第22話「4~5メートル」

 僕らは階段で3Fへ向かう。

 途中、マスオさんは2Fへ寄ると、なんと、扉を持ってきた。

 無理矢理パワーで破壊して来たのだ。


「これなら糸でも鉄球でも問題ないだろう」


 普通なら持つのもやっとの扉を軽々とまるで本でも持つような気軽さで小脇に抱えて3Fへと階段を登って行く。


 3Fは2F、4Fと同じで客室の扉が続いている。食堂や資料室といった部屋の代わりに廊下の最後には防火扉があり、きっとあそこから別館へと続いているのだろう。


「行くぞ」


 扉を盾代わりに持ったマスオさんが先陣を切って行くと、


「ぬっ」


 扉に何かが触れる感触があったようで、立ち止まる。


「ふんっ」


 無理矢理に扉を前に突き出すとそこには案の定ピアノ線が張られていたようで、今は張りを失いだらんと垂れている。


「ルリの予想が当ったみたいだね。これなら全員で別館に行けそうだ」


 そう思った瞬間、Vが僕らに絶望を与える罠を用意していたことに気づくことになった。


「あれは」


 僕らの目の前には赤いレーザーが現れる。


「これは、マズイんじゃないっ!?」


「むぅん!」


 マスオさんは間髪入れずに扉をレーザーの方へと投げつけると、簡単に切断される。

 扉の切り口が赤く焼き切れていることから、あのレーザーはやはり予想通りの熱線であり、よくSFとかで見るレーザー兵器であることが確定した。


「金がないとか言って無かったか。こんなん作ってたらそりゃあ、無くなりそうだし、しかも、使い捨てって」


 レーザーは動き始め、だんだんとこっちへ近づいてくる。


「逃げるぞ」


 マスオさんの言葉に、一様に逃げていく。

 どうやらレーザーの稼働か所はそこまで広くはなく、4~5メートルといったところだった。

 だけど、それを潜り抜けて扉に到達するにはどうしたらいいんだ?


「なぁ、あれだけなら、普通に避けれんじゃねぇか?」


 鋼森はなぜ逃げたのか分からないと言った具合に言い放ち、そして、軽く準備体操をしてから走り出した。


「ちょっ! 待って。ダメだよ!!」


 僕の声は届かず、スピードに乗って行く。


「行くぜぇ!! オラオラオラァ!!」


 人感センサーでもあるのか、鋼森が近づくとレーザーが放出される。


「当るかっ!!」


 レーザーの下をすり抜ける。


「よっしゃ! このまま真っすぐ扉まで! 楽勝。楽勝!」


 立ち上がって再び走り出した鋼森だが、次の瞬間。


――ジュッ!!


 ステーキでも焼けたかのような香ばしい匂いと共に、鋼森の首が落ちた。

 焼けた傷口からは出血もなく、今までで一番キレイに殺されている。


「戻ってくんのかよ……」


 鋼森が避けたレーザーはすぐに引き返し、下をすり抜けた鋼森を襲ったのだった。


「鋼森っ!!」


 一番人間に近い感覚で、一番僕に気さくに接してくれていた鋼森が……死んだ?

 そ、そんなバカなことないよね。

 それもこんな呆気なく。呆気なさすぎるよ。


「おーい。誰か、助けてくれぇ!! 頭が離れたら俺様でも動けねぇ! 誰か繋いでくれないか?」


 そうだよ。頭が離れたら動けないよ! どうにかして、頭を繋がないと――って。


「生きてる!?」


「あぁん! 俺様がこの程度で死ぬ訳ねぇじゃねぇか」


 そういえば、三木谷さんに180度首を回されても生きてたんだった。


「あ、やべっ」


「どうしたのっ!?」


「空気がなくて、――も、――しゃべ――ない」


 鋼森の顔をよ~く見ると、口だけがパクパク動いていて、声が一切聞こえてこない。

 もしかして、身体がないから空気を送れなくて喋れないのかな。

 それでも口は俄然元気に動いていて、安心することができた。


「良かった。とりあえず生きてるけど、時間が来てここが崩壊したら鋼森の命も危ないよね」


「あのレーザーを乗り越えるのは至難の技になりそうよね。誰か良い案はないかしら?」


 三木谷さんは僕らを見回す。

 ルリは困ったように俯き、マスオさんは考える素振りさえ見せず無言。

 最後に僕と目が会う。


「特に良い案はなさそう? それだとこのまま生き埋めになっちゃうわよ!」


「もう少しだけ考えさせて」


 僕は目を瞑ると、なんとかレーザーを避ける方法を考える。

 鋼森みたいに身体能力で避けてから、油断せずに扉まで走って突破する方法も出来なくはなさそうだけど、それが出来るのは僕以外のメンバーだけだろう。

 特別な訓練とかも受けていない一般人の僕にはそんな離れ業は無理だろう。


 レーザーを避けるのは無理だから、そもそもレーザーが機能しなくするようには出来ないかな?


 そもそもで壁を壊すとか……いや、今までの経験からいったら、その辺はVによってガードされているよね。

 あとは、レーザーがあらぬ方向に飛んで行ってくれれば……。


「あっ!! これなら行けそう!!」


「良い案が思いついたの?」


「うん。ただ、三木谷さんの負担が大きくなっちゃうけど」


「やるかどうかはともかく、どんな案なのよ?」


 僕の案は――。


「レーザーを歪曲させる。そうすれば安全に扉まで行けると思うんだよね」


「歪曲? 曲げるってことよね? どうやんのよ、そんなこと」


「レーザーが水の中を通るとき、曲がるって知ってます?」


「あたしの負担が大きいってもしかして……」


「よろしくお願いしますね」


 僕は精一杯の笑顔で媚びて見たけど、あんまり効果はなかったのか、三木谷さんの顔は引きつったままだった。


「この廊下一面に水の幕を張れってことよね」


「あっ、ついでにただの水より屈折率が変わるように砂糖水とか混ぜるとより効果的なんだよね」


「あたしの負担が増えてるんですけど……。まぁ、命が掛かってるからやるけど。でも、今は無理よ。こんな朝っぱらから吸血鬼は本領を発揮できないわ。タイムリミット、ギリギリの夕方が勝負ってところね」


「そうなると、チャンスは1回」


「ええ。でも、皆で生き残るんでしょ?」


「もちろん!」


 僕はニッと笑みを浮かべながら答える。

 これで全員助かる。

 僕が助けて助かる!


「それじゃあ、夕方までに砂糖を集められるだけ集めて来るよ」


「……わたしも手伝う」


 僕とルリが1Fに行こうとしていると、いつの間にか姿を消していたマスオさんは3Fの客室からバスタブいっぱいに入った水をバスタブごと持って来ており、僕らの姿を見ると、


「まだだったか」


 と呟いて、バスタブを置いた。

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