第25話「掘り起こ4」
「……ありがとう。もう大丈夫だから」
僕の胸から顔を上げたルリは、悲しい素振りは一切見せず立ち上がった。
「……次へ行こう」
「よっしゃ! それじゃあ、次行くぜ! んで、さっさと4回死んでVをぶちのめそうぜ!」
最後の最後を看取った鋼森は落ち込んだ様子はなく、かといって怒りに燃えている様子もなかった。
「鋼森は大丈夫なの?」
「へっ? なんのことだ?」
「三木谷さんのことに決まってるだろっ!」
「ああ、あの女か。俺様の経験上、ああいう傲慢な暴力女は殺しても死なねぇからな。さっさとVを倒して掘り返しに行ってやらねぇとまた文句言われるぜ」
「そっか。そうだよね!」
鋼森はまだ死んだと思っていないんだ。
確かに、犠牲を出さない。皆でクリアするって言ってた僕が生存を信じないでどうする!!
「良し。それじゃ、次に行こう」
僕らは、本館と言われた方に比べると簡素な作りの廊下を歩き、突き当りにあった扉を開けてくぐる。
そこは宴会場のようなただっ広い場所。
最初に僕らが目覚めた場所に似ている。ただ、本館とは違い、別館だからか、ここの床にカーペットはなく、板張りになっている。
血を目立たせない為のカーペットだと思っていたけど、本館との区別の為だけのものだったのか?
そんな思案をしていると、
『ぴんぽんぱんぽん♪』
出鼻を挫くようにチャイムが鳴る。
「皆様、別館へようこそ。
ただいまの罠により、エレメンタラー三木谷水鬼さんが死にました。皆様の中に真祖がいるとよいのですが。
候補としましては、鋼森さんと百目木ルリさんが3回の死亡を乗り越え、もっとも真祖に近い存在になっております。
赤城さんと百目木マスオさんも頑張って死んでくださいね!
それでは別館の説明ですが、別館と言えば、本館には劣りますが客室。それと温泉ですね!」
楽しそうなドラキュラハンターVの声。
今は、その声は世界で一番聞きたくなかった。
そう思ったのはもちろん僕だけではない。
この場の誰もが共通の思いを描いていた。
だが、そんな空気も読まず、Vは楽しそうな声音で続ける。
「こちらの温泉は素晴らしいですよ。是非皆様にも楽しんでもらいたいものです。気が向きましたら1Fの大浴場にまでお越しください。
あっ、混浴もありますよ。でも変な期待はしないでくださいね。健全な混浴ですから水着着用です。いや~、一番水着が映えそうな方が居なくなっているのは残念で仕方ないですね」
明らかに三木谷さんのことを差しての明確な煽り。
普段なら、むかつく程度で流せるのだろう。実際、僕はなんとかここでキレたら相手の思う壺だと理性が辛うじて働き、声をあげるのを堪えられた。
でも――。
「……ゆるせない。どうして、そうやって平気で人を犠牲に出来るのっ!! わたしはもう3回死んでる。それとこの時計の換算では貴方が仕掛けたトラップにハマって生きぬいてもカウントされていたはず。わたしは石垣さんに殺されかけた。あれは貴方の罠だったはず! それなら4回カウントが進んでいないとオカシイ!! わたしが真祖だから、貴方を殺すっ!!」
ルリは叫ぶ!
怒りに任せて。
「うんうん。死ぬ気なのはいいことですね。ですが、私は人の言葉は信じないことにしているのですよ。真祖かどうかは私が見極めます。ただ、その意気込みに敬意を表して、さくっと罠を発動させましょう!!」
その瞬間、ルリの姿が消えた。
いや、ルリだけじゃなく、マスオさんと鋼森も。
「嘘でしょ!」
彼らは開いた床から下へと落ちていた。
僕は開いた床から身を乗り出すように下を見ると――。
「あれは? プール?」
プールというには水に流れがあり、流れた先はどこかへと捨てられて行っているようだ。どちらかというと下水の出口とかの方がイメージに近いかもしれない。キレイということを除けば。
ただただ流れる水を作りたいだけというようなプール施設に首を傾げつつも、ルリたちを助けなくてはと気が急く。
「さて、なぜ赤城さんだけ残されたか分かるかな?」
「えっ?」
モニターからの声がえらく近くから聞こえ、顔を上げるとそこには、ドラキュラの仮面をつけた男が立っていた。
「なっ! お前はっ!!」
「残念。時間切れです。正解は、赤城さんだけお風呂に入っていたからでした。流れる水は吸血鬼の苦手とするところだが、キミだけは違った。だから、特別にこっちもプレゼントです」
面をしていて表情は変わらないはずなのに、なぜか、笑った気がした。
それと同時に乾いた発砲音。
パンっという音が僕の耳に届いたときには、身体に衝撃が走っていた。
「純銀の弾丸をプレゼント。質屋で売ればそれなりの値段がつきますよ」
「う、うぅ……」
なんとか、Vを捕まえようと手を伸ばすけど、その手は近づくどころか徐々に離れていき、僕の体はルリたちと同じ下のプールへと落下した。
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