第37話 手掛かり

(何だ今の口振り…まるでアイツらの正体を知っているかの様な…)


 俺は壁を背に聞き耳を立てようと、扉に耳を近づけた。


 その瞬間。


「ゼル君、こんな所で何をしてるの?」

「ッ!?」


 背後から名前を呼ばれ、俺はすぐ様そこから距離を取る。


 そこに居たのはソラン騎士団長だった。前会った時のソラン騎士団長とは違う、高級そうな半袖にズボン、私服姿だった。


 何より…。


「……ソラン…騎士団長、様…思ってたよりも細いんですね…」


 そこには身体の線が俺と変わらないぐらい細く、華奢な体型をしている人が居た。


「様なんてつけなくて良いよ? 気軽にソランでも良いよ? と言うか、私の事を太ってたと思ってたのか?」

「いえ…とても力が強かったのでもう少しガタイが良いのかと思っただけです」

「そんな…ハッキリ言わなくても…」


 ソランは少し落ち込む様にしてボソボソと呟く。


「はい?」

「あ、いや、何でもないよ。それよりゼル君は何でこんな所に?」


 ソラン騎士団長が俺に問い掛けた瞬間。すぐ横にあった扉が開かれ、男が1人怖い表情で出て来る。


「そこで何をしてる」

「あ、すみません。今少し知り合いが…あれ?」


 ソランは辺りを見回すが、そこには誰一人居ない。




(ふぅ…)


 ゼルは扉が開くのと同時に反応して、近くにあった柱の裏へと隠れていた。


(あの話…もっと聞いておきたかったが…今はソラン騎士団長から逃げる事が第一。それに部屋の中にいる人の実力も分からないで、下手に危険な真似をするのも悪手…)


 ゼルは、ソランと男が話し合っているのを横目に見ながらも王城から出た。




「どうだった?」

「居ませんでした。何の手掛かりも…」


 俺は王城からそのまま宿で休みを取った後、ギルドの前でトマスと落ち合っていた。


 トマスの目の下にはくっきりと隈が出来ていた。どうやら一晩中探していた様だ。そう言えば会った時も顔色が悪かった。


 あのスラム街ぐらいなら一晩も掛からないと思ったが、もしかして他の所も探していたのか。だが、それでも手掛かりはなかった…。どうしたもんか。


 道の隅、2人で悩んでいると。


「ゼルさん、ですよね?」


 突然、何処か聞いた事がある様な声が聞こえて、俺は振り向いた。


「ユウさん!」


 振り返った先には、Sランクパーティー。天上の宴の魔導士、ユウが居た。


 何でこんな所に…いや、ギルド前だから普通か。でもユウさんから、わざわざ話しかけてくるなんて嬉しい様な、ちょっと嫌な様な…。


 ゼルはユウの並々ならぬ異常とも言える気配から、苦手意識を抱いていた。


「えっと…ゼルさんはこんな所で何を?」


 ユウさんは笑顔で俺に問い掛ける。


「えっと、少し個人的な事です」

「…そうですか…何か困り事ですか? 良かったら手伝いますよ?」


 ユウさんは首を傾げ聞くと、俺とトマスの間に両者の顔を覗くようにして割って入る。


 それに対して俺が、どうする? とトマスに目で訴えると小さく頷いた。


 トマスも流石にこの王国Sランクパーティーの一員だと、分かっていた様だ。しかも即決。トマスからは早くサーラを見つけ出したいと言う気持ちが表れている様だった。


「…じゃあ、お願いしても良いですか?」

「はい!任せて下さい!」


 そう言うと、ユウさんは胸を叩いた。


「で? 何をお手伝いすれば?」

「実は私達はある人を探しているんです」

「人探しですか…」

「はい。なので良かったらこれから一緒に

「すみません…実はこの後用事があるのであまり時間は…ですけど、この王都に居るかの確認は出来ますよ?」


 ゼルの言葉を遮り、ユウは言った。王都に居るかどうかは分かると。


 それに対してトマスは驚愕の表情を浮かべて、ユウに問いかける。


「本当ですか!?」

「はい。その探している人のいつも持ち歩いている物とかがあったらですけど」


 ユウが言うと、トマスは急いで懐に手を入れてある物を取り出す。


「ハンカチですが大丈夫でしょうか?」

「はい。大丈夫ですよ」


 それを受け取ったユウさんは、大きく息を吸い目を閉じた。そしてその状態で数秒経った後、大きく目を見開いた。


 その瞬間、俺の身体に何かが通り抜けて行った感触に襲われ、背中に鳥肌が立つ。


「…王都の中には見当たりませんね」


 ユウさんは大きく息を吐くと、呟いた。


「今ので分かったんですか?」

「はい。このハンカチから感じ取った魔力を探したんです」


 魔力? 何を言ってるか分からないが、今はそれどころでは無いな。俺はトマスの方を見る。


「行きましょう!」

「ありがとうございます」


 トマスは叫ぶと、門へと走った。俺はユウさんへとお礼を言うと、トマスを追いかける様に走り出す。


 ユウさんは終始笑顔だった。


 貼りついた様な笑顔。…自然過ぎると言えば良いのだろうか? 俺と天上の宴のメンバーの別れ方は良いものとは言えなかった。それなのにこんな風に接するだろうか?


 考え過ぎ、か?


 ゼルは少し考え、今考える事ではないと、気持ちを切り替えた。




 *


「ふぅ…上手くゼルさんの魔力波長を確認出来て良かった…。これは早く2人に報告ですね」

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