第12話 恋人との初めてのデート①

 デート当日。初めて一緒に登校した時は一時間前に来たにも関わらずほとんど待たずにみーちゃんが来たので、今日は更に三十分、都合一時間半前に待ち合わせ場所の駅前に来ていた。


 待ち合わせ時間は昼の十二時。つまり今居る時間は十時半だが、そんなことは気にならないくらい緊張している。


 昨日バイト代をはたいて春コーデをマネキン買いしたけど……着てくる服はこれで大丈夫なのか……? ファッションはほとんど無頓着だったからこれ良さそうくらいしかわかんないぞ……。


 この時間の駅前は意外と人が少ない。休日なので学生服の人は見当たらないけど、そういう人達は代わりにオシャレな私服を身にまとってスマホを弄ってる。俺と同じく待ち合わせをしているんだろう。


 ……なんかそう考えたら彼女を待ってる彼氏って実感が湧いてきたな! 滾ってきた!!!


「落ち着け……まだだ……まだデートは始まってすらいない……」

「え、皆川早くない? まだ一時間半くらい前だよ?」

「みみみみーちゃん!? 何でここに!?」

「何でってそりゃ、待ち合わせ場所だし……」


 前回もだけど早くない!? また心の準備をする時間が無かったんだけど!?


「……てか皆川もめっちゃ早くない? ど、どんだけアタシのこと好きなの?」


 無理して攻めた発言をしたもんだから耳超赤くなってる本当可愛いなこの子!!! 付き合って一週間とかじゃなかったらすぐさま抱きしめてるよ! 今はまだ早いけどさ!


 待て皆川大和。テンションがぶち上がるのはわかるが、まずはお約束を言うんだ。


「全然待ってないよ! 今来たところ!」

「……好きっていうのには答えてくれないの?」


 バーカ俺バーカ! 模範解答が百点の答えとは限らないんだよもうちょっとは考えろやバーカ!!!


「す、好きだから一秒でも待たせたくなかったというか……好きです……はい……」

「そ、そっか。あ、アタシも皆川のこと……す、好き……だよ?」


 はぁぁぁぁぁん!? 好き! めっちゃ好き!


 ──そこで、俺の中の弥太郎さんが静かに問いかける。


(靴はどうだ? それとオシャレして来てくれた女の子は口に出して褒めてあげなきゃしてきた甲斐が無いってもんだぜ)


 ありがとうございます弥太郎さん。ずっとこうだと尊敬出来るので二度とやっちんちんとか言わないでくださいね。


「今日はバ先のみーちゃんモードなんだね! 大人っぽいコーデで凄い似合ってるよ! ハイウエストのロングスカートとか俺好きだし!」

「そっか。……皆川も、似合ってるよ?」

「あはは、ありがとう」


 みーちゃんは黒のハイウエストのプリーツスカートにゆるっとしたラウンドネックの白のトップスを合わせてる。バ先モードだから黒髪のハーフアップとも相まって清楚な印象を受けた。


 そして靴。靴はベタ靴というか、ヒールもあるにはあるけどブラウンのレディースのローファーを履いていた。歩くのは全然問題無さそうだ。


 だったら、この後の展開はカフェでお昼ご飯を食べた後に電車で水族館に行くって流れになる。プランBを再度おさらいし、事前に考えていた決め言葉を言う。


「もうそろそろ十二時だし、どこかカフェでも入らない? 近くの良いところを知ってるんだ」

「え、まだ十時半だけど? あとアタシそこまでお腹空いてないというか……何かごめん……」


 弥太郎さぁぁぁぁぁん!? 初っ端にミスった場合はどうしたら良いんですかね!? このままカフェ行けば良いですか!? それともアドリブを効かせるべきですか!? まあ過去の経験なんてゼロだからアドリブもクソもないんだけどね!!!


「とととととりあえず行こっか?」


 どこにだよ。適当に連れ回すのは一番ダメだぞ皆川大和。昨日読んだ『高校生女子に聞いた! おすすめデート&ダメダメデート十選!』の記事にあっただろ。


「……ねぇ、皆川」

「な、何!? あ、カフェは嫌だよね! ごめん!」

「カフェで何か飲むくらいなら全然いけるし、それは良いんだけど」

「けど!?!?!?」

「……さっき色々言ってくれたけど、それだけ?」


 さっきっていうのは褒めた時のやつだな!? よく見ろ皆川大和……まだ、まだ言えてない褒めポイントがいっぱいあるはずだ……!


「あ! 爪! ネイル超綺麗だね!」

「……ありがと」


 間違えた臭いな!!! 詰みです対ありでした!!!


「……手っていうところは惜しいのに」


 手? 手がすべすべそうで良いねとか? いや変態みたいだからこれは違うだろ。


 結局俺は答えがわからないまま、ひとまずカフェに向かったのだった。



 無事カフェに着き、店員さんに促された二人がけの席に向かいあわせで座る。あぁ……正面に美少女が……前世の俺ありがとう……お前が積んだ徳のおかげで今の俺があるよ……。


 心の中で前世に拝んでいると、みーちゃんがふと口を開いた。


「そう言えばコーヒーはブラックが好きなんだね。知らなかった」

「まあどちらかと言うとって感じだけどね。あとせっかくだから恋人に大人っぽく見られたいって願望もあるけど」

「ふふ、何それ」


 冗談っぽく言ったけどマジです。こういう風に言えば逆にブラックが好きな大人っぽい男に見られるかなって言ってみただけです。実際は僅差だけどミルクと砂糖を入れた方が好きです。


「みーちゃんはソイラテだっけ? 健康志向なんだね」

「まーそれもあるけど、実はソイラテってそこまでカロリーが低いわけじゃないよ。……ただその、イソフラボンというか」

「あー磯ふら盆ね。あれ美味しいよね」

「……?」


 知ったかぶりバレたかな。バレたっぽいな。


「そ、その。皆川にはちょっと変なこと聞くんだけど……」


 変なこと? 何の話だろう。全く検討がつかない。


「……皆川ってさ、胸は大きい方が好き?」

「っごほ! ……ぅえ?」


 胸ってあの胸だよな!? 大胸筋は筋肉ルーレットが出来るくらい鍛えてる方が良いかなって話じゃなくておおおおっぱい的な話!?


 ……ど、どうだろう。正直考えたことなかったな。


「おっぱいか……」

「っ!? い、今アタシの胸見た!? 流石にまだ恥ずかしいんだけど!?」

「ちちち違う違う! 横隔膜! 肋骨の間の横隔膜を見てただけ! 呼吸すると上下してるんだろうなーみたいな!?」


 それはそれで気色悪いな俺!!! ほらもうすっごいジト目で見られてる可愛いけど超ごめんねみーちゃん!


「……っと、まあ……大きいのに憧れたりは……っすー……する……かな……?」

「そ、そっか」


 そう答えるみーちゃんはほっとした顔でにやにやを隠そうとしてる。そっか、みーちゃんって結構大きいもんね。


 ……だけど何で今の流れでそんなことを言ったんだ? 磯ふら盆からの派生だったよな?


「ごめん、ちょっと調べ物するね」

「? うん」


 俺は検索フォームに『磯ふら盆 とは』と打ち込む。何だ? ふ、ふらぼのいどの一種?


 改めて効果と付け加えて再検索する。


 ……ふむ。女性ホルモンとよく似た働きをする。


 ……だから、育乳にも効果がある……?


「あ、ああ! だからソイラテ! 大きくなるから!」

「は、はぁ!? 急に何言って……あっ!? ちょ、何調べてんの!?」

「い、いや知ってたよ? イソフラボンは別に海の磯とカタカナのフラとお盆の盆でそういう和菓子があるんだなとか思ってなかったよ!?」

「別にそんなことは思って……ってか何その間違いウケるんだけど! あは、そんな風に思ってたの?」

「思ってないけど!?」

「ふふっ、めっちゃ嘘つくじゃん!」


 はっっっずかし!? もっと勉強しとけば良かった! イソフラボンね! もう覚えたから!!!


「お待たせしましたー。オリジナルブレンドコーヒーとソイラテです」

「そ、ソイラテ……」

「だから変なこと考えないでってば!」


 初めは失敗から始まった散々なものだったけど、気付けばそんな感じでカフェでの時間は賑やかに過ぎていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る