怨恨
「七海・・・」
七海は膝をつく俺にしゃがみ視線を合わせる。
なぜ七海がここにいるのかわからなかった。
そうだ、これは幻覚だ、死ぬ前に 俺の脳が見せる幻影。
「なんでここにお前がいるんだ・・・」
「ずっと見てたよ相変わらず、私がいなきゃ戦闘以外なんもできないみたいだね」
彼女はいつも通り意地わるそうな笑顔で俺を見てくる。
「偽物のくせに知ったような口をきくなよ!」
俺にとってお前がいればよかった、君のその笑顔にずっとしがみついて生きていたかった。
「・・・俺にはお前を助けるのは無理みたいだ」
久しぶりに見た彼女の笑顔は変わっていない。
偽物のはずなのにその彼女の顔をずっと見ていたくなる。
彼女は自分より他人のために動く、いいやつという言葉の擬人化のような人間だ、きっと許してくれるだろう。
「だめだけど」
「え?」
彼女の期待を裏切る言葉に目を丸くする。
「だからだめだって」
彼女は目を細め顔を近づける。
思わず顔を伏せる。
「昔はあんだけ、暴れてたのにこんなところで終わるんだ」
「うるせぇ...だったらお前がどうにかしてくれよ!俺にこいつを追い詰められる手段は...」
つい叫んでしまう。
所詮これは幻影だこいつに俺の痛みがわかるものか。
「私にはなにもできないよ、こっから伊吹に特別な力を与えることも、何もできない」
「傲慢な野郎だ、だったらどうすることも...」
「ただ伊吹が自分でどうにかすることはできるよ。思い出して、あの時やられたことを...思い出して、ためてきた屈辱を」
七海は俺の顔を服うように顔を持ち上げ目を合わせる。
まるで蛇に睨まれたように彼女の目から目を離せない。
制止した世界はいきなり周りが燃えだし、焼け落ちていく。
「伊吹の幸せを奪ったのは誰?お前の希望を奪ったのは誰?」
その男の言葉を聞くたびに何か胸の奥の熱く、苦しいものがこみ上げてくる。
「そうだよ、復讐でしょ」
「お前は...結局誰なんだ」
彼女はそんなこと言わない、いつもいつも他人のことばかり気にするような奴だった。
「君の味方だよ、たとえ世界が敵に回っても私だけは味方だから」
彼女は優しく俺を抱きしめる。
「殺しちゃいなよ、あんなやつ、最強の君ならできるでしょ」
耳元でささやかれる。
俺の知っている彼女はそんなこと言わないだが彼女から発せられたその言葉はほかのどんな言葉より甘美で魅力的な言葉だった。
「速く思い出して、私を助け出してね」
思い出してとは怒りのことだろうか。
彼女の顔は見えないが俺の肩に涙が落ちているのがわかる。
「ああ、助け出して見せる・・・絶対に」
「つまらない」
卜伝の一言で謎の世界から目を覚ます。なんだったんだ今の現象は...走馬灯の一種だったとでもいうのだろうか。
「結局腰抜けの一人だったか...どうだ、土下座したら命は助けてやろう」
なんだと?土下座しろだと...?
その卜伝の放った言葉は消えかけた俺の復讐の炎に油を注ぐ。
「しっかり頭をこすりつけ、無様に助けてくださいお願いしますと言えばな」
卜伝は冗談のつもりだったのか自分の発言にハッハッハと高笑いする。
こけにしやがって...ふざけるな、本当に土下座すべきなのはお前らのほうだろう!俺はあの時確かに傲慢で力におぼれていた。でもほとんどお前ら上層部の指示通り忠実に動いていた。それは信じていたからだ、仲間としてこの町を!なのにお前らは用が済んだら俺を追い出し、大事なものをさんざん奪った後、俺を悪という風評を流し、世論を傾け俺を悪者に仕立て上げ処分の大義名分を作った。
あんな身勝手極まりないことをしておいて、俺に謝罪をもとめるのか!お前らは...!謝罪をすべきなのはお前らのほうだ...!
体の芯が熱くなり憎しみの激情が頭の中を占領する、瞳の奥が真っ赤に燃える。その憎しみを唇をかみ、ぐっとこらえる。
憎しみでどうにかなりそうだ。脳裏に憎しみの光景が思い浮かぶ。その中のひとつ七海の最後の笑顔と涙をが脳裏に映し出される。
「速く思い出して、私を助け出してね」
そうだ、こんな所で終わるのか、あいつにもう一度会うんだろ?後悔するのも絶望するのもあの世でいくらでもしてやる。何をネガティブになっているんだ。殺す罪悪感か【剣聖】との戦いの焦りか俺は自分でもわからないうちにビビッていたのかもしれない。
この怒りを、憎しみを全部力にしろ。
シックとは自分の気持ちのぶれなどと直結している、並みのペーシェントなら怒りや悲しみは集中力が切れ、シックも弱まる、だができるペーシェントはその負の感情すら糧にしてシックを強める。
俺にはそれができるはずだ。
おかしい、あの俺と立花唯が戦う前に見せた幸せそうな卜伝の顔、俺から全部奪って自分だけ幸せってのはおかしいじゃないか…俺はあんなに苦しんできたのに…俺の積年の恨みの全てをお前にぶつけてやる。潰して、殺して、壊して、裂いて、お前の全部めちゃくちゃにして。
『
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