第13話「告白の4ん展?」
「皆様、無事にエレベーターから降りられたこと、大変喜ばしく思います」
慇懃無礼な調子のドラキュラハンターVの声と共にモニターが天井から降りて来る。
「ここでただ今の皆様の死亡数ですが、鋼森様、百目木ルリ様は2回。それ以外は1回となっておりますので、もう少々頑張って殺していきたいと考えております。
さて、そんなところで香ばしい匂いもされておりますし、お腹が空いたのではないでしょうか? そちらの扉をくぐり左手に朝食バイキングをご用意させていただいていますので、是非ご賞味ください。もちろん、毒などは入っていないです」
また毒は入っていなくてもニンニク料理だったり、食べれなかったら毒を注入する気では?
「同じような手は使いませんのでご安心ください。私の目的はあくまで真祖を見つけ出し、殺すこと。同じ方法では真祖を見つけることはできませんからね」
その言葉を半信半疑に受けながら、僕たちは言われた場所へと向かう。
ダイニングのように開かれた場所には、パンとたまご料理の数々、それにベーコン、ソーセージといった食肉加工品。サラダやヨーグルトも完備され、ドリンクは定番のコーヒー、紅茶、オレンジジュースだけでなく、トマトジュースに、それから血液のジュースまで完備されていた。
ぐるりと一周見て回るが特に怪しいものは見つからない。
普通の2人掛けのテーブルとイス。イスも何か細工があるような感じはなく、簡素な木製。テーブルもだ。
床は相変わらず赤い絨毯が敷き詰められているけど、特に変わった所はない。
念の為、天井も見て見るけど、廊下と同じパンジー柄の壁紙にシャンデリアみたいな大仰な照明装置。
強いて言うなら、スプーンやフォークが銀製のものから木製のものに変わったくらいだろう。
銀のときは、花の細工があつらえていたけど、木製の方はクロス模様が付いている。
「それとなくオシャレだし、持って帰りたいくらいだね」
なんとなく、銀食器だと持って帰る気にはならないが、木製だとアメニティ感覚で持って帰ってもいいんじゃないかと思ってしまうよね。
いや、相手は殺しに来てるし、これくらい貰ったってバチは当たらないよね。
僕はバイキング形式らしく、いくつも置かれた木製のフォークとスプーンを手に取り食べ終わったら洗って持って帰ろうと決めた。
とはいえ、この料理をこのまま食べていいのか?
お皿とフォークを持ってウロウロしていると、ルリはなんの警戒もせずに食事に手を付けようとしていた。
「ルリ、食べるの?」
「……赤城くん。うん。今は少しでも体力つけておかないと」
「毒とかは大丈夫かな?」
「マスオ兄さんが……」
ルリの視線を追うと、皿いっぱい、というかいくつかの皿を使い、コップも5つ使って、全ての料理と飲み物をテーブルに並べていた。
大食いなのかとも思ったけれど、どの料理も一口分しか盛られておらず、まるで、これは。
「毒味してくれてる?」
「うん。だから大丈夫だと思う」
ルリとこんな風に話している間にもマスオさんはどんどん色んな料理を口に運び、飲み物を摂った。
「赤城くんは、特に食べたほうがいい……」
たしかに、普通の人間の僕は食べないとすぐに限界が来るだろう。
それと、霧崎くんにも怪しまれた血を飲まなかったことだけど、今ならトマトジュースもあるし、あれを飲んでいれば騙せる可能性もあるよね。
そんなにトマトジュースは好きではないけど、血を飲むよりはマシだろう。
トマトジュースを入れるところを見られないようにしないとと、周囲を警戒する。
鋼森は何も考えていないのか山盛りのソーセージを手づかみでバクバク食べている。左手だけってのは食べづらそうだ。フォークとかの方がもっと食べづらいから手づかみなのかな。
うん、こっちのことは一切見そうにないな。夢中で食べている。
石垣は、箸がないのが気に食わないのか、フォーク2本と削って箸を作っている。
もう1本出来ていて、凄まじい集中力だ。鉛筆を芯だけにしようと躍起になる学生なみの集中力。これはこっちに気づくことは無さそうだね。
最後に三木谷さんは、サラダコーナーに行っているから、今がチャンスだ。
僕はトマトジュースを入れ、あとは三木谷さんとすれ違いつつ、サラダを取る。それからパンを持ってルリの前の席に腰を降ろした。
「おっ! キミとは気が合いそうね!」
僕が持ってきたものを見た三木谷さんが声を掛けて来た。
彼女の手には血のジュースとサラダだけ。
「朝からそんなに食べれないしねぇ。というか、あたしたちにとってこの時間って真夜中よ。そんな時間にいっぱい食べたら太っちゃうじゃない。全くドラキュラハンターとか言うやつ許せないわ。あたしに日焼けさせて太らせようだなんて、乙女の敵よねぇ!」
三木谷さんは馴れ馴れしく、僕の隣に椅子を持って来て座る。
豊満な胸が今にも腕に当たりそうで、座る位置を少しずらす。
そんな僕の様子を三木谷さんはニマニマと見つめ、ルリはまるで射殺すように睨んでる。
僕何かしましたっ!?
むしろ、ちゃんとしてると思うんだけどっ!!
「……エレメンタラー、
「だから、大丈夫だって言ってるじゃない。ルリっちは心配性なんだから。それで、二人はどこまで行ったの? もうお互いに吸血までした?」
「……破廉恥。それは結婚してから」
吸血がどう破廉恥なのか分からないけど、僕とルリの関係かな。いったいどう言ったらいいんだろう。
そう言えば、告白した返事もまだだし、そうなるとただの同級生?
「えっと、僕とルリの関係ですよね。僕が告白はしたんですけど、こんなのに巻き込まれて、まだ返事は……。だから、今のところ、ただの同級生って感じ。で、いいのかな?」
最後はあやふやにルリに尋ねてみる。
「……いまのところは」
僕の説明に、三木谷さんはウンウンと頷き、
「なるほど。ならさっさとここから出ないといけないわね。まったくドラキュラハンターVってやつは本当に乙女の敵ね。馬に蹴られて死ぬべきね。そうと決まったら。早くVを殺してここから出るように頑張りましょ! それじゃ、先にルリっちに殺されてもいけないから、退散するわねぇ」
三木谷さんは食事を持って誰も座っていないテーブルへ向かった。
「……油断も隙もないっ」
ルリはベーコンに荒々しくフォークを刺すと、そのまま口へと運んだ。
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