがそんな事言わないで」

「お前が起きれなかった所為だろうが」


 3人の者らがギルドへと入ってくる。


「なっ!?」


 男が驚きの声を上げる。


「あぁ? お前ら何してんだ?」


 頭を痛そうにしている大柄な女の人が男へと話し掛ける。


 これがSランクパーティー”天上の宴”との出会いだった。

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