第21話
三十三
今回許りは、誤魔化す手立てがなかった。とは言え、公衆の面前で講釈を垂れたのである。噴き出す汗を拭いながら、トイレに避難するしかなかった。
うさぎの歩様を、拍手で迎える者に気付いた。石と斉藤が一般人に扮して座っていた。袖にした石が気になるのは理解出来る。二人の仲の良さも知っている。見渡すと、一般人に紛れて、全員の姿が確認出来た。
「どうして・・・」
うさぎの思考は混乱していた。
「まるちゃんの歓迎会は、赤瞳さん抜きじゃ始まらないからねぇ」
「同じ轍を踏まないのが、僕たちだからね」
「また、拉致されるとアイテムが増えるかも知れないけれど、気を揉むのは嫌だから」
「今日は、1・2・さん吉にしよう。アソコはタバコが吸えるから」
「予算が増えたんだから、ステーキにしようよっ」
「私は血圧が心配だから、さん吉の方が良いですね」
「玉葱マシマシですか」
石が何時になく、おちゃらけていた。
団欒の中で、衝撃的事実が明かされた。
「テロ組織に便乗して、国内のブラック企業が、悪巧みを始めたようです」
「ブラック企業」
「非社会的勢力のことでしょうか」
「裏社会のやり取りは、米国からのお土産のひとつが教えてくれます」
「お土産って、幾つあるの」
「内緒の話しですが、三つあります」
「ひとつは、特効薬でしょっ」
「もう一つは、パソコンです」
「パソコン?」
「裏社会のホームページにアクセスした端末を教えてくれます」
「端末だけですか」
「やり取りを送ると、足がつくと言ってました」
「開かずの扉みたいだね」
「米国さんは、冷や水を呑まされたんだろうな」
「管理を突き詰めると、そこに辿り着くみたいですね」
「それで」
「日本の企業で失敗していることから、偽物を掴まされたようです」
「どういうことぉ」
「杉野の失敗で、日本での拡散を諦めたの」
「内閣府をはじめ、私たちの情報を集め始めたんじゃないかな」
「石ちゃんの読み通りだと、観察されていることになるね」
「赤瞳さんの監視が、私たちに及んだだけじゃないっ」
「それって、特効薬があることを教えたことなんじゃないの」
「米国さんが、死刑囚で臨床した理由なんじゃない」
「でしょうね」
「でしょうね、ってお気楽過ぎなんじゃないの」
「俺たちは何時でも、出たとこ勝負だろう」
「だよねっ」
「その為に注意を祓っていたら、電磁波が、臭素の
「臭素」
「匂いの元ですか」
「臭素は既にあるよね」
「私は、臭素がひとつに見えないです」
「ウランの例がありますから、変化も考えられますね」
「どういうこと、高橋」
「92番のウランは、103番のローレンシウムまで変化します」
「カロリック説だったよね」
「熱物質説、又は、熱運動説と言います」
「運動説で考えるなら、原子力に付随しますから、元素ではなく原子と観る科学者も居るはずですね」
「単独分離出来れば、一大発見だな」
「変化するか、更に分離出来るかは、人の領域を超えるんじゃない」
「四人で盛り上がってないで、皆に判るように話してくれないかなぁ」
「質量数から説明するかい」
うさぎは考えてから、語り始めた。
元素とは、感性の想いから造られた現実物である。基本になることから、一番小さなものとされてきた。その概念を覆したのは、質量数という考え方である。
水素の質量数を一とすると、炭素は十二になり、窒素は十四で、酸素は十六になる。
元素式で例にすると、H2O(水)は、2Hにならない。
正確な比重はH16 Oであるが配列にすると、H2Oが八個集まれば良い。
水の雫を円とすると、円満に至るのである。水槽の水に至っては、四方八方を埋めるので、帰化を遅らせている。空気に曝される水素が酸素を抑え込むことで、水は時間の経過で腐るのである。
酸化(風化)は酸素の伸縮が引き起こす作用である。運動する習性を持つ酸素は、触手の組み手を変えることで、生き続けるのである(流れていれば腐らない)。
運動が齎すものが熱量である。熱量を維持する為の運動は未だ発見されてなく、運動が限りなく続く理由も解き明かされてない。
蓄えられた熱量に、放射物質が集まることで光が発生する。抵抗力が生まれれば、放射性物質が剥がされて光も潰えるので消えてゆく。
様々な作用をする元素は作用点を残して線として繋がっている。振り出しに戻るループは循環の法則に従ったものである。
臭素がウランと同じなら、振り出し(臭素)に戻るループがあることになる。一説として研究をすることもできる。利益を考えるならば、花々の成分を抽出して好みのものを造る方が、効率も利益も見込めるのである。
「世知辛い世の中を変えるには、概念・観念を変えるしかないのかなぁ」
「今の私たちは、手詰まりではありません」
「赤瞳さんが居ない時に発表すれば、時間稼ぎにはなりましたね」
「高橋さんに、今の語りが出来たなら、なんじゃない」
「わたしは今の語りで、目から鱗が落ちました」
「赤瞳さんの重ね合わせを真似できる人は少ないですからね」
「伊集院さんにしても、言うことを理解出来るだけだもんねぇ」
「経験値の問題だからね」
「それでも赤瞳さんは、長生きして良かった、とは言わないですよね」
「高橋、それを言っちゃ駄目だよ」
「凄いことなんだけどなぁ」
「茶番は、それ位にしましょう」
「明日から、執務室で学習することにしよう」
「いきなりですか、室長」
「何時までも、老人に頼ってちゃ、埒が空かないからな」
「わたしたちは、馬じゃありません」
「よく言った、高橋」
バカ話しというが、下らない話しの中にも為になることがある。当たり前の日常の中に幸せがあることと同じである。和みは、笑うことの当たり前を知ることなのである。
三十四
勉強会は順調? に進んでいる。
皆が集中している
班長は今、連続殺人事件の犯人を追っている。被害者に共通点は無く、現場に法則性もないと語った上で、お手上げと溢す始末である。
今、武蔵小杉で連続殺人事件と思われる死体を前にしている、と言った。
斉藤マルコスは、それを声にして復唱した。斉藤が、「詳細を聴いて」と言い全員が、出向く準備を始めた。時間制限を越えているが、偽物の可能性が向かわせた理由である。
JR南武線と東急東横線の間にあるその場所は、開発を逃れた空間というしかなかった。
バスロータリーの移設の噂を聴かない上に、JR横須賀線との三角内から外れているのである。
駐輪場や駐車場にする予定もない場所で、変死体が出ていた。
うさぎはバスロータリー横にある薬局に走った。戻るなり、黄色30㏄投与して下さい。と伊集院に告げて、高濃度酸素のスプレー缶で鼻と口を密閉した。薬局で購入したものである。
偽物は、体内酸素を凝固させる為の、炭素と見立てられた。元素兵器と呼べなくもないが、人の躰の収容量を越える炭素を排出できれば、害とならない。一酸化炭素として固まる前に、高濃度酸素で二酸化炭素に変えてしまおう、と考えたのである。
うさぎは、『電素があれば、マッサージも要らなくなる』と考えていた。石が横で励んでいるのを、眺めるしかできなかったからである。
伊集院が、一酸化炭素中毒の時間制限を問い掛けていた。胎内では、循環を妨げることが、原因となる。外科手術のように、人工的に停めることもできる臓器は、壊死するまでのタイムリミットはそれぞれである。息を停めた躰が、十時間後に再生した例もあることから、希望を捨てない強い心が重要になる。
死ぬ直前の躰と、イレギュラーの違いは、熱(心)ということになる。バタバタと人が死なない世の中に変えるならば、心の再生(心がけ)から。という考え方はある種、間違えではないのである。他人ごとと観ぬ振りをせず、情に
夢のように、何も変わらない日常に戻ることは、非日常であっても正しいことではない。
思い出のように、ゆっくりと時間をかけて色褪せることで、人が走馬灯を観れるなら、それに変わるものは必要ない。
夢が人々に届く理由を、もう一度考えて欲しい。
感性を始め、神々にしても、人々に期待をしていることに気付いて欲しい。
終焉は終わりではないのだから・・・。
まだチャンスが残されているのだから。
希望は膨らますものであって欲しい
円満の唯一は、繋がることなのだ
だから
繋ぐ手を持つことは
円満を目指すしか
なかりけり
終焉はもう直ぐそこ 完
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