第24話「4ん入不可」

「畜生っ! Vっ!! あのクソ野郎!! あたしを入れないつもりねっ!!」


 急に怒鳴り散らす三木谷さん。


「おわっ! っととと」


 その声に驚き、落としそうになった鋼森はすんでのところでなんとか持ち直す。


「あたし、許可がないと家に入れないのよね。最初はVも許可していたのだけど、別館はあえてそれをしていないみたい……」


「はぁ? なんだそれ! ってことは、どういうことだ?」


「あたしはここまで。もともとここで家に入れない弱点を持つ吸血鬼は殺す手筈だったんでしょうね。あたしに付き合ってるとあんたまで死ぬわよ。あたしを置いて先に行きなさい!」


 そうしている間にも建物の崩壊は進み、廊下は崩れ階下が覗く。


「つまり、俺様にお前を置いて先に行けって言ってるのかよ。ありえないな」


「は? 何言ってんのこのままじゃ、あたしら死ぬわよ!」


「お前こそ何を言ってやがる。俺様のダチ、赤城は誰も犠牲を出さずにこのゲームを終わらせようってしてんだ。なら、俺様も最大限に手伝ってやるのがダチってもんだろっ! 許可がなきゃ入れないならよぉ! 入口以外から入ればいいんじゃねぇか!?」


 鋼森は扉の横の壁を蹴り始める。

 別館へと続く壁は崩壊しておらず、頑丈そのもの。

 最初の蹴りでは軽く足の跡がつく程度。


「オラオラオラァ!!」


 二撃、三撃と与えるがせいぜいヒビが入る程度だった。


 くっ、僕に何か出来ることはないのか!?


「おいっ!! ドラキュラハンターVっ!! 見てるんだろっ!! おいっ!! レーザーを乗り越えてここまで来たんだ!! 今さら三木谷さんが入れないなんてオカシイだろっ!! 許可をしろよっ!! ふざけんなっ!!」


 涙を流しながら、声の限り叫ぶと、やはり見ていたのか、Vのモニターが降りて来る。


「赤城トシユキさん。そちらの件はご了承できかねますねぇ。これも私が心血注いで作った罠なのです。それに、もしかしたら鋼森様の言うように扉以外なら入れるかもしれませんし、タイムリミットギリギリでなければその時間も用意に獲得できたのではないですか?」


「っ!?」


 怒りで目の前が赤くなる。


「私にかまけているより、鋼森さんのように壁を破壊してみてはいかがですか?」


「くそっ!!」


 僕とマスオさんも鋼森が蹴り飛ばしている壁を反対から攻撃を加える。

 マスオさんは拳で。

 僕は取っておいた拳銃を取り出し、撃ちまくる。


 だけど、僕らの攻撃も壁を壊すには至らない。


「もういいわよっ!! あたしのことは置いていきなさい!! 運が良ければ生き残れるかもしれないわ!」


「うるせぇ! 気が散るっ! 黙ってろ!!」


 諦めない鋼森の声。その姿に反対側にいる僕らも勇気をもらう。


「あたし、吸血鬼だから、男からモテモテなのよ。人間に限らず吸血鬼からも絶大に。でも、相手は本気でもあたしはいつだって遊びだった。人間のイケメンからは戯れに血を啜り、吸血鬼のイケメンはアクセサリー感覚で侍らせたわ。真実の愛なんて幻想だと思ってた。

だけど、ルリっちはそんな幻想を追い求めていたのよ。太陽のような眩しさで。あたしが自分以外で初めてキレイだなって思ったの。そりゃ応援したくなるじゃない」


「あぁん。何の話だよ!」


「あんただって赤城のどっかに良いところがあるって思ったんでしょ?」


「ああ、赤城は良いヤツだ!」


「それなら、二人の幸せってヤツに貢献したくなるじゃない」


「二人? 赤城とマスオの旦那か?」


「文脈的にルリっちと赤城でしょ!! とにかく、ここで、あたしたち二人とも死んだら誰が二人の手助けをしてあげられるのよ」


 床に残された水。砕けた瓦礫で出来た砂が舞い上がると、強固な力で鋼森を拘束した。


「うおっ! なんだこれっ!! 新手の罠か!?」


「あんたは生き残ってルリっちと赤城を助けてあげて。それと、運良く、あたしが生き残ってたら掘り起こしてよ」


 強風と共に鋼森は扉の先に飛ばされ、拘束されたまま、地面へ無様に倒れ伏す。


「くそっ! なんだこれ、離せっ!!」


 じたばたと暴れる鋼森だったが、その拘束を取ることは叶わなかった。


「三木谷さん! 諦めちゃダメだ!」


「赤城もマスオも鋼森も良い男だったわ。もっと別な機会に出会っていたら、好きになってたかも。なんてね。ルリっちは少しの間だったけど、女同士楽しかった。あとは頑張って生きぬいて。恋は戦争よ。こんなデスゲームなんか比べものにならないんだから」


 ニコッとそれは素敵な笑みを見せた三木谷さん。

 その上から、瓦礫が落ちて来ると彼女を潰し、階下へと落下していった。

 三木谷さんが居たという痕跡はひとつもなくなってしまった。


――ぱしゃ。


 水と砂の拘束がまるで主と同じように力尽きたがごとく、死の気配を伴って床へと落ちて沁み込んでいく。


「あ、ああっ!!」


 なかなか壊れなかった壁を力任せに殴りつける。

 

 こんな、こんなすぐにまた仲間を失うだなんて……。

 だけど、今回は落ち込んでいられない。

 だって、僕なんかより、もっと、もっと辛い人がいるから……。


 膝をついて、放心状態のルリ。

 

 何を言えばいいか分からない。けれど、何も言わないのは不正解だってことは分かる。

 だから――。


「ルリ。先へ行こう。そして、ここを出たら三木谷さんを探そう。きっと彼女なら、なんやかんや上手くやって生きてるに違いないよ! ねっ! それにはまず僕らが脱出しないと」


 あの状況で生きていられるはずはない。だけど、全く希望を抱かないより、先に進むにはそんな僅かな希望にすがって進むしかないじゃないか!


「……大丈夫。わたしは大丈夫だから。三木谷さんが死んでても前に進む。……でも、少しだけ、胸を借りていい?」


 僕は黙ってルリに胸を貸す。

 気丈に振る舞おうとする彼女の弱いところが誰の目にも止まらないように。

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