第8話「直4ゃ」
う、う~ん。
若干の寝苦しさ。
布団もなにも掛けていないのに、じんわりと暑い。
さらに目を閉じているにも関わらず眩しさがあり、思わず目を開ける。
知らない天井、すらなく、僕の眼前には太陽が
「いつの間に外で寝たんだっけ?」
そこで僕は跳び起きた。
「太陽がある!? ってことは外? 僕たち助かったの……」
けれど、僕が立つ場所は寝る前と同じホテルのような一室。
壁も変わらず、目の前には鏡台と棺桶もある。
ただひとつだけ、天井だけがない。
いや、目を凝らすと正確には天井は何か透明なアクリル板みたいなもので塞がれて、日光だけが入るような作りになっている。
「匠の技か!?」
日光をよりよく取り入れるような設計なのか?
いや、そもそも最初はちゃんとした天井だった。それが動いたのか?
なんの為に?
「……う、うぅ」
そのとき、ルリの小さな呻き声が聞こえ、咄嗟に僕とマスオさんが近寄る。
ルリは眩しそうに目を細め、小さな手で僅かな影を作ろうと掌を広げる。
そうか、そうだよ! 吸血鬼の天敵とも言える存在。太陽!!
その日光に当たって平気な吸血鬼は少ないはず。
マスオさんはすぐにルリをお姫様抱っこすると、扉へと駆けて行く。
まるでルリを抱えていることなど忘れるほどの身軽さであっという間に扉へと着くのだが、扉は施錠されているのかビクともしない。
「ルリ。これを!」
僕はブレザーをルリに被せてあげてから、全力でもって扉を蹴り飛ばした。
「…………」
けれど、扉は開くことはなかった。
こういうときって火事場のバカ力とかでスゴイ力が出て開くんじゃないの?
「赤城、くん。ありがとう。でも、少し苦手なだけ、ブレザー掛けてもらったから大丈夫だよ。ほら、学校にもわたし通ってるし」
そうは言うけど、僕はいままでルリが登校しているところも下校しているところも見たことがない。
今なら、その理由が分かる。彼女は日が出るより早く登校して、日が落ちてから下校していたんだ。
そんなルリがこれだけモロに太陽を浴びて大丈夫な訳がないっ!!
僕はもう一度扉を蹴り飛ばす。と、同時にマスオさんの蹴りも加わり、扉は無事に壊れて開いた。
廊下には天井が残っており影が落ちる。
普通にしていたら廊下の天井なんて気にしないけど、こうしてよくよく見ると、天井はパンジーっぽい花の模様が施されていて、やっぱり高級感に溢れる。
厳しい暑さと直射日光から解放され、ルリもどことなく落ち着いた顔になった気がする。
そのことに胸を撫でおろしていると、
「きゃーーっ!!」
女性の悲鳴が聞こえてくる。
ルリはここにいて、悲鳴なんてあげていないから、残りはあのグラマラスな女性。確か霧崎くんは三木谷さんって言っていたっけ。
その彼女の悲鳴であることは確実で、僕らは悲鳴が聞こえた部屋へ急いだ。
悲鳴が聞こえて来たのは3号室付近。4号室は石垣が使っているはずだから、3号室で間違いないはず。
3号室へ着くと、扉を開けようとしたが、その瞬間、内側からの轟音と共に勢いよく扉が開いた。
「信じらんないっ!! あたしのお肌が焼けちゃうじゃないっ!!」
開いた扉から出て来たのはグラマラスな美女。
そんな彼女は胸元が強調されるような黒のボディコン姿だ。
セクシーな胸元もさることながら肌の露出した肩や太ももがかなり煽情的であり、ルリ一筋のはずの僕でもついつい、目が行ってしま――、いやいや、ダメだ。ダメだ。
ふいっと目を逸らすと、そこには扉に拳のあとがクッキリハッキリ残っており、一気にヒュッと冷める。
どれだけ美女でも吸血鬼なんだ。人間の僕なんか一瞬で殺せるし、僕の全力の蹴りでも開かなかった扉でも容易に開けることが出来る膂力があるんだ。
冷静になったおかげでふと、違和感に気づく。
「あれ? 悲鳴をあげていたけど、大丈夫そう? そもそもなんで悲鳴を?」
僕が訝しげにしていると、
「もー、最悪。あたしの白い肌が小麦色になっちゃうじゃない! ちょっと誰か日焼け止め持ってないの?」
誰からも返事がないことに不満を募らせ、三木谷さんは唇を尖らせる。
「なら、オリーブオイル! あれ代わりになるし、昨日の料理にも使われてたから食堂探せばあるかも! 探しに行くわよ! ほら、あんたボケっとしないで!! 見つけたらあたしの体にオイル塗る権利あげるから」
僕の腕を掴み、食堂へと向かおうとしたその時、鋭い手刀によって三木谷さんの手が弾かれる。
「……ダメ」
太陽から逃れたことで回復してきたルリは、僕のブレザーを頭からすっぽりとかぶりながら僕と三木谷さんの間に入る。
「……わたしが探す。赤城くんはダメ」
「ふ~ん。そっか、そっか。そういうことね」
三木谷さんは何故か僕とルリを交互に見比べてから、うんうんと頷く。
「あたしの趣味じゃないから大丈夫よ。たまたま近くに居ただけだから安心して」
三木谷さんはパチンとルリにウインクして、ルリの手を引いて食堂の方へと向かっていった。
嵐のような人だったな。
これで悲鳴の件は大したことなかったって分かったし、一安心かな。
他の人たちはどうだろう。
僕らが7号室。三木谷さんが3号室。石垣が4号室だったから、1、2、5、6号室のどこかに霧崎くんと鋼森が居るのかな。
でも、とりあえず、一番近くて部屋の分かっている石垣から確認しに行こう。
「えっと、マスオさん、扉あけるの手伝ってもらってもいいですか?」
僕の力じゃ開かないし、手伝うというより、やってもらうなんだけど。
マスオさんは、無言で頷き肯定の意を見せてくれた。
無言で何考えているか分からないけど、ルリのお兄さんだし、僕にも概ね友好的みたいなのは、この吸血鬼だらけのデスゲームでは頼もしく感じるよ。
隣の4号室に移ると、まずはノック。うんともすんとも、何も反応は返ってこない。
「もしもし! 石垣さん!! 大丈夫ですか!?」
全力で叫んでもやっぱり反応はなく、僕はマスオさんの方を見ると同時に扉に蹴りが入る。
扉は簡単に開き、マスオさんも首を傾げる。
「鍵が掛かっていない」
その違和感を裏付けるように、部屋の中は明るいものの、特に天井がないということもなく、さらに言えばその環境で石垣は悠々と体操をしていた。
「なんじゃ騒がしい。こんな早朝に来るなんぞ、常識外れもはなはだしい」
確かな言い分ではあるのだけど、今は非常時。非常時のはずなんだけど……。
「その、日の光は大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、太陽を克服できん
石垣はこれから寝ますとでも言うように、棺桶の中へ身を横たえる。
「棺桶は危険じゃ……」
「この仕掛けのことかのぉ?」
石垣は半身を起こし、棺桶の蓋を掴むと、窓から差す日の光にかざした。
棺桶の蓋は黒いはずだったが、かざされたそれは透明に見え、日の光が透き通ってきている。
「小さな穴でも無数に開いておるのじゃろ。日の光を通し、寝ている吸血鬼を殺そうという品じゃろうて。まぁ、ワシには関係ないがのぉ。ぽかぽかとした日の光を受けて寝るというのも乙なものじゃ。ほれ、わかったらさっさと出ていけ。いまからワシは寝るんじゃから! だが、もし誰かがこの罠で死んでいたら報告に来るがよい」
ニヤリと笑う石垣に嫌悪感を抱きながらも、無事だったことに安堵もしつつ部屋を後にする。
次に5号室、6号室と調べて行くが、この2部屋は試しにノブを回してみると鍵も掛かっておらず、簡単に開いた。案の定、空室ではあったけど。
未だ、霧崎くんと、鋼森の姿は見えない。
「いよぉ! 何してんだ?」
背後からの声に振り向くと、そこにはピンと剃り立ったモヒカンを携えた不良。鋼森の姿。
「鋼森? どこに行っていたの?」
「ああ、俺様は不覚にもよぉ、あのまま食堂で寝ちまって、さっき女連中に叩き出されたんだが、何かあったのか?」
僕はことの経緯を説明すると、
「そりゃ、ラッキーだ。俺様、ニンニクと太陽だけは苦手でよう。間違いなく死んでたわ」
未だに右腕は回復していないようだけど、バカみたいに明るく、怪我のことなど感じさせない。
「で、他のやつらは無事なのか?」
「石垣さんは今も寝てる。あとは霧崎くんがまだだけど……」
「ふ~ん、なら手分けするか、俺様は2号室。あんたは、えっと……」
そう言えば、僕の名前を言ってなかった。
「僕は赤城、赤城トシユキ」
「おう、そうか、赤城ね。そんじゃ、赤城と百目木の旦那は1号室で」
僕らは手分けして探すことに。
でも、1号室の前まで来ると、なんとなく嫌な予感に襲われる。
そして、やっぱり鍵が掛かっていて、マスオさんに無理矢理開けてもらう。
中からは、黒煙と焦げた臭い。
「霧崎くんっ!!」
無我夢中で部屋の中へと飛び込んだ。
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