第11話「4階」
僕たちは廊下の中央付近にあった扉をくぐり、エレベーターホールへと着いていた。
ルリと三木谷さんは呼びに行った鋼森によって事情は把握し共にここに集っていた。
なぜか、鋼森は致死級のダメージを負っていて、首が180度回転していたことには驚いたが、大方ラッキースケベ的な展開から三木谷さんにやられたのだろう。
「皆様お集りでしょうか?」
モニターが降りてくると、ドラキュラハンターVが映し出される。
「ゲーマー、霧崎遊鬼さんは残念ながら真祖ではなかったようですね。いや~、実に残念です」
口では残念だと言っているが面越しでも一ミリもそんなことを思っていないことが分かる。
「さて、それはそれとして、皆様、昨夜はぐっすり眠れたでしょうか? そうでもないですか? 霧崎さんだけぐっすり永眠されたようですね」
いちいち煽りを入れないと気が済まないのかっ!!
モニター越しで無駄だとは分かっていても、思わず殺意が湧き出る。
「……赤城くん」
ルリの呼びかけでふと我に返ることが出来た。
そうだよね。今の僕の目的は皆で無事に脱出することだ。
「あ、ああ、大丈夫。ありがとう」
ふぅ~と深呼吸してから、再びモニターを見据える。
「さて、それではあまり眠れなかった皆様の為に、1Fに朝食のバイキングと遊戯室を解放しております。是非お越しください」
そこでモニターからの映像は終わり、「チンッ!」とエレベーターが到着する音が同時に響く。
「これに、乗れってことか……」
自動で扉が開くエレベーターを恐る恐る観察する。
エレベーター自体はかなり大きく、20メートル四方はありそうで6人が乗る程度なら余裕だ。
さらに詳しく内部を確認しようとしていると、
「よっしゃ! 一番乗り!!」
子供みたいにジャンプして飛び乗るのは、もちろん鋼森だった。
「うえぇええっ!!」
あまりの不用心さに思わず奇声をあげちゃったじゃないか!!
「どうした赤城? そんな声出して?」
「鋼森は罠とか疑わない訳?」
「はははっ! こんな小さい箱に罠なんか仕掛けられる訳ないだろ。心配性だなぁ」
いやいや、充分仕掛けられるよ。椅子にあれだけの仕掛けが出来たんだぞ! もっと大きいエレベーターなら罠を仕掛けるくらい余裕だろっ!
この考えは他全員も同じらしく、なんとも言えない、生暖かい眼を向けられていた。
「とりあえず、入ってすぐの罠はなさそうね」
次に入るのは三木谷さん。
そして、「さっきはごめんなさいね。こんな生い先短い相手と知ってたらもう少し優しくしてあげたんだけど」とぼそりと呟く。
「ん? なんかあったっけ?」
誰がどう見ても首が180度回転していた件だと思うな。
だけど、鋼森が気にしてないなら、何も言うまい。
2人が入ったことでぞろぞろと全員も入って行く。
離れた位置からでは分からなかったけど、エレベーター内部も豪華な作りになっていて、壁一面に
それに向日葵と言ってもほとんど枯れているようで、花は茶色くなっていて、中央には種が敷き詰められている絵ばかりだ。
それとなくゴッホの向日葵を思わせる。
いったい何の意味があるのかと考えていると、エレベーターが静かに動き始めた。
普通のエレベーターよりえらくゆっくり動いている気がする。
ようやく電子版の表示が3Fと変わると、なんだか焦げ臭い臭いが鼻につく。
どうしてもそんな臭いを嗅ぐと、霧崎くんの最後を思い出す。
「……っ!」
思わずうつむいたおかげで、僕が真っ先に異変に気付くことが出来た。
「皆、煙だ! このエレベーター燃えてるぞっ!!」
燃焼した際に生じる黒煙。まだわずかではあったけど、それが足元に流れている。
このエレベーター、燃えながら降りている!!
「Vのやつ、僕らをまとめて火あぶりにする気かっ!!」
とうとう四隅から炎が見え隠れするようになり、僕らは自然と中央へと集まる。
「火あぶりなんて、ずいぶん古風な手を使うじゃねぇか! くそっ! 太陽が苦手なやつはだいたい火も苦手なんだぞっ! やってくれるじゃねぇか!」
鋼森の悪態で、僕はルリの方を見る。
太陽がダメだと火もダメなの? それならルリも危ないんじゃ。
それ以前に僕もかなりマズイんだけど。
「赤城くん。わたしは大丈夫。たぶん死にはしないと思う。マスオ兄さんもいるし。それにエレベーターみたいな燃えるものがないところで一番の心配は呼吸」
確かに僕にとっては一酸化炭素中毒とか二酸化炭素で息ができなくなるとかそっちの方が深刻かもしれない。
火の手は、燃えるものがなければそこまで広がらないはずだし。
そんなことを思ったのがフラグだったのか、火の手は無常にもエレベーターの中まで俄然元気に回って来る。
「……なんで?」
驚いたルリの顔は新鮮だな。などと現実逃避に近い考えが浮かぶ。
けれど、次の瞬間には火の手の謎は解けた。
「油でもなければこうは……、向日葵。ひまわり油かっ!」
壁に描かれた絵はこれから火あぶりにするというヒントだったのか!
ひまわり油は種から取れる油だから、種の絵。
いや、そんなの分かるかっ!!
ヒントは与えるけど回避はさせない。効率と快楽を同時に満たそうとしている。霧崎くんの言った通りだ。
どうする。この状況。どうすれば回避できるんだ。
「ふ~~っ! ふ~~っ!! くそっ! 消えやがらねぇ!」
「……えっと、鋼森、何を?」
めちゃくちゃ頑張って炎に息を吹きかけているんだけど。
「何って俺様の息で炎を消すんだよ! ほら、赤城も手伝え!」
「いや、蝋燭の火程度ならそれで消えるけど、息なんか吐いたらむしろもっと燃えちゃうよ!」
「マジで?」
「マジで!!」
鋼森は心底驚いたように目を見開いてから、がっくりと肩を落とした。
「じゃあよう。イテーからやりたくなかったけど、これならどうだ?」
そう言うと、鋼森はノータイムで爪で自分の首を掻き切った。
首からは鮮血が溢れ、壁一面に広がる。
「風で消えねぇならよぉ。今度は水だぁ!!」
一部の炎はジュッと音を立てて消えていくが、それでも炎の勢いの方がまだ強い。
「くそっ! これでもダメか?」
これは逃げられないのか……。
考えろ。せめてルリだけでも無事に降りられる方法を……。
「…………っ」
ダメだ。何も思いつかない……。
せめて、まだ着てる僕のブレザーで少しでも熱を遮ってくれるのを祈るくらいしか僕には出来ない。
眼に煙が沁みたのか、それとも無力感からか、涙が頬を伝う。
「なるほど。良い案だ」
マスオさんの口から言葉が漏れると、マスオさんも手刀で手首を切りつけ血を流す。
そして、その血はぐるりと四隅の炎がこれ以上燃え広がらないように囲んで行く。
「油と遮断した。これで少しは時間が稼げるだろう。全員中央に集まれ、1Fへついたら扉を壊して脱出する」
血液は水と違って油に溶ける成分もあるらしいから、本当に時間稼ぎだ。
このゆっくりと降りるエレベーターでどこまで耐えられるか。
血液の包囲を突破しはじめた炎も出始めた頃、ようやく2Fの表示に。
火の手の方が1Fへ着くより早そうだ。
やはりダメなのか?
「ねぇ。あたしも燃えるのはイヤなのよぉ。だからぁ、その服、脱いでくれる」
三木谷さんの声が炎に包まれるエレベーター内に響いたんだけど。
何その内容!?
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