第4話
十
「うさぎさんは昔から、紅茶党ですか」
「ハンブルグに行った時に紅茶党になりました。確か、チェルノブイリの原発事故と同時期です」
「お兄さんのところに居候して居たんだよね」
「惣菜屋のオヤジさんが良くしてくれたので、生きながらえました」
「神様だったのかなぁ」
「オヤジさんは第二次大戦中に日本に来て、お茶に助けられたらしいです」
「お茶ですか」
「水に当たったのでしょうね」
「そういうことですか」
「どういうこと」
「煮沸と殺菌効果ですよね」
「ドイツって、お茶を飲んでいるの」
「紅茶とハーブティーでしょうね」
「日本食糧品店舗がありましたから、手に入ったのかも知れません」
「お腹の弱いすーさんにとっての神様に変わりないよね」
「渡独したては、マッ○でさえ、購入できませんでした」
「言葉の壁ですか」
「東西の壁が無くなった今は、買えるのかな」
「ヒア・エッセン・オダ・ツー・ミット・ネーメン」
「何それ」
「こちらで食べますか。お持ち帰りになりますか、です」
「回転が基本のファーストフードですもんね」
「皿盛りを持ってきて、机に置いたペニヒを集めて勘弁して貰った経験が、私にとっての宝もの(思い出)なんですよ」
「だから、お金に拘らないのかぁ」
「一番大事ものは、命ですよね」
「気付いたときでは遅すぎですから」
うさぎが感傷に浸っているので、二人が声を掛けられないでいた。
「御免なさい」
「誰にでも大事な思い出ってあるもんね」
「伊集院さんが一番知りたいことを話します」
言うと、語り始めた。
今回殺人事件に使われた元素は、隕素というものです。隕石により運ばれたから、隕素と呼ばれています。
発見者はロシアの科学者ですが、細菌兵器に進展がないことで、隠された感が否めません。この隕素は、軟素という元素に弱い性質を持っています。
例に挙げると、水が分かり易いです。宇宙の水は鉱物で、地球の水は液体です。配列に隠れる軟素と液素で効力をゼロにできます。
ここに出て来た液素は液体に導く配列に欠かせません。地下に潜った科学者は、この液素に気付いていますが、取り出しに成功できないでいます。
配列の仕組みが触手と考えている限り、単独分離はできません。その為に、今にも取り出すせる鉱素に、二の足を踏んでいます。
日本で発見・取り出し・単独分離・液化等の機材があれば、私が関与して特効薬の作成ができます。
技術大国は権威の一声で抹殺されました。
探索を『夢』と位置づけて、備えを疎かにしています。目先を巧く逸らされてしまいました。
既に空いてしまったオゾンホールから、未知の元素・細菌(バイ菌)・ウイルスの侵略で、近い将来『未曽有』の状況に陥ります。
うさぎが興奮状態を抑えた。
「先ほど、水を例えにしましたが、東京都の水は、電気分解して電子殻で調整していますから、美味しいのです」
「それって、質量数の調整もしているってことだよねっ」
「その通りです」
「なんの話しをしてるかわかりませ~ん。私の存在が、新元素になりつつありま~す」
真由美が眼を回していた。
休憩は、真由美をリフレッシュする為に取られた。
十一
真由美がチョコクロを持ち、うさぎが紅茶をトレイに載せて戻ってきた。
真由美が席につくなり、チョコクロを咥えた。
「いいですか、真由美」
「・・・」
うさぎの語り
言葉には限界があります。
文字にも限界があると思います。
想像には、限界がありません。
何故だか分かりますか。
うさぎの語りが永いと予想していた真由美が、不用意な問い掛けに隙を突かれた。
瞼をぱちくりさせて、
「解りません」
伊集院が、「知っているものに、限りがあるからですよ」と、助け船を出した。
「想像には、限りがないの」
「夢には、知らないことも出てきます」
「知らないこと、って何故判ったの」
「観たことのないものを判別するのって、ある種の思い込み、なんじゃないかな」
『自由』という言葉と、『夢』という言葉の定義があやふやになっています。
自由とは、何をしても良い、ということではありません。
例えばですが、お金儲けをする為の発想は自由です。ーーが、お他人様のお金をとることは、窃盗・強盗・詐欺と罪になります。
「ルールがあるからでしょ」
正解です。ここで考えることは、ルールを護ることで赦される理由です。
「理由」
キーワードは、お他人様と迷惑です。
「その二つは、同時進行だよね」
「類似と考えるのが良い、と思うんだ」
「類似」
隠された想いですが、解りますか。
簡単にいうと、内部にある感情は、見えないものです。正しく伝えることがかなり難しいです。五感が補い、更には身振り手振りを伴います。
「言ってくれれば良かったのに、と言ったのを覚えてるかなぁ」
「出会いの演出を企画したことを言った時だよね」
「僕は、ちゃんと説明してくれれば、手土産を持たずに会うことも受け入れるよ」
「私の好意を理解できた、ってことだよね」
「好意をサプライズしたい気持ちが判ったから、何も踏み込まなかったんだよ」
取り越し苦労。余計なお節介。いらぬ心配。様々な言葉を摸索するには、想像するしかありません。
「想像するには、時間を要するよね」
人間が、未完成な理由です。だからこそ大器なんです。想いを重ねる理由が、そこにあります。
「時間をかけて境界線を合わす理由だよね」
「この人はこういう人だ。と瞬時に判断できるもんね」
夢にも理由が付き纏います。何故、と考えればですが。
「何故、とは何故だと思いませんか」
真由美が笑みを溢しながら、
「欲のことを言いたいんでしょ、伊集院さんは?」と、問い掛けた。
伊集院が照れながら、
「『知ってるから良し』ではなく、自分がお他人様を『理解できたから良し』なんですよ」と、呟いた。
うさぎが徐に、チョコクロを割き、大きな方を手渡した。
受け取った真由美が、笑顔を作り、
「人間の直近の祖先は恐竜で、弱肉強食の連鎖(循環の法則)を作り出したことの罰で、ホモサピエンスにされた、とすーさんが言ったことがあります」と言って、手に持つチョコクロを頬張った。
うさぎが伊集院に視線を送る。
伊集院がうさぎに倣いチョコクロを割き、大きい方を手渡した。
「私は人魚です。と答えました。さて、なんのことでしょうか」
「人類という括りの始まりですかね」
「ぶっ・ぶ~。分子が目指した生命体の始まりです」
「始まりがあやふやだからですね」
「宇宙の始まりを知らないから、神に依存するんだって」と言って、貰ったチョコクロを頬張った。
概念と観念が浸透した理由です。と言ったうさぎが、再び語り始めた。
私が小学生のときでした。
米国が月の探索を発表しました。それまで願いごとをするだけの月に行けるようになったのです。
科学力を軽んじた市民を形容する為に、『夢』の大安売りが始まります。取り分け日本は、目標を夢に変えることで、国民の統制をしています。
当時の学生運動の火種になったことは明白です。鎮圧されますが、国と思想が一体化したものが、現在の日本です。
善悪の境界線を引き、反抗分子と位置づけたことで、反発が続きます。
組織化すると、頂点が必要になります。天皇陛下という頂点を神輿に据えることは、平城京時代からありましたから、仕組みを作成する必要がありません。
権力者たちは、ご意見番になる為に、権威を博しました。国民を歯車にして、高座にふんぞり返ったのです。
敗戦の責任を天皇陛下に押し付けたように、知恵を悪用したのです。
都合の悪いことに触れず、保身の為に知恵をフル回転しています。少しづつ時間をかけて浸透した秩序は、多くの国民の心を迫害し続けてきました。時には鎮圧し、時には飴を与えて、現在の彩りを創り出したのです。
若者たちが目標という
名残が心に残っていることで、踏み出せないのが実情です。匠が減りつつあることに危機感だけが募りました。これが、技術大国が萎んだ理由です。
私が真由美を懐刀というのは、現実を理解して話しを繋げる器用さです。
例えばですが、月の探索から無事に帰られた方が、「それでも地球は青かった」と言いました。何故だと思いますか、と訪ねます。
「水が青いからだよね」
「確かに、地球の三分の二は水だよね」
そうなると、三分の一が青になる理由が解らなくなります。
真由美は、逆さ富士を知っていますよね。
「知ってるよ。湖畔に映る富士山のことだよね」
「間違えではないですが、湖畔ではなく湖水だよね」
「そうか、水の話しをしていたもんね」
真由美が閃いて、
「宇宙の闇が地球の水に映ったんだね」と続けた。
宇宙の漆黒は藍色です。人の目の錯覚と脳の錯覚が重なりました。概念と観念が齎したものは、奇跡の星という視点を変えること。
宇宙から観る地球は、奇跡の星ではありまん。歪な質量比率で規則を踏み躙る迷惑な星なんです。挙げ句の果てには、探索と命打って、荒らし始めたのです。危険な元素を送り込まれることは、必然と視ないと駄目なのです。
「元素は送り込まれているのですか」
電磁波が流れています。量子のバランスが悪いことと、太陽系という仕組みが一光年であることに気付かないから、地球の公転軌道にすら目が向きません。
科学者の中には、地球が火星の公転軌道に移動する、と唱える者もいます。地下に潜む液体粘物に掛かる負荷を考えれば、震災の危機を免れません。
一般人の方々は、人でありながら、人のことを知りません。始まりからあやふやだから、夢と
「だからすーさんが、それをいい廻ることにしたんだよね」
人間が、絶滅危惧種になって終いました。
細菌・ウイルスなら百万人単位で死にます。元素では、人間だけでなく、獣・魚・植物までも、還元に至ります。地球上から、生命体が消え失せるのです。
「どれだけ抗えるか解りませんが、僕にも手伝わせて下さい」
少しづつ、時間をかけて、重なる想いを募らせることを、肝に銘じていた。
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