第6話 恋人との初めての登校(二人きり)
柔らかい朝日に照らされる黄色のたんぽぽは季節を思わせる。何だかほっとする風景。
今日は初めてのみーちゃんとの登校。偶然会った
「つっても一時間前行動は早すぎたかな……」
待ち合わせの時間は七時半。対してスマホが示す現在時刻は六時半。だけど愛しの彼女を待たせるとか何それ死にたいのか? 彼女の前でカッコつけらんなくていつカッコつけるんだお前は。なあ皆川大和ォ!!!
……とりあえず後からやってくる彼女への答え方百選を見直しておくか。昨日の時点で予習はバッチリだけど、復習もして初めて勉強になるんだ。肝心の俺の成績は普通だけども。
「ごめん皆川! 待った?」
「早くない!?」
復習出来なかったし何だ今の返し!? 百点中三点くらいの返答だろ!?
「ままま待ってないよ! 今来たとこ!」
「ふふ、お決まりのやつ? ありがと」
違います。本当に今来たところです。二人とも待ち合わせの一時間前に来るとかお互いのこと好きすぎじゃない? もしかして俺世界一の幸せ者か?
「じゃ、行こっか」
そう言ってみーちゃんは歩き出す。俺はさりげなく車道側を陣取り、隣をついていく。
「にしてもみーちゃん早いね?」
「皆川こそ。もしかしてた、楽しみだったとか?」
「勿論」
「も、もう! まっすぐ言うの禁止!」
よし、楽しく話せたな! 良いね! あと可愛い!
「そう言えば昨日思ったんだけどさ、みーちゃんって普段家で何してるの? 人となりとかはバ先で知ってるけど、好きなこととかそういうのって知らないなって思ったんだよね」
「んー……普通に友達とラインとか? あー子とか由里とか瀬里香とか、いつもの四人のグループとかあんのよね」
出てくる名前が見事にトップカースト。ぼっちの俺からは話しかけることすらおこがましい錚々たる面々だ。
「何の話をしてるの?」
「へ!? そ、そりゃこういう服良いよねーとか……あとは恋バナとか……」
「あー、
弓木野由里。ギャルで学年トップで社会人と付き合ってる噂もあるウルトラ属性過多人間。話したことはない。何なら俺の名前すら覚えられてるかわからないくらいの薄い縁だ。
「由里別れてるけどね」
「つら……恋人と別れるとかマジ無理なんですけど……」
「何でアタシらみたいな口調になってんの……? ……ま、まあそれに関してはめっちゃ同意だけど」
だってみーちゃんと別れるんだろ? そんな話が出たら最低でも血を吐く自信がある。
話題が途切れ、静かな通学路をゆっくり歩く。まばらに通る車の音が緩やかに耳朶を打った。
ふと隣のみーちゃんを見る。みーちゃんはどこかそわそわしながら手をグーパーしてた。
「みーちゃん? どうかした?」
「へっ!? べべ別に何でもないけど!?」
そう言って両手を身体の後ろに隠す。絶対何かあるけどひとまず可愛いしか出てこない。
「何かあったら遠慮せずに言ってね。俺に出来ることなら全部叶えるから」
「ぐ……具体的には?」
「ワンオペとか」
「それ店長に頼まれるやつじゃん……てか絶対無理だし……」
オーダーを受けて料理を作ってお客さんの席まで運んでまたオーダーを受ける。いくら規模の小さなお店って言っても一人じゃ流石に手が回らないくらいには大きい。鉄板焼きだからある程度時間も必要だしね。
ともかく俺にとってワンオペは最大級に無理難題だったんだけど、あんまりしっくりは来てない感じかな。
「まあ何でも言ってね」
「……先輩も」
「ん?」
「やっち先輩も! もし何かあったら言ってくださいね!」
急に呼び方が変わって驚きながらみーちゃんに目を向けるうわダメだ顔真っ赤だし耳も赤いしクソ可愛いなうわぁ!?!?!?
「……やっち先輩は、何かしたいこととかありますか?」
「……っすー……」
思わず息を吸う。そりゃみーちゃんとしてみたいことなんていくらでもある。だけどまだ付き合って三日だ。
……つ、付き合ってからの順序というかペースってどれくらいなのかな? 下手なことして引かれたら泣く。赤ちゃんもドン引きさせるくらい泣く。
「……あ、そ、そうだお弁当! 彼女がくれるお弁当とかは興味あるかも!」
これは完璧な答えじゃないか!? 最初に取り決めた三つの約束にあってなおかつ今日絶対に起こるイベント! それでみーちゃんがお弁当を渡してくれたらその場で達成するしよし楽しく話せたなを出来る流れだよな!
「……ふーん! そうですか! ちょっと待ってくださいね!」
あれぇ!? 俺何か間違えた!? 何でみーちゃんむっとしてんの!?
「はいこれ! お弁当箱はバイトの時にでも返してくださいね!」
「み、みーちゃん? 怒ってる?」
「別に怒ってないけど!?」
詰んだ!!! 対戦ありがとうございましたァ!!!!!
「……もう……何でこういう時は鈍感なのよ……それともやっち先輩は手とか興味無い……?」
「挽回はお弁当の感想……いや点数稼ぎとか考えること自体が失礼か……? てかそもそも素直な感想を言えば泥でも嬉しいはずだし……」
それから俺達は、喋っているようでお互い独り言をぶつぶつ言いながら登校するとかいう怪しさマックスのまま教室まで過ごしたのだった。
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