シンソゲーム ~吸血鬼の真祖を殺すデスゲームに巻き込まれた~
タカナシ
第1話「開4」
夕日が傾き、周囲が朱に染まる中、僕は一世一代の大勝負に出ていた。
学校の裏庭。大きな桜の樹の下で僕の心臓は運動もしていないのにバクバクと大きく脈打っていた。
ここまでのシチュエーション。これから僕が行うことは1つしかなく、自然と心臓の件も察しがつくだろう。
これから僕は告白する。
相手は同級生の
物静かな文学少女って感じの女の子で一人でいることが多い。
学生にとって模範的な身だしなみの彼女は唯一髪だけ校則をわずかに逸脱しておりミニボブにしつつも前髪は目が隠れるまで長い。
滅多に目が合わない、けれどもその素顔は美少女。そのミステリアスな雰囲気、ギャップから一部の男子から人気もある。
そんな彼女を好きになったのは僕の特異体質からだった。
僕は興奮すると目の色が変わる。
比喩ではなく、本当に紅く変わるのだ。小さい頃は吸血鬼みたいだと不気味がられたその特徴を彼女はキレイと言ってくれた。
それだけで僕は救われたし、彼女を好きになるのに充分な理由だった。
そんな彼女は僕より遅れて桜の樹に到着する。
「えっと、赤城くん。話って?」
控え目な態度で接する彼女に。僕は出来る限り驚かせないようにゆっくりと相手に聞こえる最低限の声で告白を――出来なかった。
「百目木さんっ!! 僕と付き合ってください!!」
めっちゃ大きな声が出た。
たぶん、いや、確実に今の僕の目は紅くなっているだろう。
「えっ、あ、その、……どっち?」
案の定、僕の大声に百目木さんは狼狽えてしまった。彼女の返事の意味が僕にはすぐには分からず、少しの間考え1つの結論に至った。
「あ、どこかに行くか。恋愛的な意味かってことかっ! それはもちろん――」
ドカッ!!
急に後頭部に衝撃が走り、意識が遠のく。
僕が最後に見たのは百目木さんに襲い掛かる暴漢の姿だった。
「やめ――」
わずかな抵抗虚しく、そのまま意識を手放した。
※
「う、うう……」
目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。
真っ赤な絨毯が敷かれた床は、柔らかな弾力があり、寝転がっていたにしては体に痛みがない。
「ここは、どこなんだ?」
周囲を見回すと、ここは宴会場みたいなフロアになっているようだが、椅子やテーブルといった調度品の類はなく、一面赤の絨毯が目に痛い。
そして、そんなフロアには僕以外に5人の男女が寝そべっていた。
「っ!? 百目木さんっ!!」
僕が告白した女性。百目木ルリさんも同じように倒れているのを見つけると、慌てて駆け寄った。
「大丈夫っ!?」
女性の体に触れるのは一瞬気が引けたがそんなことを気にしている場合じゃない。
肩をゆすってみると、「うぅん……」と艶っぽい声がもれる。
「ご、ごめんっ!!」
慌てて手を離すと同時に彼女がただ寝ていただけという事実に安堵する。
「そうだ。ほ、他の人たちは?」
他にも倒れている人たちがいるが、その安否も確認しようとした瞬間、ブレザーの襟が急に引っ張られたかと思うと、後ろに放り投げられた。
「うげっ! な、なんだっ!!」
まるで百目木さんから無理矢理引っぺがされたように後ろに転がる。
起き上がって百目木さんの方を見ると、トレンチコートに身を包んだ大男がこちらを見ている。
「あ、あんた。百目木さんに何する気だっ!!」
男はしばらく無言でこちらを見ていたかと思うと、ゆっくりと口を開いた。
「すまん。妹の知り合いか」
へっ? 妹? この人、百目木さんのこと妹って言った?
改めてまじまじとトレンチコートの大男を見る。
身長は2メートルは優にありそうで、ガタイも良い。そこだけ切り取るとまるで兄妹には見えない。顔は百目木さんと同じ美形の類だがあまり似ているとは思えないんだけどなぁ。
「えと、あまり似てない気がするんですけど」
「…………」
僕の言葉に応える気はないらしく、百目木さんの安否を確認している。
ただ、僕とは違って不慣れな感じはなく、頭を抱えてから、揺り起こしていた。
そのまるで身内に対するような応対。兄妹というのも本当だろう。
「う、うう、マスオ………兄さん?」
百目木さんの兄はマスオと言うらしい。
彼は百目木さんの無事を確認できると、一瞬僅かに笑みを浮かべると、すぐに真顔に戻る。
「赤城くんも? ここは?」
「わからない。僕が起きたときには皆まだ寝ていたんだ」
現在はそれぞれ起きだし周囲を確認して、その中に一人が唯一ある扉に手をかける。
――がちゃがちゃがちゃっ!!
「クソがっ!! 鍵が掛かってやがる」
苛立ちを隠そうともせず、ガンガンとその扉を蹴り飛ばす。
他の人たちもこの状況に戸惑っているようだし、どう見ても何かを知っている人はいなそうだ。
他に変わったことと言えば、いつの間にか嵌められた腕時計のようなもの。画面はディスプレイタイプになっているようだけど、時間どころか画面が表示されない。
壊れているということはなさそうだし、電源が入ってない?
なにかボタンでもないかと探してみると、バンド部分がロックされているようで取り外せない。
なんなんだ。この時計、こんなの、まるで映画とかでよくある――。
デスゲームみたいだ。
そんな考えがふと脳裏を過ると同時に、『ぴんぽんぱんぽん♪』という気の抜ける音と共に扉と反対側にモニターが降りて来る。
モニターが降り切ると、電源が入り、そこには一人の人物が映っていた。
体にはマントのようなだぼっとした服を羽織り、顔にはお面。
お面はハロウィンで見るようなテンプレなドラキュラ。格好良さは僅かもなく、製作者は可愛いと思って作っているのかもしれないが可愛さもほとんどない安そうなビジュアル。
だけど、こういう場面では逆に不気味に見える。
「皆様、こんばんは。私、ドラキュラハンターVと申します。突然でございますが、シンソゲームに参加いただいた皆様にはこれから死んでいただきます」
シンソゲーム? やっぱり、デスゲームなのかっ!?
ドラキュラハンターなのに、なぜ自分がドラキュラの面をつけてるんだ。デスゲームなんてやる黒幕はネジの1つ2つぶっ飛んでるのか?
「ふ~む。そりゃ、オカシイのぉ」
真っ先に声を上げたのは、グレーのスーツにハットを目深にかぶった老人。
真っ白な口ひげがもごもごと動く。
「わしらを捕まえた時点で殺すことは可能じゃったろうに。わざわざ目が覚めるまで待っとったのはなぜじゃ?」
「さすが古老、
私の真の目的。それは真祖吸血鬼を探し出し、この手で始末すること。吸血鬼の王とも言える真祖を殺せば、私の地位、名声はもちろん、すべてを手にすることも可能!」
はっ? なに? どういう事? 吸血鬼? 吸血鬼ってあのフィクションの世界の怪物だろ? それがなんで?
僕の困惑など意に介さず、話は進んで行く。
「ただし、真祖吸血鬼を見つけるのは至難の技ですね。普通の吸血鬼に擬態されていたら判別は難しい。ただ、真祖には1つ、どんな弱点もなく死なないという特性があります。
ですから、手始めに4回くらい死んでみてください。私が吸血鬼には致死に値するトラップをこの屋敷に満遍なく仕掛けてありますから。さすがに4回も死ななければ真祖である可能性が高いでしょ? 一人一人殺るよりまとめて罠で殺った方が効率もいいですし、反撃の可能性もないですしね」
仮面越しでもクツクツと笑っているのが分かる。
「なるほどのぉ。理には適っておるが――」
――ばんっ!!
石垣と呼ばれた老人の話途中に壁を力任せに叩く音が邪魔をする。
「あぁん!! ふざけんな!! テメーいますぐここに来いやっ! 俺様がぶっ殺してやる!!」
扉を蹴っていたモヒカンにレザージャケットのいかにも不良という出で立ちの男が啖呵を切る。
「いや、だから私が相手にするのは真祖だけです。あなたはちょっとうるさいですから静かにしていてください」
その瞬間、モニターから機関銃の砲が出たかと思うと、幾重もの杭が射出される。
「……あぶない」
僕と百目木さんはマスオさんに抱きかかえられ、一瞬で杭の絶対届かない位置まで跳躍する。
「あ、がっ、がっ……」
不良は削られるように杭で打ち抜かれ、辛うじて人間の骨格を残すだけの肉片となっていた。
垂れ流れた血は赤い絨毯に飲み込まれ、まるでもともと血液などなかったかのように目立たない。
「う、うわぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁっ!!」
僕の叫び声だけが部屋の中に轟いた。
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