改造計画
この人はいったい何をしにきたんだろうか。
振り向きまた手を放そうとする。
「おいおい!とりあえず話だけでも聞いてくれよ」
「・・・・」
「お前にあったことお前のクラスメイトに聞いたよ、別に自殺が悪とか、しんだらなにも残らないとか薄っぺらい言葉は言わねぇよ、どうせいつか人間死ぬんだ、いつ死んだって変わんないってのもわかるぜ、ただ、何もせずに死ぬのはもったいないとおもってな」
「・・・どういうこと・・・ですか?」
「ただで死ぬのがだよ、お前今死んでもいいんだろ?だったら今お前最強だぜ?なにやっても死んで逃げれるんだからな、よく言うだろ無敵の人って、つまりだ、どうせ死ぬなら何かやりたいことやってから死のうぜってことだ」
「やりたいことなんて・・・」
「本当か?イケメンの男にちやほやされるとか銀行強盗とかどうだ?」
「・・・」
「冗談、冗談、笑ってくれよ、そうだな、例えばぁ、穴山に復讐するとかどうだ?」
真田くんはニヒルな笑顔を続けて言う。
「・・・確かにそれはやりたいかもですね、でも私には力がないんです、先ほども簡単に防がれて負けました」
穴山、顔を思い出しただけでイライラする、私だってできることならひどい目に合わせてやりたい。
「だから言ってるだろ、俺が鍛えて見せるって、美人になって力をつけてやり返してやるのさ!そして言ってやれ!バーカってな」
一か月でクラスのいじめられっ子がミスコン一位、そんなビルギャルも真っ青な逆転劇できるわけない、でもこの真田くんの自信に満ち溢れた言葉や態度はそれを実現させる説得力を持っていた。
真田くんは私に向け手を差し伸べる。
「お前のやる気さえ、あれば絶対に叶えてみせる、嘘じゃない、どうせ最後なんだ、俺に賭けてくれないか?」
さっきのいやらしい笑顔と打って変わって、きれいでその純粋で無垢な目は真剣そのものだ。
そうだ、どうせ死ぬならその前に死ぬ気で頑張ってみよう、死ぬのはそれが無理だった時でいいのかもしれない。
「わかりました」
彼の気迫に飲まれ提案を飲んだ私は片手を放し彼の手を掴もうとする。
ブオッッ
その時大きな風が私を襲う、その風は力の抜けた私の体制を崩し足を踏み外すには十分な強さだった。
ああ、運にすら私はなかったようだ。
「おい!」
ガシッ
真田君はダッシュで私の手、腕を取る。
「おい!俺の手を掴め!」
無理だ、よく映画やCMで人を腕で引き上げるシーンがあるがあれはフィクションでできるものだ、現実でそう簡単にいかない、普通に考えればわかる、片腕で人は持ち上げられない。
「はなしてください、放さないと真田君まで巻きこまれちゃいます!」
「ごちゃごちゃうるせぇ!俺を信じろ!」
「・・・わかりました」
その真剣さ、気迫に感化された私は手を握り返す。
「ぐっ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
彼は叫びながら私をどんどん引き上げていく。
すごい腕力と握力、普通に鍛えていてもそうはならない、たとえシックを使ったとしても相当極めなければ・・・
「ふぅ、ったく、じゃやるってことでいいんだな」
彼はやれやれとめんどくさそうにため息をつく。
すごい、引き上げた後も大きく深呼吸をしただけで息切れは全くしていない、まだ余力があったということだろう。
「すごい・・・ですね」
圧巻の力に言葉を息をのむ。
「これで俺が強いってのはわかったはずだ、才能があってのことだがな」
「そうですよね、私には・・・できない、ですよね」
そうだ、才能、私にはないものを彼は持っている。
「そう落ち込むなって、お前にも才能はあるぜ、腕をみせな」
「え、何を・・・」
そういうと彼は私の腕をつかみ裾を上げ、手首を見る。
「これ、最近始めたからまだ傷が浅いな」
「・・・な、なにするんですか!」
腕を引き、腕の切り傷を隠す。
まずい、知られてしまった、リストカットをしていることを、リストカットをしている人なんて頭がおかしい人だと思われるにきまってる・・・!
「おいおい、勘違いするな、別にリストカットすんなって言ってるわけじゃねえよ、腕貸せ」
「本当ですか・・・?」
私の傷を見ても何も思わないの・・・?
恐る恐る腕の傷を見せる。
シャキッッ
「え」
高速で振られた彼の手は私の手首を切り裂く。
「いたッ・・・!」
いつも切っているリストカットより深く大きく切られた手首からは大量の血がドクドクと流れる。
痛みでつい膝をつく。
痛い・・・なんでこんなことを・・・
「その血に念力をかけてカッターを造形してみろ!」
言われた通りに念力をかけるも私の念力の精度は貧弱だ、浮かすことで精いっぱいだ。
造形なんて高等技術、私には・・・
「できないか、ならお前の大事なノアを殺した穴山の憎い顔を思い出せ!そして最後は凝固させろ」
穴山・・・あいつはノアを・・・!
穴山の顔を思い出すと頭に血が上って集中力が高まるのがわかる。
「いいぞ!もっともっと怒れ!」
すると自然にカッターが造形、構築そして固まり、いつも使っているカッターとよく似た赤いカッターができた。
「すごい・・・!」
「やっぱりな、お前には才能があるのは知ってたんだ、でもなぜかシックは雑魚、理由は気持ちだ」
「気持ち?」
「そう、人間は興奮することで感情のエネルギーをたかめそれをシックに流用することができる、興奮にも種類があるがお前が力に変えられるのは怒りの感情だったようだ、お前人に怒ったことないだろ?」
確かに言われてみたらそうだ、私なんかが怒ったらダメだって思って・・・
「弱気なやつに多いケースだ、ま、この年までってのは珍しいが。なんで血なのかって理由はお前がリストカットをよくしていたみたいだからだ、シックは自分がよくしている行動に感化され、力を生み出す、リストカットはお前にとって力を与えてくれることのようだったからな、無意識の中でもそうなってんだ」
この人なんでそんなことまで・・・私の知らないシックの知識までよく知っている、ただの人間じゃない。
「お前にはその血を操ることを基本とする戦闘方法を習得してもらう、あとは外見だ!」
「が、外見もですか?でも私ブスで冴えないし、胸もないですし声もそんな高くなくて可愛くないし・・・ 」
私がモジモジ言い訳を並べて入ると彼は私の多い髪をかき上げ、眼鏡をとる。
「フン!」
「ひっ」
彼は顔を近づけ私の顔をなめまわすように見る。
「奥二重でクマがすごいな、だが目はだいぶぱっちりして大きい、顔も結構小さいしパーツは悪くない、肉が結構腹と顔についているが全然一か月で痩せれる範囲だ、全然可能性はあるな・・・」
「え?」
「今日からお前は俺の考えたトレーニングをしてもらう、名付けて宇佐美改造計画」
彼はそういうとスマホでメモを取り出す。
なんてかっこよくないネーミングセンスなんだ・・・
「第一!朝起きたら時と暇なときはイメージトレーニングだ!お前がステージの上にたつトップアイドルのイメージをしろ!これはお前のやる気になる」
「わ、私がですか!?」
「そしてそこにテロリストが来るイメージをしろ」
「テロリスト!?」
彼の突飛な話に仰天し声がひっくり返る。
「そうだ、そしてお前はそれを倒すイメージをしろ、これはシックを強化する、シックの基本は想像力だ!第二毎日夜走れ、どこでもいい、家の周りでもなんでも、10km以上だ。これはお前のスタミナを底上げする、第三!食事制限をしてダイエットしろ、できるな?」
「は、はい・・・」
勢いに飲まれなんとなくで返事をしてしまう。
こんな単純な三つで本当にミスコン優勝できるのだろうか。
「私なんてでることすら・・・」
つい思っていることを口走ってしまう。
「それ禁止だ!私なんて・・・って言葉、もっと自分に自信を持て!お前はそこらの奴より才能もある!」
「わ、わかりました」
「その吃音症みたいに、いちいち挙動不審になって言葉を詰まらせるのも禁止だ、これを全部やれたならお前は変われる、絶対だ、信じろ」
「わ、わかりました」
「返事は!」
「わかりました」
その返事を求める姿は軍隊を彷彿とさせる。
「当然今日からやれよ、俺が見とくからお前自分の家の周り10km分走れ」
私の貧弱な体で10kmも走れるだろうか。
自分を変えようとするといつも不安がすぐに出てきて私を邪魔しようとする。
「ちなみに、やると言った以上やり切らなかったら穴山の代わりに俺がお前をボコボコにするからな?」
「ヒッ・・・」
彼が冷たい顔をして指を鳴らすとその不安はすぐに吹き飛んだ。
「じゃ、今日から楽しもうぜ、楽しい楽しい改造計画をな」
こうして鬼教官真田軍曹の指導の下、楽しい楽しい宇佐美改造計画が始まった。
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