第6話 Fランク

「名前はゼル君でよかったですよね? はいこれ、冒険者ライセンスです」

「ありがとうございます」


 カウンターでエリナさんからライセンスを受け取る。ライセンスには大きくFという文字が記されている。


「これがゼル君の冒険者ランクになります。最初は皆さんFランクからの出発になります」


 エリナさんがライセンスを指差しながら説明する。


 これで俺も正式に冒険者になった訳だ。これからはドンドン依頼を受けて、ドンドン強くなって、村の皆んなを贅沢の生活を…!


「これからは依頼や試験を受ける事で冒険者ランクを上げて行く事になります。勿論、ランクを上げるかは自由で構いません」

「ランクを上げる事のメリットはなんですか?」

「ランクが高くなると、難易度の高い依頼を受ける事ができますので報酬が大きくなります」

「デメリットは?」

「…そうですね。その分、位の高い者に目をつけられやすいです。この国ではそのような事は滅多にありませんが、他の国となると多くあり、冒険者稼業をしていくには支障をきたします。あ、勿論良い方も沢山いらっしゃいますよ?」


 位の高い者…。


「それと1年に1回は依頼を達成しなければライセンスは失効されてしまうので、もしかしたら…冒険者を引退する事になってしまうかもしれません」


 なるほど、お金は今すぐにも欲しい。


 試験…いや、依頼を受けて分かったが、思ってた以上に冒険者というのは大金を稼げる。今日の報酬は300万ゴールド。前の給金と比べれば、今日だけで30ヶ月分を貰った事になる。

 今回は運良く依頼を達成する事が出来たが、今よりもっと強くなれば日常的に大金を稼げそうだ。


 だが問題は位の高い者。

 エリナさんは濁してはいるが、恐らく貴族の事を言っているのだろう。貴族に雇われるよりも、大金を稼げる冒険者を引退する事になる…これは避けなければならない…。


「分かりました…」


 俺はエリナさんにそう言うと踵を返し、ギルドから出て行った。


 宿に戻ると、風呂につけて置いた自作の服の汚れを取り、干す。


 そしてカバンの中から、異様な雰囲気を纏った真っ黒な服を取り出す。


「とりあえずは…」


 ゼルは手にある真っ黒な服を着ると、宿の部屋の窓から屋根へと軽快な動きで移る。


(周辺の地形を理解する…)


 狩人にとって…弓を使う者にとっての位置取りとは、相手を狙撃する場所の事を指す。

 つまり、一撃で相手に致命傷を与える事が出来る場所。


 ゼルはいつも事前準備を怠らなかった。

 公爵家に居た時は成果を上げる為に全力だったが、身体を鍛え、それ以上に知識を詰め込み、戦略を練った。


『ここからなら頭を一撃で狙える…それに逃げ道も確保できる』


 事前準備を怠らなかったから生き残り、そして成果を残した。


 此処は元居た国とは違う。何も知らない土地に環境、法さえも違うだろう。

 今の俺はさながら、猛獣の潜む森に放り出された草食動物…だな。


 ゼルは静かに音を立てずに王都の街を飛ぶ。




 *


 そこは整理整頓が行き届いた部屋だった。しかし、今は机の上には山の様に積まれた書類が積み重なっている。


 その机の主人は目にクマを作り、肘置きで頬杖を着きながら正面に立っている男の話を聞き流していた。


(毎日こんな書類に目を通すばかり…気が狂いそうだ)


 男は退屈していた。前までは何か面白い事はないかと出掛けていたが、今ではそんな事出来る立場ではなかった。


「〜…氷土竜の群れの討伐、スターキャットの捕獲、それと…」

「何だと? 今なんと言った?」

「は? 氷土竜の群れの討伐ですが…」

「違う! その後だ!!」

「は、はっ! スターキャットの捕獲でございます!!」

「…ふむ。あの報酬金でやった者が居たのか?」

「はい。どうやら…偶然捕まえたとの事です」

「偶然…偶然捕まえる事が出来たら5年も放置される依頼ではない筈だがな…」


 あの依頼はBランクパーティーでは捕まえる事が出来ない。Aランクパーティーでは捕まえる事は出来るが時間と労力、報酬金の低さで受けてもらえない問題の依頼だった筈だが…


「依頼達成者の名は?」

「はっ! ゼルと言う者です!」

「ふむ…そうだな、後日此処に来るようにしてくれ」

「はっ!」


 男はこめかみをトントンと叩くと、また書類に目を通し始めた。

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