第21話「4掛け」

 ドラキュラハンターVの言う通り、この日はそれ以上は何もなく、朝起きた時にも以前のように天井が開かれているなんてことはなかった。


『ぴんぽんぱんぽん』


 モニターが各部屋に降りてくると、ドラキュラの面を被った男が映し出される。


「皆様、素晴らしい朝が来ました。希望の朝です。現在の残り人数は5人。ここまで生きていたのは初です。今までは3日目には2人くらいに減っていたんですけど。誰か原因がいるんですかね? 真祖とか。もしくは今回は2つ名持ちの有名鬼を優先的に選びましたので、それだけ協力ということでしょうか?

さて、未だ4回に到達する方がいませんので、もう少し難易度を上げて行きたいと思います。

という訳で、そちらの建物を破壊させていただきます。

3階の渡り廊下から別館へと逃げることができますが、そこにはもちろんえげつない罠をご用意させていただきました。是非、死んでください」


 建物ごと破壊だって!?

 人間の僕は確実に命を落とすけど……。

 鋼森なんかなら、逆にそこから逃げられるんじゃ。


「おっと、補足させていただきますが、建物の崩壊に巻き込まれたら、きっと生き埋めになるでしょう。運が良ければ日光は遮られるかもしれませんが、私が用意した水銀とかニンニクとか、対吸血鬼用の武器とか、聖水とか、そういった諸々にずっと責められることになりますねぇ。仮に生き残れてもお辛いと思いますし、真祖で生き残ったなら私が直接手を下しにいきますから。そんな衰弱した状態で勝てますかねぇ? タイムリミットは日が沈むまでですので、朝食でも取って、最後の晩餐を楽しんでから死にに行きましょう!」


 確かに僕なら即死だし、他のメンバーでも数日も食糧血液がなければ衰弱するだろうし、そもそも弱点で死ぬかもしれない。


 でも、皆で協力すれば、全員で逃げられるかもしれない!

 それに、ここが破壊されるなら、少なくともVはここじゃなくて別館って方にいる可能性が高い。

 4回死ななくても見つけ出して終わらせることも出来るかも!


 微かな希望を胸に、僕は部屋を出る。


                ※


 廊下にはすでに鋼森以外が集まっていた。


「さてと、とりあえず、朝食でも取る?」


 三木谷さんの提案に全員が頷く。


「……赤城くんは特に。夕食食べてないし」


 こんな状況だから1食抜いたくらいではあまりお腹は減ってないけど、これからを考えると食べておいた方がいいだろう。

 だけど、その前に。


「僕、ちょっと行きたいところがあるから、皆で先に行っててよ。あっ、鋼森も忘れずに」


 今なら罠もないだろうとのことで、僕は皆と別れて行動する。

 行先は同じ階にある資料室。

 無力な僕はこの先、戦闘に巻き込まれたらただの足手まといになってしまう。せめて自分の身くらいは守れるように武装しておかないと。


 資料室に入ると、昨日見たときより杭が1本無くなっている。


「石垣が持ってた杭はここからか」


 全てVの手の平の上だったんじゃないかと思わされる。

 もしかしたら、僕のこの行動も……。

 

 ぶんぶんと首を振ってそんな考えを消し去ると、使えるか分からないけど、拳銃と弾丸。それから銀のナイフを拝借する。

 それから定番として、聖書を腹に詰め込んで、万一の攻撃に備える。


 あんまり露骨に武装すると、それはそれで真祖に間違われたり、人間ってバレたりするかもしれないからね。

 必要最低限だけど、相手を倒せる装備を整えて、僕は1Fの皆と合流することにした。


               ※


「おっ! 赤城、やっと来たか! 今日も普通にちゃんとした飯だぞ」


 鋼森は大きく手を振って僕を迎えてくれる。

 オーバーアクションが少し恥ずかしいけど、まぁ、こんな状況でこうして明るくいられるのは正直助かっている。

 僕は一直線に鋼森のところに向かうと、深々と頭を下げた。


「昨日はありがとう! おかげで助かりました。そして、ごめん。鋼森に石垣を殺させるようにしてしまって」


「え? ……あ、ああっ!」


 一瞬の間。もしかして、ほとんど忘れてた?


「気にすんなって、俺様たちは友達だろ。友達を助けるのは当然だし、そもそもお前が先に俺様を助けてくれてたんだぜ。石垣の爺さんは、俺様に向かって来たのが悪い。相手が格上かどうか見極められないやつはどの道長くなかったさ!」


 えぇ……、全く気にしなさすぎじゃないかな。

 むしろ倒したことを誇っている節さえ見受けられるし。

 仮にも同じ吸血鬼なのに……。いや、こういうところがルリが言っていた吸血鬼は眷属としか協力しないってことなのか。


 朝食を僕も取ってから、Vがやってきそうな事を話し合う。


「それで、Vがやってくる罠ってなんだと思う? 対策立てられるなら立てておきたいじゃん」


 僕の提案に、真っ先に鋼森が乗って来る。


「おっ! いいね! 俺様は何も思いつかないけどなっ!」


「そうだね。僕は、そもそも別館に入れないように鉄の扉で遮られているとかなじゃないかと思うんだけど」


「どうかしら、それって霧崎がいたらすり抜けられちゃうし無駄なんじゃない。死んでるのは結果論だし。あたしは屈強な超優秀でイケメンなハンターが道を塞いでくるかと思うわ。そして、殺されていく仲間たち、けれどもあたしとハンターは戦いのさなか目が会い、殺し合いつつも次第に惹かれていくのよ。そして、二人の逃避行が始まる」


「ぶははっ!! いや、絶対ないだ――がボッ!!」


 大爆笑の鋼森にキレイな右ストレートが入る。

 あれ、僕が喰らったら頭蓋骨粉砕くらいしてるんだろうな。


「失礼ね。あたしはこれでも恋多き乙女にして、絶世の美女。男なんて星の数ほど言い寄ってくるのよ」


「俺様は全然魅力感じないが?」


「あんた、そもそも人型に興奮しないでしょ! この蝙蝠がっ! それに、この集団は魅力的な男が居ないじゃない。まぁ、赤城はいい線いってるけど……、あとが怖いから無しよりの無しよ。無しって言ってるんだから、その射殺すような眼光控えてくれないっ!」


 三木谷さんはルリから怯えながら距離を取る。


「ルリはなにかある?」


「……まだ、断頭がない。Vは吸血鬼の弱点を執拗に攻めてきているけど、まだ断頭とか頭部を破壊する罠が一度もない」


 断頭、頭部破壊は確かに吸血鬼を殺すときに用いられることがあるよね。


「あれ? 俺様、頭部破壊受けた気が……」


 うん。Vからじゃなくて、三木谷さんから受けてるね。


「それならピアノ線とかかな? 走らせるような何かを罠として設置しておいて、そっちに注意が向いたときに見えないピアノ線で断頭とか。もしくは純粋に鉄球が打ち出されるとかかな」


「そうね、その辺りは結構ありそうな妥当な線ね。流石あたしのルリっち! 対策はどうしようかしら」


 三木谷さんが悩んでいると、マスオさんが急に立ち上がる。


「その程度の罠なら問題ない。俺が先に行く」


「あら、ルリっちのお兄さんも案外良い男かも」


 三木谷さんの目が獲物を狙う肉食獣のようになったのもかなり気になるけど、それより今はマスオさんの頼もしさの方が勝ったね!

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る