第30話 自主的調理実習
放課後になり、俺とみーちゃんはクラスメイトの大半を引き連れて公民館の調理室に来ていた。中は学校の調理室みたいになっていて、事前に聞いていたとはいえホットプレートもいくつかあるから人を持て余すことはなさそうだ。
俺は早々にワイシャツを脱ぎ、ユキドケ指定のTシャツ一枚になる。
「み、皆川!? 何で脱ぐの!?」
「鉄板焼きは生地とか飛ぶ可能性があるからね。焼く時は指定のを着なさいって店長に言われてるんだよ」
「ふ、ふーん……?」
そう言いながらみーちゃんはチラチラ俺を盗み見る。別にバイトの時見てるのに……、何だろう場所が違うとかで特別感でもあるのかな。
「あ、皆川君ってユキドケで働いてるの!? 私行ったことあるよ!」
「私も! 皆川君は見たことないけど!」
「めっちゃ綺麗な店長が居るあそこか! ……皆川てめえバ先でも女侍らしてんのかぶち殺すぞ!!!」
「ぼ、僕もバイトを始めたら彼女が……!」
飲み屋だから誰も知らないだろって思ってたけど意外とみんな知ってるんだな。まあ安いし学生でも行きやすいもんね。ちなみに誰一人見覚えがないかつ見られてもないのは多分俺がまだクラスメイトの顔を覚えられてないのが理由。あとクラスメイトが俺の顔を覚えてないのもあると思う。結構な頻度でシフトに入ってるし。
「ねえ皆川君! 今度行くからシフト教えてよ!」
「え!?」
「良いじゃんクラスメイトが働いてるとこに行くのとか青春っぽいし!」
うーん……だったらみーちゃんと被ってない時を教えるべきだよな……。変装してるとはいえみーちゃん自身はやり辛いだろうし、何より万が一バレると邪推されかねない……。
俺はどうしようかとみーちゃんに視線を向けるいや待て何か怒ってるぞ何した皆川大和ォ!!!
「……教えれば? 別にアタシは関係無いし。アタシ以外の女子と話してれば良いじゃん」
「ごめんみんな、俺シフト無くてさ! 店長から今日出れる? みたいなゲリラなんだよ!」
「めっちゃ嘘つくじゃんウケるんたけど!」
「ねー?」
流石にバレるか! まあでもこれでみーちゃんの怒りを鎮められるならどうってことない!
……ま、まあ一応フォローはするけどね?
「みーちゃん」
「ちょ、耳の近くで話さないで……!」
「俺が好きなのはみーちゃんだけだから」
「……うん。ありがと」
「みぃぃぃぃぃなぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁわぁぁぁぁぁくぅぅぅぅぅん!!!!! なぁぁぁぁぁにイチャついてんのぉぉぉぉぉ????る」
「あ、アタシらは別にイチャついてるとかそんなんじゃ……!」
「あ、御代がそう言うなら……うぐぅ一番ダメージ来る……」
ありがとうみーちゃん。これで一人怨霊を退治出来たよ。
「じゃあこれから作るし見ててね」
「「「はーい」」」
みんなは声を揃えて返事をする。ちなみにみーちゃんは流れるように俺の隣を陣取っていた。可愛い。
「細かい分量は後で説明するとして、とりあえず知らない人のために実際に作ってみて流れを見せるよ。まず小麦粉と本だし、あと水とすりおろした山芋を入れます」
そう言って俺は山芋をすり下ろす。そして全部をボウルに入れた後は簡単にかき混ぜ始める。
「御代。キャベツ切っておいてくれる?」
「もうやってるよ」
手が早くて助かる。みーちゃんはとりあえずここに居る人達が食べれるようにキャベツ半玉をみじん切りにしてくれていた。
俺はそれを受け取り、混ぜ終わった生地に投入する。
「次はホットプレートを温めて……ってこれも御代がやってくれてるね。ありがとう」
「油もひいてるからいつでも大丈夫だよ」
「じゃあここに大体二センチくらいの厚さかな。豚バラ以外で混ぜた生地を乗せます」
いくつか島を作るとそれぞれからジュウと生地の焼ける音が響く。少しすると特有の香りが漂ってきた。
「固まりきらないうちに豚バラを乗せます。これが遅れるとひっくり返した時に一緒にならないから注意してね」
俺は慣れた手つきで豚バラを一つにつき二枚乗せ、頃合いを見てこれまたみーちゃんが用意してくれていたヘラを二つ使ってひっくり返す。食欲をそそる良い音がまた響いた。
暫く焼けるのを待ってると、良い感じに焼けてきたのでもう一度だけひっくり返してお皿に盛る。
「これで完成。結構簡単に作れるから知らなかった人もすぐに作れるようになると思うよ」
「なあ皆川! もう切って良いか!?」
「良いよ。ちょっと小さくなるけど人数分切り分けてくれると助かる」
「おっしゃ了解!」
そう言って無事部活をサボれた彼は切り分けていく。練習用に残しておこうって思って二枚しか焼かなかったけど、これじゃ一口サイズにしかならないな。まあこの後いっぱい食べるだろうし別に良いか。
人数分紙皿に取り分けると、一同は各々に口に運んだ。俺も一口で食べてみる。
うん、良い感じだね。
「何これふわふわ!」
「卵じゃなくて山芋にするとそうなるんだよ。後は山芋とキャベツの水分量を無視して水を入れすぎるとしゃばしゃばになるから、そこは肌で覚えてもらえると助かるかな。もし万が一入れ過ぎたって思ったら小麦粉を足せば何とかなるし、そういう時は臨機応変に対応してね」
「わかった!」
調理班の女子は元気良く返事する。ひとまず実演はこれで大丈夫かな。
「ね、皆川」
声を掛けてきたのは弓木野。確か弓木野も調理班だったっけ。わからないところでもあったかな。
「海侑さ、何であんなにスムーズにサポート出来てたの?」
「へ!?」
そそそれはバイトでいつもやってるし……とは言えないよな!? 下手な言い訳だとバレそうだし……考えろ皆川大和……!
「もし海侑の彼氏が皆川だとすると、必然的にやっち先輩が皆川になるじゃん? 下の名前も大和だし辻褄は合うよね」
ダメだ全部バレてる!!! もうここまで来たら隠すの無理じゃないか!?
「協力してる時の二人、凄いお似合いに見えたよ」
良い人だ……そう言ってもらえるのが一番嬉しいよ……なんせ片やスクールカーストのトップと片やそこら辺のぼっちだし……。
「言いたかったのはそれだけ。美味しかったよ、お好み焼き」
……もう言っても良いんじゃないか? 今後も多分こうやっていろんな人にバレていくだろうし、下手に隠すと変な噂を立てられるかもしれない。
みーちゃんはどう考えているんだろうか。気になってみーちゃんの方を見る。
「ちょ、包丁使う時は猫の手! 指切るよ!?」
まあでも今は忙しそうだし、またタイミングを見計らって言うか。別に緊急の話でもないしね。
それから俺達は、部活組の生徒が顔を出す三時間後までひたすら練習を続けたのだった。
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