第18話「4ん偽」
マスオさんの部屋の前へと着くと、僕はノックするのを躊躇する。
なんて言えばいいのか。
そして、もし協力者だった場合、どうすればいいのか。
未だに考えがまとまらないままだ。
――ドンドンドンッ。
けれど、そんな僕の考えなんか無視するように、無遠慮に鋼森がノックする。
「旦那っ! 聞きたいことがあるんだけど!!」
ノックしてもマスオさんはなかなか出て来ない。
次第に鋼森のノックは良く聞く洋楽のようなリズムで叩き始める。
こいつ、もしかして、楽しくなってないか?
じとっとした目で見ていると、そこでようやく扉が開いた。
「なんだ?」
「旦那、ここじゃあ何だから、部屋に入れてくれよ」
マスオさんはなぜか僕の顔を見てから、部屋の中へ招き入れる。
部屋のソファを勧められ、僕と鋼森は座り、なぜか部屋の主であるはずのマスオさんは突っ立っている。
気まずいでしょ! マスオさんも座ろうよ!
何か座れるものはないかとキョロキョロしているうちに、鋼森は空気なんて読む気もなく、単刀直入に切り出した。
「旦那。旦那も協力者の存在は聞いたよな。旦那は協力者か?」
そんな聞き方したら、まず間違いなく『違う』って答えるでしょ。
「違う」
案の定の答え。
そして、こちらも。
「なんだ。そうか! それなら協力者なんてきっと居ないんだな」
「いやいや、そんな言葉だけで信じるの!? 僕だってマスオさんは違うとは思うけど……」
鋼森は少し考えこんでから、手を打った。
「そっか。そっか。これは誰にも言ってなかったからな。俺様、相手の嘘がそれとなく分かるんだよ。完璧じゃないが、嘘っぽいってところまで顔の動きで分かる」
「マスオさん、顔、微動だにしてないよ!! しかも、今に始まったことじゃなく、常に!! オールタイム!!」
「何言ってるんだ赤城。普通に動いてたぜ。なぜか分かんねぇけど、百目木妹とお前が危険に晒されると焦ったように動いてたぞ」
焦ってた? マスオさんが? 僕には無表情にしか見えなかったけど。
「反射」
マスオさんの声がぼそりと響く。
「さすが、旦那。気づかれたのは初めてだぜ。俺様は蝙蝠の吸血鬼。超音波の反射で細かな違いを読み取るのはお手のもんって訳だ。ただ、モニター越しじゃもちろんわかんねぇ」
「な、なるほど」
そういえば、鋼森の飛ばされた腕、何かに似ていると思ったのは蝙蝠の腕だったのか。実際の蝙蝠と比べると巨大すぎて全然同一視できなかった。
「あれ? でも、そうなると協力者は誰? 石垣?」
「いんや、石垣の爺さんも別に嘘を言っているようには見えなかったな」
その他の可能性としては、ルリや三木谷さんが実は女性じゃなかった場合?
いやいや、それは考えづらいよね。
「じゃあ、もしかして、本当に誰も協力者じゃない?」
そもそも思い返せば、ハンターは吸血鬼の誰かのときは、Vが居なかった協力しなかったってこと。そこまででVに殺されたから、僕たちは情報を失って、勝手に協力者がいると思い込んでいた。
そうでなければ、あの場面で殺すはずがないからだ。
これも全てVの罠のうちなのか?
それなら、鋼森のおかげでその罠は回避したと言ってもいい。
あとは、この罠を後押しするように置かれた秘密を書いた手紙。
僕と鋼森は問題ないとして、マスオさんはどうなんだろう。
「えっと、答えなくてもいいんだけど、マスオさんも秘密を暴露するっていうような手紙があった?」
マスオさんは無言でその手紙をチラッとだけ見せる。
「内容は見せるつもりはない。これがバレるのならば、自ら死を選ぶ」
「えっ!? そんなっ!」
そんなセルフを言っているときでもマスオさんは無表情を崩さない。
いったいどんな秘密なんだ?
「だから安心しろ、秘密は漏れない」
それきり、マスオさんは無言を貫く。
「ま、旦那が協力者じゃないって分かっただけ良しとしようぜ。つーか、全部Vの作り話だろ。全く、誰も得しねぇのに、マスオの旦那を疑っちまった」
その鋼森のセリフで僕はふと、誰も得しないっけ? と思ってしまった。
そもそもマスオさんに聞きに行くよう言ったのは、石垣だ。
彼がそんな誰も得しないことをわざわざするのか? そもそも協力者とか気にするようなタイプではないんじゃないか?
そんな考えが巡り、石垣は何をしたかったのか。その結果は今、こうして僕たち男性が集まっている。
「ルリと三木谷さんが危ないんじゃっ!?」
秘密を暴露されたくなくて、殺そうとしている?
いや、順番が違う。
秘密は関係なく、殺そうとしているのか? なぜ?
可能性はある!
石垣は早くこのゲームを終わらせたがっていた。
そして、この2Fでは僕らが殺してもカウントが進む。
「ルリが危ないっ!!」
ルリはすでに3回死んでいることになっている。あと1回で4回に達成するけど、その方法でもし本当に死んでしまったら?
Vの罠を潜り抜けてもカウントされた今までとは違って本当に死ぬような攻撃でカウントが進むことになる。
そんな賭けみたいなことをルリにさせられない!!
僕は誰よりも早く部屋を出ると廊下を駆け出した。
すぐに続いてマスオさん、鋼森と続き、ルリの部屋の前へと到着する。
扉を開けようとするが、チェーンが掛かっていて開かない。
わずかな隙間から、中の様子を見ると、そこには、木の杭を持った石垣が今にもルリに襲いかかろうとしているところだった。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
叫び声も虚しく、杭は振り下ろされた。
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