第27話 第二ラウンド︰親御さんとのご対面
拝啓、弥太郎さん。俺は今みーちゃんの家のリビングに居ます。デザイン性の高いオシャレな黒のテーブルに備え付けられた椅子に座っていて、みーちゃんは正面ではなく隣に座っています。キッチンからはお義母様のご機嫌な鼻歌が聞こえてきます。
中略。
弥太郎さん。俺どうしたら良いですかね!?!?!?(二回目)
「やっち君! 嫌いな食べ物とかアレルギーってあるー?」
「おおおお構いなく! むしろ家族の時間を邪魔するのも悪いのでお暇させていただいてもよろしいでしょうか!?」
「だーめ♡」
王手飛車角金銀桂馬取りですね。どうやら帰ることは叶わないようです……。
……い、今ならラインしてもバレないよな……?
やっち︰彼女のお義母様に夕飯を食べていくことを強制されてるんですがどうしたら良いですか?
弥太郎︰草
クソが!!!!! 他人事だと思いやがって!!!!!
弥太郎さんは当てにならない。腹を括るしかないのか。
「皆川、うちのお母さんがごめんね……?」
「めめ滅相もございません!」
「でもめっちゃ緊張してるし……」
「俺っていつもこんな感じだけど!? ねえお義母様!!!」
「そうよ海侑! いつもこんな感じじゃない!」
「お母さんは知らないでしょ!?」
ひとまずお義母様はノリが良いことだけはわかった。何とかなる気がしてきた!!!
「そうだやっち君! 後でラブラブツーショットの写メ送ってあげるからライン交換しようね!」
ラブラブも写メもかなり昔の死語じゃないか? いや言ったら好感度急転直下だろうし死んでも言わないけど。
「さてここでマミーズクエスチョン! やっち君! 海侑の好きなところは!?」
「まず最初に挙げられるのが何事にも一生懸命なところですね。出会いはそもそもバイト先なんですけど、俺が教えたことは逐一メモして、そして実践してちゃんと覚えるんです。努力を結果に結び付けられる凄い子だと思ってます。それと少し似ているところで言うと健気ですね。頑張りがちゃんと生かされているところを見ると彼氏としては勿論バ先の先輩としても好感を持てます。次に普段の凛とした様子とのギャップなんですけど……」
「す、ストップ! 普通本人が居る前でその母親にする話!?」
むしろ娘の好かれているところは聞きたくて仕方がないと思うけど……まあ逆の立場なら確かにむず痒いか? 勿論今言ったことは紛れもない本心だけども。
「さて、ご飯も出来たことだし!」
「アタシお皿持ってくね」
「ホント良い子ねぇ……世界で一番良い子……」
「ちょ、大袈裟」
「じゃあ海侑には食器を出してもらって、やっち君にも一つお願いして良い?」
「何なりと!」
むしろ指示をくれた方がありがたい。ただ待つだけだとかえって恐縮してしまうし。
「やっち君、二階の海侑の隣にある部屋わかる?」
「さっき見ました!」
「じゃあそこに居るお父さんを呼んできてくれるかな」
「わかりました! ……いや待ってくれませんか!?」
お父さん!?!?!? お父さんってもしかしてお義父様のことか!?!?!?
「お父さん家に居たの!?」
わぁみーちゃんも驚いてるや。そりゃそうだよね、まさかお義父様が隣の部屋に居る状態でイチャイチャしてたんだし。
……え、俺今からそこに突入するの?
「お父さん朝仕事行ってたよね!?」
「今日午後休なのよ」
「て、てことはアタシらってお父さんが居る隣の部屋で……!」
「ふふ、お父さん寝てたし大丈夫よ。やっち君が家に来てることすら知らないわ」
なのに俺に行かせるの? ちょっと鬼畜過ぎやしませんか?
「ふふ、大丈夫よやっち君」
そんな俺の焦燥を見てか、お義母様はフォローを入れてくれる。そうか、優しい人とかそういうオチだな? だから今後に備えて慣れてもらうために俺に行かせるとか?
「お父さん、ああ見えて寝起きは良いの」
「何の解決にもなってませんよね!?」
「まあまあ! 物は試しってことで! 何も無理難題を押し付けてる訳じゃないし!」
ま、まあお義母様がそう言うなら……。
俺は意を決してリビングを出る。一段一段踏みしめる階段がやけに長く感じた。
「ここ……だよな」
言われたドアの前に立ち、一度深呼吸をする。
……ノック三回、よし!
いけるッッッ!!!
「失礼しまーす……」
俺はこっそり部屋に入ると、お義父様は確かに寝ていた。静かに寝息を立てている。
お、起こせば良いんだよな?
「あのー……すみませーん……」
これ寝起きドッキリみたいになってないか? いきなり知らない人が起こしてきたらどうなるか! みたいな!
「すみませーん……?」
「……んぁ」
「ご飯出来ましたよー」
「んー、すぐ降りる……。……ん!?」
ガバッと起き上がりお義父様の寝ぼけ
「だっ誰だ貴様!?!?!?」
「あ、えと、海侑さんとお付き合いをさせていただいてる皆川大和と申します」
「こんなタイミングで言うヤツがあるか!?」
ですよねすいません!!! 冷静に考えたらそうだよな!!! なら冷静になるな俺!!!
ここは勢いで誤魔化すぜ!!!!!
「海侑さんとはバイト先で出会いまして。あ、ただたまたまクラスも同じだったんですけどね! なので今日はクラスで出す文化祭の出店の原価率計算を一緒にしよっかって話になりまして……」
「貴様ァ!!!」
「何ですか!?!?!?」
怖い怖い怖い! 貴様なんて二人称リアルで聞いたの初めてだけど!?
「海侑を一番愛してるのはワシだ!!!」
「聞き捨てなりませんね。俺だって愛していますよ」
「はっ! 歴が違うんだ歴が!!! 産まれたての海侑を抱っこもしたことない小童が!!!」
「俺は現在進行形で直接好きって言ってもらえますけどね!!!」
「ううう嘘つけ! ワシにはもう十年以上言ってくれないんだぞ!?」
「俺の勝ちっすね!!!」
「黙れ貴様ァ!!! 授業参観にも行ったことがないくせに!!!」
「そりゃ親じゃないんだからそうでしょうが!」
「知らんわ負け犬!!!」
「とりあえず飯食いませんかお義父様!」
「貴様にお義父様などと呼ばれる義理は無いわ殺すぞボケが!!! でも母さんの作ってくれた飯が冷めるのはいかんから降りるぞ!!!」
口悪いなこの人!? あと手繋がないでください気色悪いな!!!
「階段急だから気をつけろよ!!!」
「ご丁寧にありがとうございます!!!」
口悪いし気色悪いけど良い人だな!!! 好きになっちゃう!!!
リビングに降りた俺達はテーブルに向かう。みーちゃんは俺達の姿を見てギョッとしていた。
「おっお父さん!? 何でやっち先輩と手繋いでるの!?」
「階段を降りるんだから危ないだろう。なぁ貴様」
「ははっ、そうかもしれませんね」
「二人とも頭でも打った!?」
「はーい、お父さんはこっち。じゃあみんなでいただきますしましょ?」
手を離した俺とお義父様は席に着く。作ってくださった夕飯の香りが鼻腔をくすぐる。
「「「いただきます」」」
「召し上がれー」
そして俺は、異種格闘技戦の第三ラウンドへと突入した。
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