第23話「半4ん」

 ガムシロップやステックシュガーなど1Fにはコーヒーや紅茶が用意されていただけあって豊富にそろっていた。

 けれど、4~5メートルをカバーできるかと聞かれると些か疑問ではあるものの、無いよりは各段にマシだろう。


 ルリと一緒に3Fまで運び、夕方になるまで待った。


 無事かなとチラリと鋼森の様子を見ると、めちゃくちゃ暇しているのか、僕の顔を見ると表情が明るくなり、何やら喋ろうとしているが、声が出ておらず、全く聞き取れない。

 一通り口を動かした鋼森は伝わらないことを悟り絶望の表情へ変わる。


「鋼森もそろそろ限界かもしれないね。退屈で死にそうになっている」


「準備は出来ているし、時間もそろそろ良い時間ね。やりましょうか」


 僕らは廊下に砂糖水と水道水をまき散らし、それを三木谷さんに操作してもらう。

 

「ところで、これ、本当にレーザーが曲がるのよね?」


 三木谷さんのもっともな質問。だけど、ただの高校生がレーザーに触れる機会があると思う?


「たぶん」


 それしか返しはできないでいると、


「まず俺が行く」


 率先してマスオさんが、水の幕の中へと入って行く。


 マスオさんを察知したレーザーはマスオさんのところまでレーザーを射出しながら向かう。

 だけど、そのレーザーは明らかに歪曲しており、マスオさんが少し頭を下げるだけで用意に回避できた。

 通り過ぎたレーザーはまだ動く物体があると認識し、鋼森のときのように反転し戻るが、中腰になって進み始めたマスオさんに触れることはなかった。


 そして、容易に通り抜けたマスオさんは鋼森の首と胴体を拾いあげる。

 少しの逡巡のあと、とりあえず体に首を付けてみると、鋼森の持ち前の再生能力であっという間に首が繋がっていく。


「ふぅ! 辛かったぜ。流石旦那。二回も助けられちまったな。他のやつらもサンキュ! ほら、急がないと時間になっちまうぞ! ゴーゴーゴーゴー!!」


 首が戻って話せるようになった反動か、めちゃくちゃ騒がしい。

 だけど、元気な姿が見れて何よりだ。


 次にルリが続き、入って行く。

 最初はマスオさんや鋼森と同じく目の前からやって来て、屈んで避けたのだけど、レーザーも学習しているのか、戻ってくるときには、胴体部を狙われていた。


「危ない!! もっと屈んで!!」


 果たして水中にいるルリに聞こえるのか疑問だったが、叫ばない訳にはいかない。

 でも、なんとか聞こえたようで、ルリは身を屈め避けた。その後は匍匐前進で先へと進み、レーザーを回避できた。

 出来たんだけど、一連のルリの動きは人間の反射速度とか運動能力を超越していて、匍匐前進なんて僕が走る並に早かった。


 ともかく、ほっと胸を撫でおろすけど、次は僕の番だ。

 果たして避けられるのか? 吸血鬼特有の人間を越えた身体能力がない僕でも大丈夫なのか?


 だけど、やるしかない!!


 僕は水の幕の中に突っ込んでいく。

 あ、これ息も出来ないじゃん。

 早く進まないと別の死因になっちゃう!


 レーザーは最初は案の定、目の前からやってくる。

 実際には僕の首辺りに当たるはずのレーザーは歪曲して頭にかする程度の位置に来ている。わずかに屈み避ける。

 問題はここからだ。

 たぶん、先ほどまでの僕たちの行動を学習して何かしら変化があるはず。


 レーザーのスピード自体は人間でも対処可能。

 なら、見えていれば問題ない!

 僕は忍ばせていた銀のナイフの反射で背後を伺い見ながら進む。


 今度は足元に狙いをつけてきている。

 あと3秒くらいでやってくる。

 地面に伏せてもこれなら問題なく当たる。最悪当らなくても足を斬れれば動きは止まるし、その後に追撃すればいい。


 3、2、1。


 ここだっ!!


 ジャンプしてレーザーをかわし、ほっと一息。

 

「……赤城くんっ!!」


 ルリの声が小さく聞こえると、避けたレーザーが戻って来るのが目に入る。

 やはり足元に標準を合わせている。

 やばっ!

 あとちょっとなのにっ!

 逆に言えばあと少しだからすぐに戻ったレーザーによって危機に瀕している訳だけど。

 人間は着地してすぐには動けないんだぞ。

 もしかしたら、マスオさんとかなら即座に跳べたかもしれないけどっ!


 走馬灯までとはいかないけど、一気に色々な取り留めのない思考が溢れ出す。


「くそっ。ここで終わりかよ……」


 そう思った瞬間、紅い血のロープが水中に溶けながら僕の体を掴み、無理矢理に引っ張り上げる。

 

「がはっ!!」


 勢い余って壁へと叩きつけられるけど、なんとか生きているし、足も無事だ。


「マスさ、ありが……」


 未だ肺に上手く酸素が取り込めないでいて、上手く感謝の言葉が言えない。


「気にするな。それより」


 そうだ。

 まだ三木谷さんが残っている。


「なんかぁ、どんどん難易度上がってない? 水を維持しながらは結構辛いのよ。マスオさんとか今みたいにちゃんとフォローしてよね」


「おうっ! 任せとけ!」


 鋼森の威勢の良い声に三木谷さんは眉をひそめる。


「すんごく頼りないわね。ま、期待してるわ」


 三木谷さんも水の幕に入って行くと、レーザーはプログラムに従って三木谷さんへ向かっていく。

 一本目のレーザーは難なく避ける。

 問題は戻って来た方だ。。

 今回はどんな軌道で来るのか。


「忘れてるかもしれないけど、この水はあたしの管理下なのよ。熱線レーザーが通ってる場所くらい感知できるわ」


 三木谷さんは華麗に飛び上がって避けた――かに思えたが。


「えっ!?」


 レーザーはフェイントとでも言うように上へ軌道を変え、飛び上がった三木谷さんに襲い掛かる。


 マスオさんの血もレーザーより早く届く位置にはなく、三木谷さんの体はレーザーにより真っ二つとなる。


「きゃあああああああああっつ!!」


 悲鳴。そして、上半身と下半身に分かたれた体。

 それから大量の水が廊下へと落ちる。


「まずいっ! 次のレーザーが来てしまう!!」


「い、嫌よ!! こんなところで死にたくない! 誰か助けて」


 僕が飛び込んだら自殺行為だ。だけど、誰も犠牲を出さない為にはっ!


――ぐいっ

 

 えっ!? 急に服が引っ張られ、出足を挫かれる。


「……ダメ。行かないで。兄さんがなんとかするから」


 ルリは申し訳なさそうに俯きながら、必死に僕を止める。


「俺では片方だけだ」


 マスオさんは三木谷さんへ血のロープをを伸ばす。


「ならよぉ! 俺様が運んでやるぜっ! 旦那は足の方よろしく」


 なんの躊躇いもなく、颯爽と飛び出した鋼森は三木谷さんを荷物のように抱えると、迫りくるレーザーを曲芸のように避ける。


 これなら行けると思った瞬間、


「皆様タイムアップです。この建物は崩壊いたしますので、別館へお移りください」


 ドラキュラハンターVのふざけた声と共に天井が爆破され崩壊してくる。


「おいおい。マジかよ。破壊の仕方イカしてんなぁ!!」


 落ちて来た瓦礫を避けながら進む鋼森。


「あんた、レーザーが来るわよ!」


「おっと、後ろからも来るんだったな。よっと!」


 分かっていれば、鋼森の身体能力なら避けるのは簡単なようで、レーザーも回避する。


「ほら、赤城たちは先に行ってろ! 扉を開けといてくれ!」


 その言葉に従って僕らは扉を開けて、別館へと立ち入る。


 瓦礫とレーザーをなんとか避けて僕らの眼前にまで辿り着いた鋼森だったのだが。


「あぁん? なんだ入れねぇ!?」


 扉は開いているし、入れない要素はないはず。

 なのに、なぜ?

 2人はどうなるんだっ!!

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