改造計画②
改造計画1日目
毎日5kmなんて貧相な私に走れるだろうか、でももしできなかったときはその時自殺すればいいか・・・
初日、私は家の周りを走る。
2kmの時点でもうすでに私はへとへとになってしまった。
ペースダウンした私に気づいた真田くんは私の横を走りメガホンを通し話す。
「もっとゆっくり走れ、自分のペースで走り切るんだ、その代わり走りきれ!」
「わ、わかり・・・じゃなくてわかりました!」
「おう!」
「疲れたぁ」
私は一日目の走りを終え帰宅した後、食事もとらず倒れるように眠りについた、死にたいなんて不安も考えられないほどの疲労をしていた。
その時の眠りはとても深く夢すら見なかった、久しぶりの快眠。
改造計画5日目
彼の特訓はとても厳しかった。
小腹がすいた・・・少しくらいおやつ食べてもいいよね・・・
私は食パンを袋から取り出そうとする。
「おいいいいいいいいいいい!宇佐美いいいいいいいいいい!」
窓に張り付いて真田くんが張り付きこちらを見ている。
「ダイエット期間中に炭水化物食っちゃダメに決まっているだろおおおおおお!」
「す、すいませ・・・」
「返事ぃ!」
「はいぃぃ」
どう厳しいかというとなぜか私がおやつを食べようとした時にも表れ私を監視しているほどだ。
改造計画10日目
一週間も走っているとだんだん体もなれ、疲れにくくなってきた。
鍛えられている証拠だろう、なんなら成長を感じられ楽しさすらわいてきている気がする。
前は寝るときいつも不安で仕方なかった、ノアが死んだ日なんて不安で眠れなかった、死にたい死にたいって、でも今は不思議とその不安はなくなり毎日快眠できている。
でも不安が全くないかというと嘘になる、いつも真田君に特訓に付き合ってもらうたびになんでこの人は私に付き合ってくれてるんだろうと思う、これをすることの彼のメリットはなんだろうとつい彼の真意を読もうとするが全く思いつかない、何か私の分からないメリットがあるのかもしれない、そこが今の私の唯一の不安だ。でも彼の無垢で純粋な瞳は素で私を育てているのを楽しんでることをよく感じる、きっと彼はそういう人なんだろう。
改造計画15日目
私はシックの特訓と言われ、真田くんに人気のない深夜の公園に連れてこられる。
「血でどうやって戦うのか、そういえば教えてなかったな、今からそれを教える」
「はい!」
「俺が持ってきたこの刀を造形してもらう、大きいし、初めて見るものだから時間はかかると思うが・・・」
私は手首を切り、初めて見るその刀を怒りとともに血液に造形する。
「おお・・・はやっ、さすがだ、俺が戦闘方法を言わなかった期間も何か考えていたはずだ、それを今ここで実践してみろ、俺が使うのは左手だけだ、一回でも攻撃を当てたらお前の勝ちだ」
彼は手首や足首を揺らし、いやらしい顔で挑発している。
「わかりました」
ザッ
地を蹴り突きの構えで彼に向ける。
「うおっ、速っ」
シュッッ
彼は体を曲げ避けるが突きは彼の頬をかすめ、切り傷を作る。
シックによる身体強化、そして血を操り血行を最大まで促進したことによる集中力増加、これは私にかなりの力をもたらした。
はずした、でも次は当てて見せる!
「すげーよ、かすり傷でも当てた以上お前の勝ちだ」
パチパチ
真田くんは私を見ると嬉しそうに手を叩く。
「こりゃ、この数日で得る力じゃねぇ、お前もしっかり感じれたろ自分の才能、あと9回やろう、かかってこい」
真田くんは指をくいくいと曲げ、かかってこいと言う顔をする。
「はい!」
「はぁ、はぁ」
結局油断していた一回目以外は手も足も出ず負けてしまった。
私が倒れて息切れしているというのに彼は全く疲れた様子を見せない。
でもすごい楽しくて、悔しかった、こんな気持ちは初めてだ、新鮮な感情に気分が高まる。
「悔しいか?」
「はい!」
「その割には嬉しそうだな・・・その悔しさはお前を強くする、忘れるなその気持ち」
ズシャッ
刀に重心を置き、立ち上がる。
「もう一度お願いします!」
「いいぜ、満足するまでやってやる」
私が再戦を要求すると彼は目を丸くし驚いたと思うとまた笑う。
改造計画23日目
「おい、宇佐美~、穴山と同じように俺の課題もやってくれよ」
同じクラスメイトがこの前の件をみたのだろう、そこに付け込み自分も課題をやってもらおうとすり寄ってくる。
「嫌です!」
真剣に目を見開きどっしり構える、そしたらたいていの奴はお前にちょっかいは出してこないとの真田君の言っていたことを思い出し、実践する。
「ああ、わかったよ・・・」
そのクラスメイトは私に断られるとは思わなかったんだろう、悲しそうに自分の席の戻っていく。
それを見ていたほかのクラスメイトのひそひそ話が聞こえる。
「最近なんか変わったよな、宇佐美」
「ああ、なんか痩せたし、前よりしゃきっとしてる感じ」
それを聞いたとき私は心の中でガッツポーズをとった。
やった、私は変われたんだ、みんなに言われるくらいに!
嬉しさでついマスクの中でにやけてしまう。
これも全部真田くんのおかげだ、彼が付きっきりで指導してくれなかったら直ぐに私の心は挫けていただろう。
改造計画27日目
「そして輝ぁ~く、ウルトラソウル!」
真田くんはカラオケでとても抑揚を効かせて歌う。
「は、はい!」
初めての経験につい、歌詞が遅れる。
「返事ィ!」
「はい!あのこれも特訓なんですか?」
「当然だろ!次お前だ」
真田くんはマイクからぐいとマイクを押し付けられる。
カラオケは昔お母さんといったきりだった。
真田くんはこういうことに不器用そうなイメージだったがとても歌がうまい、つい私もうまく歌わなきゃいけないんじゃないかというプレッシャーで体に力が入る。
「脱力しろよ、宇佐美、歌は脱力がコツだ、そして脱力は何もかもうまくやるにはめちゃくちゃ大事なんだ、例えば戦闘での緊張、これで力が入っていつもの実力が出ないとかはよくある、何もかもやる時は一度全身の力を抜くんだ、特に歌はそれがわかりやすい、緊張したら声が出なくなるからな」
「なるほど、わかりました・・・コホン」
一度咳ばらいをした後、大きく息を吸い吐き全身に酸素を回し力を抜く。
「そうだ、常に脱力しろ」
腹に力をいれ、頭に響かせるように声を出す。
「たぶん私じゃなくていいね、余裕のない二人だったし~」
歌い終わった後、真田くんは目を輝かせて私を見つめている。
「うまいじゃねーか!」
彼は私の手を取りブンブンふり、喜ぶ。
「口ずさんでいたので・・・」
「これ、ミスコンの時のアピールポイントにしろよ!」
「え、でも歌うことに・・・」
「大丈夫だ!やれ!」
「うっ、わかりました・・・」
彼の無理やりの命令でミスコンでワンコーラス歌うこととなった。
改造計画29日目
今日は真田くんの命令であるショッピングモールの三階に呼ばれた。
「よぉ、宇佐美、今日はきたるミスコンのため、お前の外見をがらっと変えてやる!こい、唯ぃ!」
「人いるから大きい声で呼ばないでよ・・・」
真田君が人目を気にせず、大きな声で叫ぶと恥ずかしそうに後ろから唯さんが出てくる。
「俺は女子の美容には疎いんでな、スペシャリストを呼ばせてもらった。ちなみに唯にはすべて話してある、そして・・・どこだっけ唯?」
彼が唯さんにそれを聞くと唯さんは1度ため息を着き大きくある場所を指さす。
「あそこ、ここら辺で1番上手いと思うってさっき伝えたよね?」
「そうだっけか?あはは!」
そこには大きく美容院と書いてある。
「美容院言っておけばとりあえず顔周りは最適解を出してくれる、行ってきな宇佐美」
「唯お前、俺にはともかく宇佐美一応お前の先輩だぞ、敬語使わなくていいのか?」
「めんどうくさいそういうの、宇佐美も唯でいいよ」
唯さんがそう言うと真田くんは唯さんの顔を見ながらやれやれと呆れるような顔をしている。
「唯・・・いってくるね」
「いってらっしゃい」
唯さんが優しい声で私の背中を押す。
~30分後~
「「おお~」」
真田君と唯は私の顔をみて感慨深いような顔をする。
「ミスコンいいとこまで行けると思っていけばいい思ってたが、こりゃマジで行けんじゃねぇか?」
真田君は四方から私の顔をじっと見る。
鏡を見て改めて自分の顔を見る。
その鏡の中には見たことのないほど美人な自分が映っていた。
眼鏡を捨てコンタクトに、ぼさぼさの髪はなくなり髪はショートカットにまとめてある、ぷっくりしていた頬肉は落ち、輪郭ははっきりしている、眉毛も整えなくぼさぼさだったが、しっかり整えられきれいになっている、見た目は中性的なイケメン女子という感じだ。
「すごい・・・」
「かわるもんだな・・・圧巻だ、素晴らしい、って泣いてんのか?」
たった一か月本気でやっただけでこんなに自分が変われたことに感動して涙が出てくる。
うれしい、あの頃の自分が嘘のようだ。
「これなら胸がなくてもいいしな、イケメン女子キャラで売ったらすごい人気が出るんじゃないか?」
「チッ、デリカシーなさすぎ!」
グサッッ
唯の鋭い手突きが真田くんの横腹を襲う。
「うおお、唯お前どこでこんな突っ込みを覚えたんだ・・・」
唯に刺された真田くんはそのまま崩れ落ち、唯さんに担がれる。
「本当ごめんね、宇佐美」
「全然大丈夫です、悪口とかそういうのは言われなれてるので・・・」
「チッ、ノンデリカシーすぎ!」
私がそう言うと担がれている真田くんの横腹をつまむ。
ギュッッ
「痛い!もう、ノンデリ発言しないから!肉をつままないで!唯さぁん!」
改造計画30日目
「さ、明日はミスコンだが、その前に最後の戦闘の特訓だ、殺す気で来い」
「わかりました」
相変わらず、真田くんは自身の塊のような態度だ、ただ前回の失敗を学び間違いなく油断はしていないのがわかる。
「その自信私がなくさせてみせます!」
「いいね!それくらいの勢いじゃないとなぁ!」
ポケットから自分の血液が入った袋を出す。
「なんだそりゃ」
「今から作るものに使う血の量はあまりに多いので事前に血をとっておくことにしたんです」
血液袋を破り外に出し、造形を始める。
「ノア!」
そのべちゃべちゃした液体はミミズや芋虫のような生き物のようにもぞもぞと動く。
「なんだその趣味の悪いのは・・・」
真田くんは顔を引きつらせ引いている。
「これは新しいノアです、ほら肩に乗ってうねうねして蛇みたいでかわいいと思いませんか?」
「・・・お前、疑似的な命を宿したのか・・どこまで行くつもりなんだお前・・・」
そう、私がやったことは疑似的な命を造形したものに与えるということだ、当然私の思う通り動いているが、たまに自発的に動いたりもする。
「それじゃあいかせてもらいます!」
カッターで手首を切り刀を造形する。
ザッ
大きく振りかぶる強い一撃を彼の目の前で長くためる。
「おいおい、隙だらけだぞ!」
当然彼はその隙を逃さず右拳で的確に一撃を打ってくる。
狙い通り。
ビシャッ
彼の一撃が当たる瞬間、肩にいたノアが前に飛び出し六角形に近い変形からの固体化によりその一撃を防ぐ。
「なっ、堅っ———―」
「ここです!」
ノアが作ったこの隙をすかさずとらえ切りかかる。
ズシャッッ
真田くんの服が縦に裂ける。
真田くんは自分の攻撃を防がれた瞬間間髪入れず私の攻撃を避けるモーションに入っていたため、寸でのところで避けれていた。
少しタメが長すぎたみたいだ。
「お前、血液の形質変化もしっかり使いこなしてるじゃないか、さらにそりゃなんだ自動防御みたいなやつか?今のは流石にきもが冷えたぜ」
彼はそういうと首元の冷汗をぬぐい、服を破き脱ぐ。
「そうです、私を攻撃しようとするとこのノアが防いでくれるようにインプットしました、この子は反撃と防御用の機械みたいなものです、しかも防御時の堅さは銃弾ですら通しません」
「ははっ、俺はとんだ、化け物を外に出してしまったようだな」
「そうですね、だから責任もって最後まで見ていてください!」
「喜んで!」
もう一度刀を大振りに振り上げる。
次は確実に当てる!
真田君は構えたと思うとまた同じ場所同じタイミングで右腕を出してくる。
「さっきので無駄とわかったんじゃないんですか!」
「無駄?それはどうかなぁ!」
ノアが前に出て攻撃を防御する。
液状からの固体化による硬質化これは並みの人間じゃ貫けない!
しかし私はここで彼の強さを思い出す、最初であった時の彼の戦闘には一切無駄がないものだったということを。
バギィンッッ
「!?」
ノアはまるで砕けたガラスのように砕かれる。
「俺を止めたいなら戦車砲でも止められる壁を持ってこい!」
彼の大ぶりの拳は止まらず私の顔を狙ってくる。
恐ろしいまでの威力なのがノアの弾け方からもわかる。
これ私・・・死んだ?
ブオッッッ
彼の拳は私の顔にあたる直前で止まり、そこから発生した風に髪がなびく。
緊張の力が抜け、崩れ落ちる。
「明日のミスコン一位とってこいよ」
「はぁ、はぁ・・・はい!」
彼は最後にニッと笑い、去っていった。
立ち去る時の彼の横顔はとても悪い笑顔をしていたように見えた。
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