第29話 ニンゲンって怖いね!

 文化祭まで残すところはあと二週間を切った。準備期間はそろそろ佳境に入る頃合いで、クラスメイトが全員揃って話し合える学活の時間、俺はみーちゃんと一緒に教壇で見積もりが済んだメニューの原価率や必要経費を説明していた。


「勝手に俺が計算した数字で申し訳ないけど、今のが大体この位あれば必要経費は回収出来ると思うよ」

「確かよっぽどのことが無かったら一日目で達成出来るんだよね」

「鉄板を三台無料で借りられるからこその荒業だけどね。後は内装班の進捗を聞きたいんだけど、どうかな」


 都度みーちゃんの助けを借りながらも説明を終える。クラスメイトはポカンと口を開けていた。


 ……な、何か変なこと言ったかな? もしかして伝わってなかった?


「皆川すげーじゃん! 大変だっただろうにありがとうな!」

「ホントホント! 何かプロっぽい!」

「そ、それは別にバ先の店長とそういうことを話したことがあったからで……オープニングスタッフだったし……」

「だとしても普通そこまでガチでやれなくね? いやマジ助かる!」


 褒めてもらえるのは嬉しいけど……何かむず痒い……。とりあえず役に立てたようで良かった……。


 後は内装班だけど、大丈夫そうかな。確かあー子が仕切ってくれてたはずだけど。


「はいはい大和君! 内装班も順調だよ! 朝早くに来たりとか昼休みにやったりとかで当日には全然間に合いそう! お化け屋敷じゃなくて残念だけど!」


 まだ言ってるのか。まあでも楽しそうにしてて何よりだ。


「ありがとう。次に今日の放課後の予定なんだけど、この後は俺とみー……御代で近くにある公民館の調理室を借りてるんだ。もし良かったら調理班の人と味見を手伝ってくれる人が居たら来てくれるとありがたいんだけど……」


 これで誰も来なかったらどうしよう。ままままあ? みーちゃんと二人っきりだし? それはそれでありというか? 俺の人望が無いだけというか? 言ってて悲しくなるけど俺は泣かないよ!


 だけど予想に反してクラスメイトは、その内容に一気に沸き立った。


「行きたい行きたい!」

「オレも行きたい……のに部活がッッッ! 今日休めねぇかなぁ!?」

「ふふふ、科学部の僕は当然行けるよ。なんせ文化系の部活だからね!」

「えと、時間は三時間取ってるしもし部活終わりに時間が間に合いそうなら来てよ。色々作って待っておくし」

「ありがてぇ……!」


 一人を皮切りにみんなは我先にと立候補してくれる。本当みんな良い人で助かるよ。


「ねぇ皆川。教える側って今のところ皆川だけだよね」


 ふとみーちゃんはそんなことを言う。そうだねと俺は否定することなく頷いた。


「……だ、だったらさ? 先にアタシに教えてくれると効率良くない? アタシはまだそういうの店長に教えてもらってないし……」

「ああ、確かに教える側がもう一人居ると助かるかも」

「……だから、その……ね? みんなには少し後に来てもらうというか……外で待ってもらうというか……」


 ほう? さては二人きりになりたいんだな? 流石に可愛過ぎて俺死んじゃうよ?


「……ただ、それをどうみんなに言うかだなぁ。普通に考えたら一度に教えた方が手っ取り早いし」

「……そうだけど」

「だけど二人きりになりたいのはむしろ俺からお願いしますって感じだよ」

「……バカ。教室だから言葉濁してたのに」

「なぁ皆川くぅぅぅぅぅん!!! お前なぁぁぁぁぁにこそこそ御代と話してんのぉぉぉぉぉ??? 事と次第によってはオレどうなるかわかんないよぉぉぉぉぉ???」


 きっ気持ち悪いなアイツ! アレだ、みーちゃんと話してるとよくキレてるアイツだ! 科学部の男子と一緒になって俺を殺そうとしてくるアイツ!!!


「な、何でもないよ! ただ先に御代に教えておいた方が効率良いかもねって話をしてただけで!」

「全員を一度に教える方が効率良いですよねぇぇぇぇぇ!?」


 全くもってその通りだなクソめ!!! 何か弥太郎さんを感じるな!?


「ストップ」


 そんな様子を見かねてみーちゃんはパンと手を叩く。こういう時さらっとフォローしてくれるのマジカッコイイ……乙女になっちゃう……。


「皆川と先にっていうのはアタシが言い出したことだし」

「ななな何ででしょうか!? もっもしかして皆川のことがとかそういうのはないよな!? 文実を二人でしていくにつれて関係が深まってとかやめてくれよオレ嫉妬で狂い死んじゃう!!!」

「良いねぇキミ! 私も海侑と皆川氏はアリだと最近思ってたんだよ! 海侑彼氏居るけど!」

「まままままさか皆川が彼氏なんてことは」

「そっそんなの!!!」


 世良氏が乱入してめちゃくちゃになりそうなところでとんでもない質問が飛んで来る。核心突き過ぎだろ。そ、そんなにわかりやすかったか!?


「……別に、そういうんじゃない……から」

「「「きゃー!!!」」」

「「「はぁぁぁぁぁ!?!?!?」」」


 男女真っ二つに割れる歓声と怨嗟。これか! これが付き合いたての頃みーちゃんが言ってた針のむしろってやつ!!!


 一応みーちゃんは否定してるものの、みーちゃんの赤らんだ顔は推測を立てるには充分過ぎた。


「クラスのトップとぼっちがとか……そんなの漫画みたいじゃない!?」

「うわめっちゃ憧れるんですけど! よくよく見たら皆川君別にアリだし!」

「ね! 見たことなかったよね!」


 どこに共感してるんだそこの女子は。泣くけど良いの? 俺泣いちゃうよ?


「こ、この話は終わり! 今は文化祭に集中!」

「「「えー!」」」

「それに男子も! 皆川に変な絡み方しないように!」

「とりあえずオレは今日部活を休む。二人の時間なんて絶対作ってやらねぇ」

「同感だよ。僕より先に彼女を作るヤツは親でも殺す」


 最後の彼は一体どの立ち位置なんだ。多分だけどそれ何かのマンガのセリフだよね。てか親は恋人の延長で結婚してるんじゃないか……?


「……ねぇ皆川。一応はこれで隠せてるよね?」

「そうだね!」

「ちょっ……! 急にやっち先輩モードになるの禁止……!」

「御代さん乙女の顔してない!?」

「してるしてる! やば、めっちゃ可愛い!」

「皆川氏‪‪×海侑……良い……尊過ぎて死んじゃう……」

「と、とにかく調理班と味見手伝ってくれる人は放課後来てよ!!! 来れない人は夜ラインで教えるから!!!」


 みーちゃんは勢いで誤魔化そうとまくし立てる。俺? 俺はみーちゃんに真実を伝える勇気が無かったから陽キャモードで乗り切ったよ。


 ……まあ当然隠せてないけどね! まずは恨みの込もった視線に耐える練習から始めなきゃ!

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