第4話「4肢欠損」
「なんでだっ!! ルリはちゃんと全部食べたはずだろっ!!」
いますぐにでも主催のVに飛び掛かりたかったが腰に巻かれたベルトが邪魔をする。
くそっ! ただの人間の僕にはどうしようもないっ。
「なんでですか? それは当事者が一番分かっていると思いますが、いいでしょう。説明させていただきますね。まず鋼森さんは言わずもがなですね。そして百目木
兄弟の百目木ルリさんは、食事をあなたに食べてもらっていましたね。そして最後、ゲーマー
言われて見ると、その小さな手は焼けただれたようになっている。
「あれれ~、ぼくはちゃんと食べきったけど、約束が違うんじゃないのかな~?」
僕が代わりに食べたルリよりも正当な意見を述べる霧崎くんと呼ばれた子供。
子供っぽい口調なのに、どこか大人びたように感じるのは僕だけだろうか?
「食べきったら毒を流さないなんて信じたんですか? おめでたいですねぇ。いえ、それともガキなんですかねぇ。こちらも何度もシンソゲームをやっていて、切り詰められるところは切り詰めたいのです。今回の食事の目的は、皆様の中にニンニクか銀が苦手な方がいないか確かめる為のものなのです。
つまり、毒とは水銀、そしてニンニクです」
水銀は確かに紛れもなく毒だ。だけど、ニンニク? ニンニク注射ってのがあるくらいだし、そっちは大丈夫なんじゃ?
「ではまず、銀が弱点となりそうな鋼森さんと霧崎さんから行きましょう」
腕に刺されていた針からゆっくりと銀色の液体が流れ込む。
水銀。毒だ!!
「やめろっ!! 霧崎くんはまだ子供だろっ! そんな子に毒なんて!!」
僕の叫びなんかこの場面ではなんの意味もなく、Vは気にすらかけない。
「はぁ、くだらない。でも――」
そんな中、霧崎くんは急にその場から姿を消す。
蒸発でもしてしまったかのようにモヤだけが立ち込める。
「えっ? えっ?」
「お兄さんは少し面白いね」
数秒後、突如僕の耳元から声が聞こえる。
それは先ほどまで椅子に拘束されていた少年のもの。
「この中で、ぼくを子供扱いするのなんて、せいぜい、古老の石垣さんくらいだよ」
くすくすと無邪気さとはかけ離れた笑い声を発し、いつの間にか拘束から逃れている。
「な、なんで、そこに?」
「んー? 吸血鬼には霧になれるのもいるんだよ。知らなかった? まぁ、それより今はぼくよりあっちを気にしてあげた方がいいんじゃない?」
霧崎くんが指差す先は、鋼森。その腕には水銀が容赦なく流れ込んでいくのだけど。
「水銀を入れてくれるのか? そいつぁありがたいね。確か不老不死の薬だろ?」
と、平然としている。
確か、始皇帝は水銀を不老不死の薬として飲んで、それが原因で死んだって話はあったけど……。
「いや、水銀が不老不死の薬はデマだよ!!」
「はぁっ!! マジか!? ……そうだったのか? クソっ! 騙されたっ!!」
鋼森は怖そうに見えるけど、意外と残念な人なのかな?
すでに人外なのは確定しているけど、鋼森は水銀が体に入ってもなんともないようでピンピンしている。
「それじゃあ、次はニンニク注射です。候補は二人だけど、果たして耐えられますかね?」
Vの言葉にルリは顔色ひとつ変えず、それどころか、僕の方を向いて、
「大丈夫だから。わたしが苦手なのは、その、……トマトなの」
と食べられなかった理由を恥ずかしそうにしながら説明する。
ほっと安心しつつも、心のどこかで、ニンニク注射なら大丈夫だろうというのもあった。
「俺様にニンニクかぁ? 別に食えない訳じゃあない。食べると腹痛がして咳がしばらく止まらなくなるだけだからよぉ。無駄なんだよ。そんなこと」
えっ?
いや、普通、そんなことにはならないし、食べたとき咳と腹痛ってことは、ニンニクが通った場所にダメージが。
そんなのが血管に打たれたらマズイんじゃ。
「おい! あんた。絶対マズイだろ。逃げろよっ!!」
「あぁん? なんだテメー。俺様に逃げろだと? ふざけるな。この程度で逃げる鋼森様だと思ってんのか?」
「どう見ても、ニンニクが弱点だろっ!!」
そうしているうちにニンニク注射が始まる。
万一の可能性もあり、ルリも注視しているが、彼女は平然としている。
むしろ肌つやが良くなってきている感さえあった。
だけど、鋼森の方は。
「がぁぁぁぁぁ、痛い。痛いたいタイあたたたた。がああああああああああああっ」
痛みに苦しみ始め、ニンニクの流れを抑えようともがくが腕の拘束により身動きが取れていない。
「誰があああああああああああああ」
しっかりと固定されている椅子がガタガタと動く程、鋼森は暴れ苦しんでいた。ニンニクが流れる先から血管は膨れ上がり、腕は倍ほどに大きく見える。皮膚を突き破った先からは多量の出血が見られ、穴の開いた水風船のように血液がピューピューと溢れ出している。先ほど杭で撃たれたときとは段違いの苦しみ様に、思わず目を背ける。
「誰か助けられないのかよ……」
目を逸らす先は他の吸血鬼たち。
けれど、誰もが拘束されていて、身動きは取れないし、僕だってそうだ。
自分の無力さに涙が出てくる。
唯一この場で動けるのは……。
「いや、子供に霧崎くんに頼むのはダメだ」
僕でさえトラウマものの情景。子供に見せる訳には、ましてや、助けるように頼むなんて……。
「ふ~ん。まだ、子供だと思ってるの? 本当に面白い人だねぇ。ま、とはいえぼくもこの状況をどうにか出来る訳じゃないんだよね。ぼくに出来るのは精々これくらいかな」
なぜか霧崎くんは手が焼けるにも関わらずナイフを持つと、それをマスオさんの手に突き刺した。
「えっ!? 何をっ!?」
僕が驚く間にもマスオさんの手から血がどくどくと溢れてくる。
その血はあっという間に腕の方まで染め上げる。
いや、いくらなんでもナイフで刺されたにしては出血量が多い。多すぎる!!
もしかしてマスオさんも銀が弱点なのか!?
でも、当のマスオさん自身はそんな多量の出血にも関わらず、涼しい顔をしており、何かを確認するかのようにルリの方を一瞥すると、
「……運が良かったな」
とだけ呟く。
次の瞬間、腕まで広がり続けるだけだった血液がまるで意思を持ったように、しなる蛇のごとき軌跡で鋼森へと向かっていき、
――ザンッ!!
鋼森の張れ上がった腕を切り裂いた。
「があはっ!! はぁはぁ、す、すまねぇ」
ニンニクという毒から解放された鋼森は、荒い息使いをしながらも礼を述べる。
「おや、皆様生き残ってしまったようですね。残念です」
ドラキュラのお面で顔は伺えないが明らかにガッカリしている様が伝わる。
「さて、それでは夕食も済みましたし本日のシンソゲームはここまでにしましょう。皆様には次の扉を進んでいただきますと宿泊室を各自ご用意させていただいておりますので、お好きなお部屋をお使いください。また広間と食堂はお好きにお使いくださって構いませんので、できればこちらで殺し合いでもしていただけると手間が省けて嬉しいのですが。はっはっ」
モニターの映像が切れ、真っ暗な画面に自分の姿が小さく薄っすらと写る。
それと同時にようやく拘束から解き放たれるのだった。
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