第23話 文化祭実行委員決め

 金曜日の六時間目、今日はいつもの授業が学活になっていた。


 理由は六月中旬に行われる文化祭についての説明とメインで動く文化祭実行委員を決めるため。運営自体は学校側や生徒会がするからクラスの文実は出し物を仕切るっていうのが役割らしい。さっき聞いただけで俺は知らなかったけどね。ちなみに去年も文化祭は経験したのにおかしいというのは隅に置いておく。


「文化祭は二日に分かれて、出店はその二日間を持ち回り、演劇とかの出し物系なら二日目にする。……つってももう二年だし知ってるよな?」


 先生は俺達が知ってるものとしてさっさと説明を済ませる。すみません全然知らなくて……去年は俺には関係の無いイベントだと思って聞いてなかったんです……。


 ……だけど今年の文化祭は違う! 何故ならみーちゃんが居るから! まあ表立って一緒に回るのは難しいかもしれないけど偶然装えばね! やり方はいくらでもある!


「とりあえず文実決めるぞー。やりたいやつは居るか?」


 そして案の定訪れる静寂。自分からやりたいって人はそりゃ居ないよね。俺も目立ちたくは無いし。


「ま、居ないよな。俺だって嫌だし」


 そんなこと言って良いのか先生。ある意味人間臭いけど怒られたりしないのか。


 クラスメイトは次第にざわざわと近くの生徒と話し出す。お前やれば? でも面倒臭いし……なんてやり取りがそこかしこから聞こえてきた。


「ねね、皆川氏」


 後ろから世良氏に背中をつつかれる。俺はどうしたのと言いながら振り返った。


「皆川氏ってこのクラスに好きな人は居る?」

「ななな何で急に!?」

「いや、もし居るんだったらここで挙手出来ればカッコ良いなーって思ってさ。好きな人が居るならやってみても良いかも?」


 ……ふむ。なるほど。一理ある。


 これはみーちゃんと付き合い始めてから思うようになったんだけど、クラスメイトみたいな集団は必ず誰かが貧乏くじを引いている。それは例えば日直だってそうだし、委員会だってそうだ。まして今回の文実なんてその最たる例なわけで。


 何でこれを恋人が出来たから自覚出来たかと言うと、誰かのために自分が頑張るって構造が似てるなって感じたからだ。


 つまり。俺がここで挙手をすればみーちゃんのためになる……?


「俺やります」


 善は急げ。俺はすっと手を挙げると、クラスメイトは驚いた顔をしていた。まあぼっちが急に率先して立候補したら不思議に思うよね。


 だけど先生は特に何も言わずに、そうかと言って。


「じゃああと一人、誰か居るか?」


 あっれぇ!?!?!? もしかして文実って二人!? てことは俺よく知らない人と協力していかなきゃいけないの!?


「やるねぇ皆川氏! カッコ良かったよ! 私は好きな人居ないから挙手しないけど!」


 極悪人かてめぇ。いやしろよって話じゃないけど……世良氏がしないならもう俺が知ってる人ってみーちゃんとあー子、あと弓木野しか知らないぞ……?


 ……いざ名前を挙げると何だこの偏った人脈。ギャルしか知り合い居ないじゃねぇか。


「やっぱ居ないか?」


 やっぱて何だ先生。ぼっちとやるやつなんて居ねえよなーとかそういう意味か? 喧嘩なら買わないぞ? ぼっちを舐めるなこちとらチキンなんだ。


 ……や、やっぱりやめまーす……とか言ったらヤバいかな……?


「じゃあもうくじとかにするか? 埒が明かないし」

「アタシやります」

「ん?」

「だから、アタシがやるって言ってんの」


 隣から上がる凛とした声。手は挙げずに、だけど真っ直ぐな意思表示をしている。


 みーちゃん……みーちゃんがカッコ良すぎて胸が苦しいです……これがきゅんきゅんってやつか……!


 そして当然というか案の定というか、クラスメイトは一気に噂しだした。


「え、御代さん!? 何で急に!?」

「わかんないけどめっちゃカッコ良くない!? クラスの男子なんかより百倍はカッコ良い!」

「クッソ皆川め……! その手があったか……!」

「ぼ、僕も今から挙手すれば皆川君を落選させられるかな……?」


 おいコラそこの男子ゴラァ!!!!! てめぇらクソみたいな欲望でみーちゃんに近付こうとするなぶち殺すぞ!!! 前もあったなこんなの!!!


「珍しいな。んじゃ文実は皆川と御代で良いな?」


 クラスメイトに投げかけられた最終確認に否定する人は居なかった。何だかんだ言いながら今更遅れて手を挙げる人は居ないようだ。


 ぶーっとスマホが鳴る。一応授業中だから先生にバレないよう机の下で確認した。



みーちゃん︰これで一緒に文化祭を過ごせますね!



 良い……やっぱり恋人が居ると世界が輝いて見える……人生って素晴らしいなぁ……。



やっち︰これからはクラスで話しててもあんまり違和感が無いかもね。


みーちゃん︰かもしれませんね。やっち先輩と学校でも話して良いなんて夢みたいです。



 それはこっちのセリフだ。それにもし周りに良い感じって思ってもらえれば、いつかは周囲の目を気にせずイチャつき倒せるかもしれない。


 ……うわぁテンション上がってきた! 良いなぁ文化祭! やっぱ青春って言ったらこれだよね!


「じゃあとりあえず決めんのはここまで。後は出し物決めだけど、早速二人に任せるぞ」


 言われた俺達は、少し緊張しながらも教壇へ向かったのだった。

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