第25話 路地裏にて

「さてと…リゼは此処で待ってて」

「ピィ」


 俺は路地裏に入り、リゼを近くにあった箱の上に座らせると、それを背にする様に振り返った。


「…出て来い。いる事は分かってる」


 すると、路地の角から5人の男が現れる。

 風貌はボロボロで髪もボサボサ、浮浪者の様だ。


「よく分かったじゃねぇか?」


 上から目線でゼルを見下ろすその男は、無防備にも何の構えも見せず、ゼルへと接近する。


「ちょ〜っといいか?」

「…何だ」


 俺が一言聞き返すと男は言った。


「その鳥、随分綺麗だな? 真っ白い羽に、さっきのフルーツ屋でのやり取り、相当頭も良さそうだ」


 男達はリゼを見て感嘆の声を上げる。

 しかし、その何処かリゼを値踏みするかの様な視線。ゼルにとっては不快でしかなかった。


「…それで?」

「その鳥を俺達に譲ってくれないか?」


 1人の男が笑顔で飄々と言った後、その後ろに居る男達が堪え切れないと言うかの様に笑う。


「別にお前に損がある訳じゃないぞ?」

「…」


 ゼルは男を見上げる。男の顔は、酷く汚い笑いでゼルと肩を組む。


「お前の鳥は俺達の役に立つんだ。お前の今の状況を考えれば…鳥を渡せば自分の身は守れるぜ?」


 男はそう言って大声で笑った。


 自分の身を守れる、その代わりに仲間を差し出せば良い。




(そんな事をするぐらいなら死んだ方がマシだ…)


「言いたい事はそれだけか?」


 聞き返すと同時にゼルは男を睨む。ゼルの眉間には深く皺が刻み込まれる。


 そして、そのゼルの眼に男は少し後ずさる。


「お、お前、そ、その目

「…」


 ゼルは後ずさる男の腕を引いて、顔を近づけさせると2本の指で男の両目を貫いた。


「ギャァァァァァーッ!!?」

「お、おい!?」

「テメェッ!?」


「…」


 ゼルは目を抉った男を尻目に、ダルそうに男達の方を振り返った。


 その日。街の路地のある一角で、4の男の死体が見つかった。死体は無惨に全てのおり、その傷はそこから脳まで達せられていた。


 悲鳴が聞こえてから、数分で警備隊が訪れたが、もう犯人は居らず、足取りも何も見つからなかったと言う。




 *


「ふぅー、やっと着いたな」

「あぁ。早くあの事をギルドマスターに知らせに行くぞ」


 王都に着いた私達はなるべく早足でギルドへ向かっていた。その途中。


「…妙に騒がしいですね」


 ユウは周囲を見渡しながら呟く。


 周りはいつも以上に賑わっていた。不穏な意味で。

 皆んなの表情は何処か暗く、心配そうな雰囲気を纏っていたのだ。


「何かあったのか?」


 私はすぐ近くのフルーツ屋の店員へと話しかけた。


「あ、あぁ、って!? Sランクパーティーのアマンダかい!?」


 店員は驚いた様に目を見開き、固まる。


 名が売れている事は良い事だが、これでは情報収集の時に不便なんだよなぁっと、心の中で思いながらも引き続き問いかける。


「あぁ、それよりもこの騒ぎはなんだ?」

「じ、実はさっき路地裏で4人の死体が見つかったらしい」

「死体? スラム街の者らのか?」

「そ、そうさね」


 スラム街の浮浪者なら、餓死しててもおかしくない。しかし、4人ともなると…。


「殺人か…」


 ボソッと呟く。


「よ、よく分かったね、その人ら全員の目が抉り取られてたんだよ」


 目を抉り取られていた、相当の残虐性だ。そいつらが相当恨みを買っていたか、それとも無差別なのか…。


「最近の王都は騒がしいねぇ…」




 *


「何でリゼを狙った? こんな事を他でもしてるのか?」


 ゼルは王都を探索した際に見つけた廃屋にて、1人の男を縄で縛った状態で一緒に居た。男の足は普通とは逆方向へと曲がっており、目からは大粒の涙が流れていた。


「は、はい…」


 普段のゼルならこんな尋問の様な事はしない。こんな慈善事業の様な事をしても自分の為にはならないからだ。

 しかし、これにはリゼが関わっている。リゼの姿は暫くこの小さな姿。もし、1人になった時に襲われでもしたら、もしもの事があるかもしれない。それを考えたら居ても立っても居られなかったのだ。


「何の為だ」

「わ、分からないです」

「…まだ足りなかったか?」


 俺は立ち上がると、あからさまに指を鳴らしながら男へと近づく。


「し、知らないんだっ!! 俺達も何も知らされていないんだっ!!」


 先程まで容赦なく痛めつけた。仲間だった奴らも目の前で容赦なく始末した。それなのに言わないと言う事は…。


(本当に知らないのか…)


「お、俺達がやってた理由はこれで金が貰えるから…それ以上は何も知らないんだ!!」


 男は怯えた表情でゼルを見た。その表情は青褪めており、今にも腕のロープを解いたら身体を引き摺ってでも逃げて行きそうだ。


「なら何処でその仕事を引き受けた。答えろ」


 威圧する様に言う。


「ひ、東にあるスラム街の近くだ…」

「…あそこか」


 ゼルは王都周辺を探索した際に、見た風景を思い出す。東はほぼ高い建物が存在しない平屋の建物が多かった。それに全体的に老朽化も進んでおり、人もあまり裕福そうな者はいなかった。

 王都の夜探索した際は、此処はあまり狙撃ポイントは見つからないと早々と立ち去った覚えがある。


 しかし、あそこなら似た建物も多いし、警備隊などが行く事はそうないだろう。警備隊も貴族。好き好んでスラム街に行こうと思う者は居ない。


「なるほどな…」


(この王都で立派な隠れ蓑になるって訳か)


「も、もう良いだろ…」

「…ダメだ。正確な場所を教えろ。もし間違った場所を教えたら…お前の仲間みたいにしてやるよ…」

「ひっ! ば、場所は…」


 ゼルは男から正確な場所を聞くと、その廃屋に男を置いたまま東のスラム街へと向かった。

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