第20話 補習(イチャイチャPart2)の時間
放課後。と言っても俺は席に着くどころか数学の教科書を出していたけど。
あの後先生に何一つプリントをやってないことがバレると、三十分だけ補習をするとのことで俺とみーちゃんは呼び出されていた。
「先生は意地悪をしたいんじゃありません。ただ流石に一問も解いてないのはあのハゲ……じゃない教務主任にバレたら面倒なことになるって思っただけです」
この後バイトあるんだけどな……。まあ三十分なら全然間に合う範囲だし別に良いけどさ……あと自業自得だし……。
……それになんてったってみーちゃんと一緒だしね! 先生を居ないものとして扱えば二人っきり! なんて素晴らしい響きなんだろう!
「じゃあ今日やったところを開いてください。ユークリッドの互除法は前にやったよね?」
「やったっけ?」
「アタシは記憶ないよ」
「……ユークリッドの互除法っていうのはぁ!」
先生はぷんぷんしながら説明をしてくれる。ああ、つまり割りまくれば最大公約数が出てくるってことね。なら初めからそう言えば良いのに。
「ねえ先生。その公式? 解き方? 何でそんなわかりにくい言い方してんの? 普通に割りまくったら最大公約数が出てくる方法とか言えばわかりやすくない?」
「そんなのダサいでしょ? ユークリッドさんは自己顕示欲が強かったんです」
それはそれで失礼じゃないのか? まあ俺は何でも良いけどさ。
「じゃあ御代さん。百五十七と四十二の最大公約数は? 問題は黒板に書いておくから出来たら解き方も踏まえて書いてください」
「……え、アタシ? だる……」
百五十七を四十二で割っていくんだよな? 理屈はわかったけどやるとなると面倒だな……。
ガラガラ、と教室の後ろのドアが開かれる。入ってきたのは弓木野だった。
「あ、ごめんなさい忘れ物取りに来ただけです。あと先生、百五十七は素数だからユークリッドの互除法には合わない問題だと思うよ」
「あれぇ!? ごごごごめんなさいじゃあ百六十七で!」
「それも素数だし。ウケんだけど」
「あれぇ!?」
先生の愛される理由を見た気がする。特に女子からはめっちゃ好かれてるんだよね、この先生。
「百五十五にしたら? マイナス十三と四十八で良い感じの答えになるし。……って答え言ったら問題にならないか」
「だ、大丈夫! 二人とも覚えてないよね!?」
失礼だな。一瞬だったから覚えてはないけどさ。
「さ、さあ解きましょう! 先生も今から解くし!」
それで良いのか先生。それが愛される理由か先生。
弓木野はその様子を見てくすっと笑ってから教室を出ていく。途端、シャーペンを走らせる音が教室に響き出した。
「ねえ皆川」
「どうしたの?」
「疲れた」
始まってまだ五分も経ってないよみーちゃん。でも解き方教えてもらったから早く帰りたいっていうのはわかるよみーちゃん。俺も今日は仕込みもあるし早く終わりたいんだけどね。ちなみにみーちゃんはその三十分後からのシフト。
「は、はい出来た! 先生出来たよ!」
んでこの先生は嬉しそうに解くなぁ。おめでとう先生。
「御代さん! わからなかったら先生に聞いてね! 先生が教えてあげるよ!」
「皆川……これどうすんの……?」
「百五十五を四十二で割ると余りが出るじゃん? その余りで今度は四十二を割って、余りがゼロになるまで繰り返せば良いんだと思うよ」
「あ、そっかさっき言ってたやつだ。流石皆川」
「頼りになる相手で居たいからね」
「……もう。いつも頼りにしてるから」
「あれぇ!? 先生は無視!? 彼氏が居ないことへの当てつけかなぁ!? 甘酸っぱくて先生死にそう!」
みーちゃんは聞いているのが先生だけということもあって普段よりオープンなことを口にしている。先生には本当すみませんとしか言えない。
「……出来た! 解けたよ先生!」
「そっか……じゃあ黒板に書いて……」
「はーい……わっ!?」
「危ない!!!」
みーちゃんが机の脚につまずいたその瞬間、俺は局所的スーパー反射神経でみーちゃんを抱き寄せる。ひとまずこれで怪我はないはず。
「大丈夫だった?」
「……うん。あと恥ずかしい」
「あ、ごっごめん! すぐ離します!」
そう言って俺はみーちゃんを解放しようとすると、きゅっと掴まれた袖に気付いた。
「……恥ずかしいけど、助けてくれて嬉しかった」
「……怪我が無さそうで良かったよ」
「ありがと」
「気にしないで。……あと、これって初めてハグしたことになるのかな?」
「ふふ、そうかも? ここ先生も居るけど」
「だね」
「先生に気付いてるの!? ならもうやめた方が良いんじゃないかなぁ!? そろそろ泣いちゃうよ先生!?」
「……もうちょっとだけ」
「今先生と会話しなかった!?」
せっかく二人の時間なのに先生ずっとうるさいな……。いや少しは申し訳なさも感じてるけど……。
「もう! 先生怒りましたからね!? 今日は延々と補習させます!」
「あ、すみません俺バイトあるのでそろそろ……」
「ちなみにアタシも今日バイト。皆川の三十分後からだけど」
「みー……御代は用意もあるもんね」
「そそ。だから先生にはごめんだけど続きは別の日とかに出来ない? ……皆川と一緒なら、ちゃんとやるから」
「ああはいはいわかりました! 学生は青春を謳歌していて良いですね! 先生にも青春訪れないかなぁ神様忘れちゃってるのかなぁ!?」
「先生女子高だったって言ってなかった?」
「そうなの!!! だから彼氏も出来たことないの! 何で!?!?!?」
何でって言われても……。それ俺らがわかったら逆に怖くない……?
「補習はもう終わりです! 皆川君はちゃんと御代さんを白馬で送ってあげるんだよ!!!」
「白馬て」
「公道だと一馬力の軽車両扱いになるから大丈夫なの!!! 白馬の王子様は居るんだから!!!」
この人実はめちゃくちゃ面白いな? うちのお店に来てくれないかな。店長と絡んだら凄い面白いこと話してそう。
「じゃあ帰りますね。ありがとうございました」
「ありがと先生! 次のテストは良い点取るからね!」
「ああそうはいはいわかりました! 彼氏との勉強会頑張ってね!!! 先生もしたかったなぁ彼氏との勉強会!!!」
先生はそう言って教壇に突っ伏して不貞腐れる。やっぱり絶対面白いなこの人。色々話してみたい。
「……皆川。手繋ぎたい」
まあ俺にはみーちゃんが居るから別に大丈夫だけどね!!!
結局補習終わりの変な時間は誰にも見つからず、俺達は手を繋ぎながら校門を出れました! やったね皆川大和君!
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