第16話

     二十七


 うさぎは家に籠もり続けて、ことの顛末に注意をはらっていた。


 報道では、杉野社長の陰謀と、大量殺人計画を、未然に防げた。と流れた。警察の主導で、大規模イベント会場から、大量の元素兵器が発見された。処理は自衛隊が担ったが、指揮をとったのは、内閣府である。

 裏社会との関連を取り上げないことは、無用な混乱を招かない為だろう。国内に潜む諜報員を刺激しても、良いことがない、と考えられた。


 そんな矢先、うさぎの携帯電話が鳴った。

「赤瞳さん。たすけて下さい」

 電話の主は、石である。

 電話口から聴こえる賑わいで、うさぎは混乱していた。

「あっ瞳さ~ん、遥さんの補充が、二人来たんですよぉ」

 声の主は小野で、呂律ろれつが妖しい。

「赤瞳さん、また女性の補充なんだよ」

 今度は、斉藤の声である。

「うさぎさんが来るまでお開きにならないから、今から直ぐ来てよ」

 伊集院も浮かれている。

「因みに、今回のお手柄で、予算も増えました。アザっす」

 中里の面目も上がったようだ。

「場所は、元住吉の居酒屋です」

 石の声に戻っている。

「エスパーの二階ですからね」X2

 斉藤と小野の声がハモっている。

 そこで通話が切れた。取り合った末に切れたに違いない。思った瞬間に、うさぎは噴き出していた。そそくさと身仕度を整えて、逸る心を抑えながら、部屋を出て駅に向かっている。

 スイカで改札口を通り過ぎて、五・六番ホームに降りてゆく。夕方のラッシュ時である。人混みを忌み嫌う思考は、僅かばかり未来の宴を妄想している。


 折り返す電車を待つ人集りの例に並んでいた。

 到着電車が見えると、人集りに動きが出る。降車客の為に、通路が出来た。電車もホームに入っている。

 その時、躰が宙に浮いた。振り返ると、何時ぞやの恰幅の良い男が、せせら笑っていた。

 うさぎの思考に走馬灯が走る。

 後頭部が電車に当たり、それが停止した。

 薄れゆく記憶の中に、心と脳の共同声明が届いて来た。


 妖かしのうつつに彷徨いて


 ことわりが身を蹂躙じゅうりんする


 人に終わりがあるとして


 時間に終わりはなかり



  新時代 後編  完

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