第7話 恋人手作りお弁当タイム
やってまいりました昼休み。俺は待ってましたと言わんばかりにカバンからお弁当を取り出す。
……さて。問題はどこで食べるかだ。別に俺のことなんて誰も見てないから教室で食べても良いけど、万が一俺のお弁当とみーちゃんのお弁当の中身が同じだったとバレたら隠すどころかクラスメイト全員、いや全校生徒に知れ渡ることになるだろう。
それくらい、御代海侑という存在は大きい。
「空き教室でも行くかぁ……」
みーちゃんに教えてもらった何故か施錠されてないところ。別棟だから結構遠いけど、逆に言えば行こうと思わなければ誰も来ない場所だ。周りにバレずにお弁当を楽しむ場所としてはベストだろう。
そうと決まった俺はお弁当を持ってこっそり教室を出る。案の定俺に気付いた生徒は居らず、誰かに見つかることなく空き教室に向かえたのだった。
◇
空き教室のドアをスライドさせる。やっぱ開いてんのね。一応気をつけてたけど中には誰も居なかった。
「っしゃ彼女の手作り弁当の時間だ! 今日どれだけ待ち望んだことか!」
おかげで一時間目から四時間目の記憶が一切無いけどそんなことはどうでも良い! さあ食べるぞ!!!
「わ、美味しそうだね! 流石海侑!」
「はぇっ!?!?!?」
「はろー大和君! 隣良い? 良いよね!」
強引に隣を陣取るのは浅雛。昼はいつもみーちゃん達と食べてるはずなのに……何でこんなとこ居んの……?
「あああ浅雛? もももしかしてぼっち的な?」
ンなわけねーだろもうちょっとは考えて発言しろ皆川大和ォ! こんな状況絶対俺に用があってきてるじゃねえか!?
「や、ないない。あたし友達いっぱい居るし」
だよねぇ何かすみませんうちの皆川が! 言い訳させてもらうとコイツ今焦り散らしてて正常な判断が出来てないんです!
「……っすー……」
……奇妙な時間が始まったぞ。机は一つ。それを挟むように俺と浅雛がそれぞれ椅子に座ってる。何? こっくりさんでもやるつもりなの? 何だこの席配置。
「良いなー大和君。あたしも海侑のお弁当食べたーい」
「あげないから。これは俺のために作ってくれたものだから。国家予算積まれても渡さないから」
「が、ガチ過ぎてちょっとキモいよ?」
知らん。キモかろうとこれは俺のものだ。俺だけのものだ。
「まあ良いや! あたしもお弁当食べよーっと!」
浅雛が取りだしたのは俺が貰ったお弁当箱よりも一回り大きい無骨なステンレスのもの。中は唐揚げやハンバーグ、さらにはチンジャオロースなんかも入った運動部も顔負けのまっ茶色弁当だった。
「……中々凄いね?」
「あー! 今茶色過ぎてバランス悪そうとか思ったでしょ!? 吹部はキツいんだからねー!?」
にしてもなラインナップな気はするけど……まあ失礼かもだしやめとくか。それよりもみーちゃんがくれたお弁当だ。俺は一礼してから改めて中身を見る。
「……神よ……」
「大和君? だいじょぶそ?」
「生きてて良かった……!」
「そ、そっか! 良かったね!」
みーちゃんお手製お弁当は二段になっている。上段はおかずで、カットされた手作りであろう春巻きや一つずつ詰められたブロッコリーとカリフラワーなど健康に気を使ってくれてるものも然ることながら。
然ることながら!!!
「卵焼きがハートになってる……!」
作った卵焼きを斜めにカットして上下を入れ替える。やっていることはただそれだけだけど……!
「海侑が作ってる時に大和君のためにハートにしよって考えてるのがもう可愛いよね」
「それな!!! ホント可愛いめちゃくちゃ好きだ!!!!!」
「これだけ喜んでくれたら海侑も嬉しいだろうなぁ……ちょっとうるさいけど……」
彼女手作りのお弁当ってこんなに嬉しいのか……? よくクラスの彼女持ちのヤツらは教室で叫ばないな……。
「……だけど浅雛、ここでまだ終わらないのが二段弁当だ」
「何でこれだけ面白いテンションなのにぼっちなんだろう……」
おかずが崩れないようにそっと上段を移動させる。
──そして出てきた下段には、これでもかというくらいピンクと白のハートが散りばめられていた。それはさながら桜吹雪のよう。
「わ、可愛い! これどうやってるのかな!」
「……ハムとチーズをハート型の型抜きでくり抜いたんだよ」
「あーそっか! なるほどね!」
「料理は目からとは言うけど、これは忙しい朝の中でも少ない手間かつ短時間で、だけど相手には最大限の嬉しさを。あんまりにも手間がかかってると食べる側、つまり作ってもらってる側が恐縮してしまうことを知ってての気遣い」
どこまでも相手が喜ぶことを考えた結果のお弁当。いや作品。
「……ビューテフル」
俺は静かに涙を流した。感涙するだけのものが、そこにはあった。
「え、泣いてるの?」
「泣いてないやい……ぐすっ……」
「泣いてんじゃん……こわぁ……」
ここが教室じゃなくて良かった……絶対変な目で見られる……うぅ……。
「……あとさ、一個だけ気になってたんだけど……」
「どしたん?」
「……何でここに居んの……?」
この後絶対気まずくなる。そんな嫌な予感を胸に、俺は根本的な疑問を投げかけたのだった。
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