第5話
十二
帳の降りきった深夜のことである。
伊集院と真由美は、睡魔に抗えなくなっていた。堕ちるように意識だけが隔離される。
息づかいを感じないことで、ふらふらと漂うように分離され視界も変化する。
同じような風船があちらこちらで漂い、尾を引くような波がある。その時、風船のひとつに取り込まれた。
「これが主素というもので、感性が発するエネルギー波です。因みに、元素ではありません」と、うさぎの声が聴こえてきた。辺りを見渡しても、声の発信元が見当たらない。
実体を持たないことで、自身が御霊であることを理解した。
主素に包まれた意味も分からずに、風船が動き始めた。抵抗力を感じなかった。速度でさえ身に圧迫感を与えてない。動いているのは、自身の方である。
ひと息の感覚で、多くの星が見渡せる場所まで来ていた。それでも動きが停まる気配が無い。気付いたときに、括りの意味が理解できた。超銀河団・銀河団・銀河群・銀河が塊に見えている。
統率された塊に疑問を抱いた。再び動き出して、その疑問が解消されるだろう。うさぎが語ったことを、見せて教える為の徘徊だと思い知らされた。
宇宙の神秘を
人が理解に苦しむ理由は、始まりが曖昧で、みるべきものを見落としているのだろう。視ない振りが蔓延していて、争いを避けることが世渡り上手になっている。
たった三つの行動しかできない元素からしてみたら、思考回路の活用すらできないのか、と言いたいはずである。
つまらないことを妄想しているうちに、境界線にあたるフィラメルト(繊維)シート(壁)にたどり着いた。
聴き慣れない用語に、思考回路がフル回転する。
端的に言えば、帯でできた網となる。電磁波を管理する帯が網状に続いている。
競技場で使用されるメガホン型をしている意味は、回転力を生み出すものだろう。帯電の為に、左右上下の交差部分が、結び目のようになっている。
調べる手段がないことがもどかしかった。太陽光などの光との関係性が必ずある筈である。エネルギーを作り出す仕組みは、無限の可能性を秘めている。と考えられた。
人が見倣うべきは、無限に広がる宇宙にある。引用する為に、夢になったのだろう。宇宙の仕組みを知らずに、先走った感が否めなかった。
幽体離脱をした時に、尾を引く波の存在(電磁波)を知った。今視線に映るそれが、フィラメルトシートに跳ね返った。接点の前と後では、勢いが違う。
活力源を補充して、磁石のように弾き飛ばされている。
リニアの構想は、正にこの原理の応用であろう。擁した時間を
再び移動を開始した。というよりも、大元にあたるブラックホールに引き寄せられている。吸い込まれることに恐怖を抱いた。闇に包まれるよりも、恐怖感では凌いでいる。
リスタートが意味するものは一からのやり直しである。
次に停まったところから見えるものは種別である。天の川銀河群のような渦巻き銀河・棒渦巻き銀河・楕円銀河・レンズ状銀河・不規則銀河・降着銀河と説明が聴こえていた。
『円盤(ディスク)の外周をハローと呼び、中心をバジルと呼ぶのです。これは直径十万光年のもので、元になるブラックホールの直径まで育ちます。超えた時に電磁波に流されて渦巻き形状になるんですよ』
声色が、うさぎのものではない。
「感性様」X2
徘徊はこの呟きで、強制終了になる。
宇宙にない生命体の存在が、秩序を乱すと考えたのだろう。うさぎの説明は、思念で送られていた。
瞬く間に躰に戻って来た。その衝撃を圧力に変え、植物人間のように眠る躰との合成に成功した。吐き出される息から、主素が出ていく。
伊集院が呟いたことを後悔していた。
真由美は、「乙女の睡眠は、宝石よりも価値がある」と夢の中に消えて行った。
うさぎは、「有難う御座いました」と、感性に感謝をしている。
『また遊びに来なさいな』と、感性が思念を送っている。
拈華微笑を使えるのは未だ、うさぎだけであった。
十三
伊集院が寝ても覚めても後悔にくれていた。
日曜に家から出ないことは、ざらにある。
元素殺人事件の解明は、大凡のことを知り得ていた。余力となる宇宙の真実は、誰かに話したところで、変人扱いを受けるだけだろう。
話せる相手である真由美には、
「本懐を遂げたから、これからは会いに来る必要も無くなっちゃったね」と、釘を刺されていた。
後悔から導き出したものは、
『振られた事実を受け入れられない女々しい男を演じる』であった。いきなり姿を消すことに、ただならぬ不安を抱いていた。
不安を抱えていても、帳は容赦なく降りてくる。全てのものに平等を貫くのは、帳と刻が背負う使命となっていた。
平等を貫くもののもうひとつが太陽である。雲という放射を阻むものもあるが、分け隔てがないものと言えるだろう。
人が必要とする酸素が、宇宙には少ない。光の放射が行き届いていないから、闇の部分が多くなるのである。当たり前と考える現代人には、生きていることへのご褒美と知る由もなかった。
伊集院が暇をもてあまし、中里に連絡を入れた。逸る自慢話を呑み込んでいる。
「一二三か。早急に話しておきたいことがある。直ぐに国会図書館に来てくれよ」
伊集院に喋らせず、言った途端に通信を切っていた。
『せめて良し悪しだけでも言って欲しかった』伊集院は苦笑いで繕いながら、国会図書館に向かっている。
入り口の自動扉を
「米国が内密に慌ただしく動いているぞ」
「中東で紛争でも起きたかな」
「公式じゃないが、NASAが情報源らしいぞ」
「新星でも見つかったのかなぁ」
「日本時間の土曜深夜に未確認生物を、レーダーが捉えたらしい」
「・・・」
「おいっ、地球外生命体だぞ」
「心当たりがあるよ」
「なにっ」
「僕と真由美さんと、うさぎさんだと思うんだよね」
「土曜は、デートだって言ってたじゃないか」
「うさぎさんに会っていたよ」
「本懐を遂げたってことは解るが、地球外生命体が一二三という理由にならないぞ」
「想像の追い付かない真由美さんと僕に観せるための徘徊だったと思う」
「観せる為の徘徊だと。人間が単独で宇宙遊泳するなんて信じられる訳ないだろう」
「創世主にとっては訳のないことなんじゃないかなぁ」
「創世主って、神様ってことか」
「森羅万象での創世主は、感性様だよ」
「どっちだっていい。・で、どうだった、宇宙遊泳は?」
「信じるものだけが掬われる。だよ」
伊集院は言うと、歩き出していた。
中里が、「待てよ、一二三」と後を追っていた。伊集院がせせら笑う後ろ姿に、自信が漲っている。対照的な中里は、縋る姿が滑稽に映っていた。
信じなくてはいけないもの
信じなくていいもの
世の中に満ち溢れている『想い』
救うべきものを見定めて、掬いあげよう
自身が救われるかも知れないから
人がするべきことは、調和に勉めること
すべての生命体の想いに応えること
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