宇佐美の戦い
「一位はエントリーナンバー3!柿崎さん!なんと三連覇達成だぁ!」
「・・・っ!」
一位が司会の口から発表された時、過去最大級の歓声が巻き起こる。
指笛や拍手で体育館中が祝福ムードに包まれる。
横の柿崎ちゃんは安堵したように胸に手を置きため息をついている。
「二位はエントリーナンバー4の宇佐美さんです!投票数約1000票でしたが、なんと一位と二位のさはたったの10票!今回はかなりの激戦になりましたね~」
全身の力が抜け無気力感に襲われる。
負けちゃった・・・一位とるって約束したのに・・・
私が気力を失った顔で壇上を去ろうとしたとき観客の声が聞こえる。
「すごかったぞ!宇佐美ちゃん!」
「さっきはあんなこと言ってごめん、歌すごい良かったよ~!」
「見直したぞ!宇佐美ぃ!」
それを聞いたとたん不思議と足が勝手に止まる。
前の私にはなかった光景、いろんな人が私を応援してくれている。
そうだ、今の私には声援を送ってくれるんだ。
私が壇上から下り、真田くんのもとにむかっていると道中で穴山が立っていた。
隣には四天の高坂、三組幹部の山本がいる、どうやら私を待っていたようだ。
「ミスコンテスト二位すごいじゃないか、それで謝りたいことがあるんだ・・・今までお前にしてきたちょっかいの数々だ、あれ実はお前が一人でかわいそうでついかけちまったんだ。だから、そのどうだ、今日飲みにでもどうだ?」
穴山は今までの私にしてきた態度とは思えないほどの態度で接してくる。
今まで散々いじめてきたくせに私が美人になったとたん態度を軟化させるその行為は吐き気がするほど気持ち悪い。
後ろで高坂と山本もその姿をいやらしい笑顔で見守っている。
「きもいです・・・」
言ってやる・・・
「え?」
言ってやるんだ・・・!
「
大声で穴山をほかの観客だった人にも聞こえる大語で振る。
穴山はそれを聞くと口を開け唖然とする。
「あっはっは、言うねぇ!言われちゃったねぇ穴山!」
後ろで見ていた高坂は私の言葉を聞き、腹を抱えて笑い始める。
唖然としている穴山をよそに逃げるように駆け足で歩き始める。
よし!言ってやった!言ってやったぞ!
駆け足で帰り家に着くと家の前で真田くんが立っている。
「全部見てたぜ、やったな、穴山にガツンというお前の姿めちゃくちゃかっこよかったぜ」
彼はいつも通りのいやらしい笑顔で私を迎える。
「はい!でも・・・ミスコン一位は・・・」
「別に俺はそこまで期待してなかったし落ち込むことねえぜ、むしろ才能があったとはいえたった一か月本気で努力したら2位になれたんだ、十分すぎるだろ、これ以上欲張るのは罰当たりってもんだ」
彼は気にしていないと言わんばかりの余裕な態度。
相変わらず励ましているのか貶しているのかわからないような本心から出たデリカシーのかけらもない言葉だ、でもその数々の言葉のおかげで私は救われてきた。
「そうですよね・・・私頑張りましたよね・・・二位でも・・・」
彼は私の肩に手を置くとまるで親のような温かい言葉を私に賭ける。
「今まで、本当によく頑張ったな」
その言葉はこので最も優しく、一番見ていてほしかった人のその一言は私の努力の全てを労った。
「ありがとうござい・・・ます・・・」
瞳からでた雫が頬を伝い、視界がにじむ。
あれ、おかしいなぁ、二位でもすごいと思ってるはずなのに、涙が止まらない。
そうか、私は悔しいんだ、一位をとれなかったことが、もっと歌とか練習したほうがよかったかなぁ。
今更考えても遅い後悔が胸を締め付ける。
「ごめんなさい・・・約束したのに・・・」
グイッ
彼に腕を掴まれ引っ張られ抱き寄せられる。
「いいって言ってんだろ、それに俺はお前をここまで育てられて大満足だよ」
彼は私の耳元で囁くように話す。
人肌にしっかり触れたのはいつぶりだろう。
彼の腕の中はとても暖かく、心地いいものでとても安心できた。
この暖かさはノアの時と同じだ、得ることが多かったこの一か月で唯一私が失った温度ですら彼は満たしてくれた。
「これで宇佐美改造計画は終わりだ、そして一つ覚えておけ」
「・・・?」
「やられる前にやれ、殺されるくらいなら殺せ、お前は優しすぎるからこれくらいの精神で生きていけ」
「・・・わかりました」
私が泣き止むと彼は私を放して帰っていく。
「じゃあな」
彼の去っていく背中姿は私にはとても大きいものに見えた。
やっぱ真田くんはすごいや、とても同い年とは思えないよ。いずれ私はあの背中に追いつきたい、彼の隣に立って歩きたい、今はまだかなわないかもしれないけど。
私の人生を大きく変えてくれた人、真田勇気、私はこの人と私が大きく変わったのを感じたこの日を絶対忘れることはないだろう。
~~次の日~~
私はミスコンが終わるまでずっと眼鏡とマスクをして素顔を隠せという言いつけに従ってきたため、学校の人が髪型や顔が変わった私の素顔を見るのは今日が初めてだ。
昨日のミスコンの一件もあったからか、前の環境と一変した。
なぜか教室前に人だかりができている。
その中の私に気づいた女の子が突っ込むように走ってくる。
「宇佐美先輩!昨日のミスコン見ました、これ昨日先輩のために作ったクッキーです!」
教室に入ろうとすると教室前で待機していた唐突に後輩の女子にクッキーを押し付けられる。
「え、これ・・・」
「宇佐美先輩いた!」
「え?」
人だかりの一人が私に気づくと人だかりは私に近づいてくる。
嘘、もしかしてこの人だかりって・・・
「昨日で宇佐美先輩のファンになりました!付き合ってください!」
「ええ!?私は女性ですよ!」
「かまいません!」
噓でしょ・・・
告白してきた女の子の大胆な発言に開いた口がふさがらない。
キーンコーンカーンコーン
そんなやり取りをいろんな人としているとチャイムが鳴る。
「クラスの朝会が始まるからまたあとででおねがいします!」
チャイムを理由になんとか難を逃れ席に座る。
「宇佐美!お前すごいな!」
「宇佐美、まじでかっこよかったよ!」
難を逃れ一安心していたら今度はクラスの人間が押し寄せてくる。
うげぇ・・・
昼休みでも
「宇佐美!一緒に食べよ!」
「・・・いいんですか?」
「うん!」
クラスの女の子グループの一人が私に話しかけて一緒に昼ご飯を食べた、初めて同じ年代の人と一緒にご飯を食べたかもしれない。
今日はそんなことが多くあった、初めての経験だらけだった、でもすごい楽しくてうれしかった、そこには不安や辛さは少しもなかった。
そう昨日を持っていじめられていたか弱き宇佐美は消え、クラスの人気者になったのだ。
六限が終わり帰りの支度を始める。
今真田君は何をしているんだろう。
昨日の一件以降授業中や真田くんを考えてしまう。
彼は私のあこがれの人で恩人だ、今すぐにでも会いに行きたいが彼はこの学園で目立ちたくないようだし、目立ったことはできない、どうしたものか。
私がどう恩を返そうか悩んでいたところに私がこの世で最も嫌いな男が近づいてくる。
「おい、あんま調子乗んなよ、あと課題、これやっとけ」
そういうと彼は無理やり課題のノートを押し付けてくる。
「嫌です、私はあなたの奴隷ではないので」
私は押し付けられた瞬間それをゴミ箱に投げる。
「てめぇ・・・昨日俺にあれだけ恥かかせといてそれを水に流してやったのに・・・俺のやさしさがお前にはわかんねえのか?」
穴山の声は震え頭に血が上っているのが伝わってくる。
「私はあなたを振っただけです、それに恥もクソもないでしょう」
「殺す!」
ガギンッッ
穴山の手刀による首元への攻撃、しかしそれは私の服に隠れていたノアにより弾かれる。
「なんだこりゃあ・・・お前こんな変なものまで作ってきやがったのか・・・」
穴山はノアに奇異の目で見つめる。
その一瞬の争いは周囲の目をこちらに向ける。
「女の子に手を上げるなんて最低ー!」
「やめなさいよ!」
それを見ていた今日私を囲んでいた女子達が穴山に野次を飛ばす。
「うるせぇ!ブスども!ころされてえのか!」
穴山は頭に血管を浮かばせ返す刀で言い返す。
「やるなら人気のない場所でやりましょう、あなたもそのほうがいいんじゃないんですか?」
穴山にしか聞こえない声で話す。
「俺に命令とは偉くなったもんだ、いいぜ、また調子乗った女ほどやる時気持ちいんだ、なんでもありの1対1だ、覚えとけくそ女」
そういうと彼は去っていく。
絶対に負けるわけにはいかない・・・ここで勝負に勝ってばもう二度と私に突っかかってこないはずだ。
~~~
「ようやく、始まるなっぽいな」
宇佐美と穴山の絡みを遠くから見つめる。
「一か月ずっと監視するの疲れました・・・」
綾瀬ははぁとため息を吐く。
一か月、宇佐美のけつを叩いて強くするのはなかなかに大変だった、10kmずっと俺も止まらないためにずっと隠れて走っていたからだ、綾瀬にもダイエットのためずっと私生活は探偵のように監視していた。
そしてようやく俺の望んだとおりの展開になって俺の努力が実を結びそうだ。
「ククク、あとは宇佐美が穴山に勝てばようやく計画は成功だな」
後は宇佐美、しっかり踊ってくれよ俺の手のひらでな。
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