第24話 出し物とか超アガるんですけど!

 俺とみーちゃんは言われるがまま教壇に立つと、先生は自分の役目は終わったと言わんばかりに教室の隅に移動してスマホを触り出した。もしこの姿がおハゲになられた教務主任に見つかったらどう弁明するつもりなんだろう……。


 さておき、俺にとっては初めての仕切り役。正直緊張して足が震える。前に出てた人達はみんな凄かったんだなぁ……。


「んじゃ始めるけど、みんな何かやりたいやつある?」


 そしていつも通り頼りになるみーちゃん。今日だけで何回惚れ直しただろうみーちゃんホントしゅき……。


「はいはいはい! あたしお化け屋敷やりたい!」


 勢い良く身を乗り出したのはあー子。そして……何だ? 何でこっち見てウインクしてるんだ?


「っと」


 またスマホが鳴る。今日はよく授業中にラインが来る日だ。俺はこっそり確認する。



あー子︰海侑が立候補すると思って手は挙げなかったよ! だからお化け屋敷!


皆川大和︰みーちゃんにアドバイスまでしてくれてたら一考の余地はあったよ。



 さて、他には何が上がるだろうか。あー子を皮切りにクラスメイトは次々に案を出していく。


「出店とか良くね!? ナンパ……じゃなくて色んな人が入りやすい系な!」

「演劇ー!」

「遊園地!」


 最後のやつ誰だ。絶対ふざけただろ。


「みー……御代。俺が黒板に書くから御代は引き続き対応お願い出来る?」

「わかりました!」


 みーちゃんバイトモード入ってない? いや俺も指示してていつもこんな感じだなーって思ったけどさ。


 とりあえず俺は律儀に遊園地まで書いていく。結局出た案は八個であり、箇条書きで黒板に案を連ねていく。


・お化け屋敷

・出店

・演劇

・遊園地

・釣り堀

・花火

・競輪

・オーロラ


「……遊園地以降が適当過ぎるな」

「だね。とりま遊園地からは消してくけど良いよね?」

「オーロラは綺麗だろ!?」

「出し物ってこと? てか普通に考えて無理だし」

「まあ悪ふざけだし良いけど……」


 やっぱり悪ふざけなのかよ。俺は遊園地以降の五つを消す。


 残ったのは最初に出てたお化け屋敷と出店、あと演劇か。


「あ、お前ら言い忘れてた。出店の利益は山分けだから打ち上げなり何なり好きに使って良いぞ」

「「「出店にしよう!!!」」」

「えー!? お化け屋敷はー!?」


 金が絡んだ時の団結力凄いな。目の色変わってる。


「んじゃ多数決……はいらないかな。どう皆川?」

「反対意見はあー子だけだし良いんじゃない?」

「そんなことないよ大和君!!! ねえみんな! お化け屋敷やろうよ!」

「「「……」」」

「じゃあもう良いよ! あたしが大人になってあげる! みんな感謝してよ!!!」


 子どもみたいな振る舞いで渋々あー子も納得する。これが愛される理由なんだろうなぁ、なんてことを思った。


「やっち先ぱ……じゃなくて皆川。この後どうすれば良いの?」

「代わろうか?」

「でも大丈夫?」

「みーちゃんに任せっぱなしだと悪いからね。こういう時でも遠慮なく頼ってよ」

「……じゃあそうする。ありがと」

「任せて」


 俺はみんなに見えないようにみーちゃんの手を握る。男の手には無い感触でやっぱり柔らかい。


「……あの二人ってどういう関係なの? 会話聞こえた?」

「声が小さくてあんまり……でもあだ名で呼んでなかった……?」

「皆川お前……どうやら死にたいようだな……」

「ぼ、僕に手を挙げる勇気があれば今頃はあそこで……ぐぅぅぅぅ!!!」


 最後のやつはいつもながら本当に怖い。というかダメだ、みーちゃんと話してるとどうしても彼氏モードが入ってしまう。


「ここからは俺が仕切ります。次は出店の内容を決めたいんだけど、何が良い?」

「剥いてないイガグリとか。皆川はお客さんが咀嚼出来るか確認してもらう係で」

「生の豚肉とかどうだ? 皆川には食べてもらって味を決めてもらおう。名案だ」

「毒。皆川君が味見役だよ」

「殺意高くない!?」


 最後に至ってはただ殺そうとしてるよね!? そんなに顰蹙ひんしゅく買ってたかな!?


「だ、男子はまともな案出さなさそうだし女子からは何かある?」

「原価率が低いの!」


 がめつい。こっちはこっちで汚さを感じる。


「ねえ皆川。原価率って何?」

「売ってる値段に対して準備するお金がどれくらいかって目安。低ければ低い程少ない売上でも利益が出やすいんだよ」

「あ、そういうこと。確かに売るのによったら変わりそうだもんね」


 普通に過ごしてるとあんまり気にしないもんね。俺はたまたま店長とそういう話をさせてもらったりするから知ってたけど、普段聞くような言葉じゃないのは確かだ。


「あ! 私名案思いついたかも!」


 そう言ってピンと手を挙げたのは……あれは前に話しかけてくれた子だよな? 大変失礼とは存じますが未だにお名前を把握しておらず……。


「お好み焼きとかもんじゃ焼きとか、粉物って原価率低いって聞いたことあるよ! それに確か皆川君って鉄板焼き屋さんで働いてたし!」


 ぐるりとみーちゃんの視線が俺へ突き刺さる。痛い。


 ……え、何で知ってるの!? 別に話したことないよね!?


「……皆川?」

「いや知らない知らない! 俺言ったことあったっけ!?」

「私前に食べに行ったことあるんだよ! その時は声を掛けなかったけど、前にワックスしてたことあったでしょ? あれで見間違いじゃなかったってわかってさ!」


 あの時か! こんなことならびちゃびちゃになってでも落としてきてたら良かった!!!


「ね、店長さんに使ってない鉄板があったら借りれるか頼めないかな? そしたらレンタル料とかも浮きそうじゃない?」


 ……うーん。確かに理には適ってるし、他に意見がなかったらアリか……? 作り方だって店長がどうしても手を離せない時に備えて教えてもらってるし……。


「えっと、御代。一応書いてくれる?」

「はーい」


 丸い字でさらさらとチョークを走らせる。確かお好み焼きよりもんじゃ焼きの方が原価率低かったよな。決まってもいないのに俺は既にそんなことを考えていた。


「他は何かある?」


 そう聞くが、みんなはどうやら特に対案を出すわけでもなくどんなメニューが良いかを話し合っていた。純粋に原価率が低いものだったらかき氷とかが挙がるけど、多分みんな手作り感が欲しいのかな。


 高校の文化祭は一生に三度しかない。意見としては利益を出したいって感じだったけど、一緒に思い出に残したいっていうのもあるんだろうね。


「じゃあ鉄板焼きで決定するよ。余ってる鉄板があるかは俺が店長に聞くとして、次はメニューを決めよっか」

「何が良いかなぁ?」

「やっぱバリエーションは増やしたいよねー!」


 俺は去年こんなに楽しそうなことへ無関心だったのか。勿体無いことをしたな、と口に出すわけでもなく一人省みる。


「ふふ。皆川、やっぱりやろうと思えばぼっちじゃないじゃん」


 そんな俺を見て、みーちゃんは誇らしそうに笑っていた。

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