第17話「脅4」
2Fへ上がると、そこには4Fと同じように部屋が並んでいる。
それとは別に奥に空間があり、資料室と書かれている。
資料室と書かれたプレートはよく見るとその前が削れている。
もしかすると、そこはこのホテルの場所が分かるワードだったのかもしれない。
まずはルリの様子から見て行こう。
どこかの部屋に居ると思うんだけど……。
各部屋のプレートを見ると今度は番号ではなく、テレビで見る大物の楽屋のように名前が明記されている。
わざわざそれに従う必要もなさそうだけど。
そう思いつつも、ルリの居場所が一発で分かる為、実際には助かった側面もある。
僕はルリの名前が書かれた部屋をノックすると、
「……誰?」
「赤城。赤城トシユキだけど」
「赤城くんっ! ダメ。入らないで! お願い……」
切実な声に、僕は扉を開けるのを躊躇する。
もしかして、また着替え中とかなのかな。
「分かった。とりあえず、具合は大丈夫?」
「……うん。大丈夫だから」
部屋に罠はとりあえず大丈夫そうだね。
Vの言う通り本当に罠はないのかもしれない。
なんだろう。すごく疲れているような気もするけど、今は目を瞑るのも不安だし、何かしていた方が気が楽だ。
資料室に行ってみよう。
Vが嘘をついていなければ、罠はないはず。
一応、いままでVは隠してはいても嘘は言っていない。なら、今回も嘘はなく罠もないだろう。
資料室の扉を開けて中へ入ると、そこには、資料室というより博物館って感じで、色々な物が展示されていた。だけど――。
「なんだよ。これ……」
そこには吸血鬼退治の歴史とでもいうような資料。西洋の吸血鬼だけでなく、東洋のものまであり、さらには最近のマンガ、ライトノベルの吸血鬼ものまで完備されている。
だけど、一番目を引いたのは、武器だった。
銀で出来たナイフ。木の杭。拳銃とその傍らに銀の弾丸や何やら呪文の刻まれた弾丸。十字の剣に本物か不明だけど、鬼を切ったとされる刀、『鬼切』まで置いてある。
他にもニンニクや聖水。十字架。お札に聖書。
吸血鬼を倒す身体技術の教本まで様々だ。
「……もしかして、僕らに殺し合いをさせたいのか?」
思わずそんな言葉が口から洩れる。
そう言えば、それが一番てっとり早いみたいことも言っていた気がする。
ま、でも、ここまで露骨に殺し合いさせますよってのにわざわざ乗る人はいないでしょ。
ある程度、皆の性格も分かって来たし、ここに来て軽率な行動を取る相手はいない。そう構えて、僕は自分が割り当てられた部屋へ入る。
部屋の中はふかふかのソファがひとつとテーブル。あとはクラシック音楽が聴けるようにCDプレイヤーが置かれている。あとはアロマのお香らしきものがあるけど、とても火をつけてみようとは思わない。
あとは小さい冷蔵庫があって、中には菓子パンとかサンドイッチ。それと飲み物がお茶と栄養ドリンクが1本ずつ。
ホテルのドリンク類はあとでお金を請求されそうだな。
Vの言ったことに偽りはなく、リラックスできるような部屋には確かになっている。
罠らしきものも一見しては見つからないね。
あとはワザとらしくテーブルの上に置かれた手紙くらいだ。
『赤城トシユキ様へ』
しっかり僕宛の手紙のようだ。
封を開けて中身を見て見ると、普通に紙の手紙が入っている。
「赤城トシユキ様。あなたがただの吸血鬼でないことは知っています。吸血鬼と人間のハーフ。ダンピールであることをもしバラされたくなければ、明日までに真祖を見つけるか、真祖以外を脱落させてください」
いや、僕、両親とも普通の人間のはずだけど。
ただ、そう勘違いされて捕まったってことか……。
でも、これって、クソっ!!
僕らを殺し合わせるのが、ここの罠ってことか!!
こんな秘密を暴露するような脅しを添えてっ!!
それなら確かに、この階には何も罠なんて仕掛ける必要がないよね。
もしかして、ルリのところにも同じような秘密が書かれた手紙が!?
それならさっき僕に入って欲しくないって言った理由も。
どうする?
まだ今日は始まったばかり。
すぐに誰かを殺そうとする相手はいないはずだ。
……だけど、本当にそうか? 相手は吸血鬼だ。今までも散々倫理観や死生観の違いを目の当たりにしてきたじゃないか。
この扉を開けたら刺されるなんて普通にあるかもしれない。
ルリなら信用できるけど。僕が果たしてルリの元まで安全に行けるのか。
霧崎くんならどうする? そもそも彼なら吸血鬼だし、すぐに殺されるなんて考えないか? いや、違うっ!!
きっと霧崎くんなら、ハイスコアでクリアするためにVがもっとも取られたくない行動を考えるはずだ!!
つまり、僕は、部屋の外へ出て。ルリたちと協力する!
そして、出来る限り皆とも協力して、この事態を回避するんだ。
思い切って部屋の扉を開けて廊下へ出ると、
「うわぁっ!!」
部屋の前にはモヒカンに革ジャンの見るからに不良テイストの吸血鬼、鋼森が立っていた。
「おいおい。人の顔見て驚くなんてヒデェな」
「いや、いきなりいたら誰でも驚くでしょ?」
「そうかぁ? 吸血鬼の登場なんて、皆そんなもんじゃないか?」
音を立てずにひっそりといつの間にか居るってのは確かによく見るけど。
「そうそう。それでよぉ。さっきの石垣のジジィの言ったことも気になるし、マスオの旦那のとこに行ってみねぇか?」
「そ、それはいいけど、鋼森は自分の部屋で手紙は見た?」
「あぁ、手紙? 手紙ね。見たけど、俺様、漢字が苦手でよう。何書いてあるのかサッパリだぜ。持ってきたから赤城が代わりに読むか?」
これは結構危険な秘密が書いてありそうだし、もし読んだ瞬間、僕の口封じをしたくなる可能性があるよね。
よし、断ろう!
「いや、個人の秘密が書いてあるみたいだから、見せない方がいいよ」
「俺様の秘密? なるほど、確かにそれは困るな」
やっぱり知られたら困るような秘密があった!
危ないっ!!
「でも、赤城になら知られても大丈夫だぜ。今度、このモヒカンをカットしてくれてる穴場の美容院教えてやるぜ」
……えっ?
「穴場の美容院って聞えたけど」
「おうよっ! すげー腕がいいのに、あんまし客がいないから、教えちまって、混むと俺様が困るからよぉ。しかも、そこ、夜もやってるから吸血鬼でも行けちまうんだぜ!」
「え、えっと、ああ、じゃあ、今度教えてよ」
「おう! それじゃ、さっさと旦那のとこに行こうぜ」
うん。鋼森は絶対に協力者とかじゃないね。
そうなるとあと残ってる男は石垣とマスオさんしかいない。
僕は不安に胸を押しつぶされそうになりながらも、鋼森についてマスオさんの元へと向かった。
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