第28話

     四十三


 うさぎは、谺の亡骸のもとに戻って来た。

「神々の恩恵で、谺は一週間後に、甦ります」仲間たちの前で、宣言した。


 石が、

「皆さんと力を併せて、谺君を護り抜きます」と、先走った。

「そうは言うけど、敵さんは甦りを知らないよね」

「変わりのない日常でも大変なのに、どうするつもりなんですか」

「役割分担するだけでしょう。まるは大袈裟なんだよ」

「今回は、私の組むフォーメーションに従って貰えませんか」

「別に構わないよな、中里」

「任せますよ」


 うさぎは、石と斉藤が交代で、谺の居る室内の警護を命じた。

 小野と小嶋の組み合わせは何時ものままで、通路の警護を担当する。交代要員として、高橋と斉藤マルコスが組まされた。

 小野が口を尖らせたが、斉藤が媚びて、まるめ込み、それぞれが想いに従っていた。




 うさぎの家に、斉藤が訪れた。

 斉藤は玄関に入ると、立ち眩みを起こしている。

「お姉様の言われたことが引っ掛かります」

「神々を集める理由ですか?」

「何故、よしみのない谺の為に、神々が奔走するの」

「それが、神々に与えられた試練だからでしょうね」

「感性様は未だかつて、強制したことがありません」

「神々の落ち度を咎めたことも、一度たりとも無いですよね」

「落ち度」

「六弟さんの不始末でさえ、目を潰っていましたよね」

「それは、神々・お姉様が対処しました」

「混沌を生み出したことに、変わりありませんよ」

「その為に、奔走しているんですよ」

「理性さんを思う、親心に気付きましたか」

「お姉様は、感性様の親心に従った。ということなの」

「次妹さんの良心も、卑弥呼さんへの慈しみですよね」

「私は、お姉様を尊敬しています」

「六弟さんに組したことを許して貰ったからですか」

「・・・」

「絆の意味が、理解できましたか」

つむぎですか」

「細くて不安を生み出すから、つむぐんですよね」

「心が不安定な理由ですね」

「神々が人に托したものが、それなんですよ」

「だとしても、六弟はおろか、四弟が女神をたすけますか」

「感性母さんに逆らうとは思えません」

「なら、赤瞳が取り持つ方が良いんじゃないのかしら」

「私をだしに使うのもありですね」

「そんなんだから、お姉様に呑気と言われるのです」

「感性母さんが切迫詰まっているならば、直ぐに消えたりしませんよ」

「何故、直ぐに消えたのかしら」

「考えなさい。ということでしょうね」

「何を考えるのかしら」

「仲直りじゃないですかね」

「絆を再確認しろってことなの」

「人と神々が協力し合うには、心の疎通が肝になりますよね」

「七日の期限は、赤瞳が勝手に決めたんでしょう」

「人間界の仕来りに従っただけですよ」

「何処までも先を見据える赤瞳が癪に触るけど、今回だけは大目に見るわ」

「有難う御座います」

 人と神々を結ぶ糸が紡がれて、より強固になっていく。


 光の光陰は人に見えないだけで、存在する。光陰が残すものが、人の心に届くときに、新たな芽吹きが産まれるのである。

 希望が産まれること、人が身籠もることを知るには、まだ時間が掛かるのであった。



「結衣さんや」

「なんですか、ノーベルさん」

「爆破の理論を、破壊と考えてないかい」

「違うんですか」

「知識があることで、ゼロには戻らない」

「レイだから、振り出しに戻すことでしょう」

「ゼロは、産み出す『命』。この世に同じものが存在しないもの。となるんだ」

「命は解るけど、兄弟・姉妹は、同じ遺伝子だよね」

「双子でも、配列は違います」

「どうして、ニュートンさん」

「数千億以上ある記憶の配列なんですよ」

「同じように見えて、実は考え方が違うじゃろう。あまつさえは、特技や利き手が違ったりするんじゃからな」

「何が言いたいんですか。解るように話してもらえませんか」

「赤瞳様が狙われる理由は、遺伝子に隠されていると考えられないか」

「どうしてそうなるの」

「疾風様が、たまたま選んだ、とは思えないのです」

「どういうこと」

「赤瞳の祖母、橘田ふさが次妹様で、幼少期を三妹様が見守っているんじゃよ」

「笛吹川で溺れたときは、感性様が扶けているのです」

「誰から聴いたんですか」

「赤瞳様自身が語っている」

「神々様に聴いてみたら、どうですか」

「結衣さんが、疎通で確認してくれると良いんじゃがのう」

「入れ変わるから、聴いて下さい」

 結衣は言うと、瞑想に臥した。


「貴方がたは、赤瞳のことをそんな目で見ていたんですね」

「卑弥呼様が見守る姿が、親の姿に映るんです」

「橘田の家系は、花子と太郎の遺伝子が重なったものです」

「花子と太郎、とは」

「疾風が始めて降臨したホモサピエンスです」

「双子ということか」

「姉と弟です」

「・・・」Χ3


 卑弥呼が理由を語り始めた。


 地球上が混沌に陥ったときのことである。

 恐竜たちの傲慢と縄張り争いが齎したものは、弱肉強食であった。


 感性が想い描いたものが、凍結である。

 長い時間をかけて、巨大化した躰と、凶暴性の粛正に至っている。数を減らしたことで、争いの撲滅も期待したが、それは叶わなかった。


 鈍間なホモサピエンスは、獣( 粛正前は肉食系恐竜 )たちの餌である。とどのつまりは、絶滅危惧種であった。


 感性の願いは、寿命を全うすることである。争うことに付き纏うものが、『死』という現実に心を痛めていた。


 疾風が堕天使に志願したのは、感性の苦悩を視ていられなくなったからである。心情の『信』(心)の蔓延に掛かる時間を考えると、一刻を争う事態であった。


 強行手段で降臨した。


 いかづちに乗り、永代松に堕ちた。

 永代松にもたれ掛かり気を許していたホモサピエンスの姉弟は、雷に貫かれ気を失った。


 疾風にとって予想外であったが、心を二分することで、その場をやり過ごした。


 結果として血の濃さを半減して、ホモサピエンスが死なずに済んでいる。

 分割された信の心が重なる家系に期待する理由が、正にそれである。


「時間が流れ、疾風が始まりに気付いた」

「人の間に伝わる、初心忘れるべからず。ということでしょうか」

「何をするにも、最初が肝じゃからな」

「始まるものは、終わります。では何故、終わると思いますか」

「・・・?」Χ3

「貴方がたが判らないと、意味を成しませんよ」

「後悔しない為か」

「人が後悔するのは、未熟だからです」

「自己中心的思考が、傲慢を生み出すからじゃなかろうか」

「努力の継続をするだけの強い志がないからです」

「見えないものの恐怖を軽んじて、備えることを怠って終うからではないですか」

「正にそれでしょうね」

「終わる恐怖から逃れることなのか(七日)」

「初七日過ぎれば、というやつじゃったか」

「日の本の国は神の国と言われた理由は、十二支・十二単じゅうにひとえもちいていることで窺えます」

「十二」Χ3

「刻(時)が刻み続ける理由は、終わりなき循環を教えています」

「宿題の答えじゃな」

「二・四・八・十二の関係性の答えだったのか」

「次の宿題は、その数に該当するは何かです」

「死んでからも宿題を出されるとは、思っていませんでした」

「貴方がたが首に吊り下げてる勾玉の数を増やす為ですからね」

「わし等の勾玉の数かいな」

「赤瞳はそれで、私の降臨を確信したようですからね」

「だから赤瞳様の勾玉が、神々様と同じ八つ掛けなのか」

「赤瞳様のように、答えの先を見ることは、不可能に近いです、卑弥呼様」

「為せばなる。為さねば成らぬ何事も。ですよ」



 伊集院と中里が、ことの怪奇を話していた。

「何故、先生(東大の教授)が、中退の赤瞳さんに恩を売ったのかな」

「ご近所付き合いだったとか、かな」

えにしも此処まで来ると、神憑かみがかりだよな」

「感性様の想いを受け継いだ、とか」

「一二三は宇宙の徘徊に同行して、何故と思わなかったのか」

「説明の一方通行だったからなあ」

「一方通行」

「多分だけど、何度も観てきたから、自身の疑問が同じものだろう、と考えたんじゃないかな」

「何故、同じなんだ」

「広瀬さんが、そう教えたんじゃない」

「だから、学識が後付け、と言い切るんじゃないか」

「事実を観て知っているからかい」

「だとすると、ある程度の未来を観ていることにならないか」

「彩りを変えるつもりなんだろうね」

「変えて良いのか」

「過去を変えると、歪みが生じると言われるが、未来を変えても、歪みは生じないんだろうね」

「そうなると、未来から派遣された者、になるよな」

「派遣主は、感性様かい」

「現実と夢の境界線がない話しだな」

「昭和に流行した、テレビの見過ぎ。になっちゃうよ」

「マスメディアの目論見に乗るのは癪に触るよな」

「目に見えない流れのひとつに過ぎないけどね」


 見えないものに、注意して欲しい。天災がレベルアップしていることは確かである。

 この世で一番大切なものは、命である。

 限られた時間の中で、何を伝えるのか? 伝える先は、未来なのである。遺伝子が残っている事実は、紡がれて(上書きされて)未来に繫がっている。即ち、今があるから、未来があるのだから、色褪せたものより、煌びやかなものが、良いに決まっているのである。

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