ミスコンテスト
「エントリーナンバー1番!どうぞ壇上におたちください!」
ミスコンの司会がマイクを通し名前を呼ぶ。
きたるミスコン当日、武田家の人間や、生徒会、先生方も一挙に集まり壇上に注目している。
多くの人間が入るはずの海嶺学園の大きな体育館も満員なほどの人の数。
ミスコンは25年前からの伝統行事らしく、毎年生徒と学外の人含め1000人ほどが体育館に集まるらしい。ちなみに順位はスマホでの投票で決まる。
「はぁ、今回もこれやるのか~めんどくさいなぁ、でもまさか、ウサがくるなんてね~」
待機所の中で話しかけてきたのは隣にいる柿崎ちゃんだ。
柿崎ちゃんはこのミスコンの一位を一年と二年の時に取っている。ミスコンには100人以上の推薦での強制参加させられるという他薦規約があるのだが、毎回嫌々柿崎ちゃんはそれで参加させられているらしい、100人ものファンに推されてでるのは彼女の人気あってのことだろう。
待機所にいるほかの女の子たちもみんな美人でかわいい子ばかりだ。
「本当変わったよね一か月前のサナがボコボコにされた日あたりから、なにかあったの?」
彼女は首をかしげ、興味津々に聞いてくる。
「秘密です」
「えーずるーい」
真田君は実力を隠さなきゃいけない理由があるみたいだし、大恩人の彼に迷惑をかけるわけにはいかないので言うわけにはいかない。
「しかも見た目だけじゃないよ、態度も前はなよなよ、うじうじしてたのに今のウサはすごいこうなんかすごいシャキッとして自信に満ち溢れてる感じするし」
私は変わったんだ、昔の自分とは違う、それを今日ここで証明して見せる。
「でもなんで眼鏡とマスクしてるの?」
不思議そうに彼女は首をかしげる。
「こ、これも秘密です」
私は美を競うミスコンだと言うのに待機所でもマスクをしている。
これの理由はしている本人の自分でもよくわからない、でも真田くんが言ってきたんだ。
マスクと眼鏡は壇上の前に立ってアピールポイントを言うときまでは常につけておけって。
これが何の役に立つかはわからないが私を変えてくれた真田くんが言ってきたんだ、今回も信じて突き通す!
私たちが話しているとナンバー1の人が終わり次の人が呼ばれる。
「エントリーナンバー2番!どうぞ壇上におこしください」
私のナンバーは4、柿崎ちゃんは私の一つ前の3だ。
呼ばれたエントリーナンバー2の子が壇上の前側に立ちマイクを持つ。
「1分のアピールタイム、お好きにお使いください」
魔のアピールタイムが始まったこの時間で自分のいいところを見ている観客に示すらしい。
「私のアピールポイントは体が柔らかいところです!」
その子は自身気に足を横に垂直に広げる。
「う~ん」
「なんも可愛くねーぞ~」
その様子を前で見ていた観客の男子達の反応はあまりよくないみたいだ。
その野次の中に周りよりひときわ大きい声で野次を飛ばす人がいた。
「おいおい!なんか顔もアピールポイントも微妙だなぁ!」
穴山だ。
偉そうに足を組み、だるそうな姿勢で壇上を見ている。
彼ら武田家幹部は学園でも特別扱いされ、あんな傲慢なことをしても誰も彼らには逆らえない。
「1分経ちました、アピールタイムは終わりです、後ろに立ってください!」
司会が時間の終わりを告げる。
後ろに行くナンバー2の子は少し泣き目で哀愁を漂わせていた。
相変わらずひどい人たちだ、自分たちの立場に胡坐をかき、何をしてもいいと思い込んでいる。
「ナンバー3の方!壇上にお越しください!」
「じゃ、行ってくるわ」
彼女は手を振り、階段を速足で駆け上る。
すると彼女が壇上に見えたとたん、歓声が巻き起こった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお、柿崎さぁぁぁぁぁぁっぁん!」
「柿崎、がんばれーーーー!」
「柿崎ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
同級生や彼女のファンの声だろう、それにしてもすごい熱量だ、これだけで彼女の人気がうかがえる。
「あはは」
当の柿崎さんは苦笑いしており、特にうれしくはないようだ。
「二年連続でミス海嶺に選ばれた柿崎さん!今回も選ばれ3連覇なるか!それではアピールタイムです!」
大々的な前説をした後司会は柿崎ちゃんにマイクを渡す。
「うーん、なにしよっかなぁ」
柿崎ちゃんは目を閉じて唸りながら考えている。
どうやらアピールタイムに何をするか決めてなかったようだ。
それにしてもすごい態度だ、普通壇上に立てばだれでも緊張し言動やしゃべり方に焦りが生まれる、前の2人もそうだった、でも柿崎ちゃんはまるで壇上に立つのを慣れているかのように全く焦っていない、それどころかラフすぎるくらい。
「おい!もう考えている間に30秒立つぞ!」
「いくら可愛いからって調子乗んなー!」
「二連覇したからって鼻にかけてんじゃねー」
過激派オタクとシャツに書いてある集団の人たちが悩んでいる柿崎ちゃんに野次を飛ばす。
前二人のどちらかのファンだろうか、汗をだらだら流してうでには光る棒を持っている。
「そうだ、前の結構受けたやつやろ、ちょっとはずいけど・・・」
柿崎ちゃんはそういうと手で銃の形を作り前に構えるように突き出す。
「みんなのハート奪っちゃうぞ、ズ、ズッキュン」
柿崎ちゃんは少し恥ずかしがりながらもウインクしながら銃を撃ったような素振りをする。
一度空気が固まるも、そうした瞬間笑い声と歓声が体育館を包み込む。
「柿崎さぁん!愛してるよぉぉぉぉぉ!」
「柿崎のやつマジ受ける・・・」
「可愛い子って何やっても可愛いんだな・・・」
観客は多種多様な反応をしているようだが、さっきとはまるで大違いの反応だ、さっきの彼女を馬鹿にしていた人たちも心奪われたように呆然としている。
「神はいたんだ・・・」
さすが学園一人気な女の子だ。
「アピールタイムは終わりです、さすがのミスコン連続優勝者期待を裏切らない!これは次の人のハードルがとても上がってしまったぞ、それでは次の方どうぞ!」
「はい!」
私は生きのいい返事で立ち上がり、壇上に行く階段を上る。
「もう、今回の優勝者は決まりだから、お開きでいいだろ、ってなんでマスクと眼鏡してんだ?」
私が壇上に立つと、視界含め観客がざわつき始める。
そして緊張が私を襲う。
「おい、こりゃミスコンだぞ!顔が隠れてちゃ意味ないだろ!」
「速くはずせ!」
罵倒に近い野次が心に刺さる。
耳を貸さなくていい、私は彼の言うことを完遂するんだ・・・
司会からもらったマイクを持ち、マスクを外そうとすると司会が私の名前を話す。
「エントリーナンバー4、3年の宇佐美さんです!」
私の名を聞いた観客はまた一層ざわつく。
「3年の宇佐美ってあれ?いじめられっ子の?」
「この前、牛乳ぶっかけられてたぜ、あいつ」
「なんでそんな奴がみすこんでてんだ?冷やかしで無理やり出させられたとか?」
観客から聞こえる声は私の心を抉る。
「おいおい、陰キャのカスはさっさと家に帰れよぉ!時間の無駄なんだよ!」
この声は・・・
野次の中でまたひときわ大きい声をだし私を罵倒したのは穴山だ。
それにつづくようにほかの観客からも暴言が飛び交う。
「やる気がないなら帰れよ!」
「冷やかしなら辞めちまえ~」
私がマイクを持ったまま止まっているとさらに野次が飛んでくる。
その銃弾のような言葉の数々はネガティブな私に戻すのに十分すぎた。
そうだ、やっぱ私みたいな人間がこんなとこにでたらだめだったんだ、私は少し強くなって自己満足で終わらせるべきだったんだ・・・ごめんなさい、真田くん・・・
野次の言う通り諦めて壇上から下がろうとしたその時だった。
「俺を信じろぉ!宇佐美!」
野次に負けない大きな咆哮のような声が体育館中に鳴り響き、同時に体育館の注目がその声のもとに向く。
その声のありかは体育館の最後尾に見える、【彼】からの言葉だった、サングラスとマスクをしてみても誰かはわからないが、その存在感と声は間違いなく彼だ。
暗いサングラスの中の彼のまっすぐな瞳は私に向いており、不思議とその視線と存在は私から不安と緊張を取り払う。
そうだ、何のためにここまで来たんだ、つらい時や悲しい時もあった、でもそれはここまで来るためだ、たとえ順位がひどいものでも真田君と唯が可愛いと言ってくれた、私が逃げることは彼らの努力まで無駄にしてしまう、そんなことはできない!
バッ
マスクをとり、眼鏡をはずす、視界はコンタクトで十分とれている。
勇気を出して顔を出すが、観客は私の顔を見たまま唖然として無音になる。
みんな何も言わない、やっぱり駄目だったのかな・・・
「うォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
最初に叫んだのは過激派オタクとシャツに書いてある最初に柿崎ちゃんに野次を飛ばした人たちだった。
「え、めっちゃ美人じゃん!」
「本当にあのビジュアルでいじめられてんの!?」
「キャー!かっこいい~!」
それを起点に次々と観客が歓声を上げ始める、特に女子の反応がいい気がする。
「まさか、マスクと眼鏡は出るまでは秘密にして一気にさらして好感度を上げるスパイスだったとは、素晴らしい!」
真田君はそこまで見越して・・・
「まだ、まだ終わってませんよ皆さん、アピールタイムがあります、それではどうぞ!」
勝負はこっからだ。
大きく深呼吸し言われた通り体全身の力を抜き口を開く。
私は一分で歌える有名曲のワンコーラスを歌い終わる。
「す、すげー!可愛くてかっこよくて歌うまいとか最強じゃん!」
「宇佐美ってこんなすごい人だったんだ」
「アイドルになれるぜー!」
私の歌を聞き終わった観客のムードが湧き上がる。
さっきまで私に暴言を飛ばしていた穴山も目を丸くしている。
やった、一泡吹かせることができた!
「素晴らしいアピールでしたね、アピールタイムは終わりです、さぁ!皆さんお待ちかね投票のお時間です!」
壇上後ろ側のミスコン参加者が並ぶ場所に行く。
すると柿崎ちゃんが私に耳打ちする。
「すごい・・・ね・・・」
柿崎ちゃんはとても驚いて唖然としながら私を褒める。
私がここまでできるとは思わなかったのだろう。
彼女に言われた言葉や観客の言葉、これだけで今までやってきたことが本気で報われたと思えた、それほどにうれしかっのだ、これなら順位が最下位でも悔いはないと思えるほどだ。
30分後集計が終わり、順位が発表される。
「集計が終わりました、すごい結果になりましたね・・・」
緊張で心臓の鼓動が体中に鳴り響いているのがわかる。
4位だったらどうしよう・・・真田くんたちにすごい申し訳ないなせめて三位でお願いします、と妥協の考えが頭を支配する一方できることなら一位になっていてくれないか、そんな甘い考えが頭に残る。
「四位!エントリーナンバー2、三位エントリーナンバー1」
発表が一位に近づくにつれ、心臓の鼓動も速くなっていく。
やった!これで二位か一位だ!
「最後なので一位発表から行きます!一位は・・・!」
これまでの私の人生はずっと、ずっと暗雲が立ち込めたみたいに前が見えなかった、でも真田くんに言われここまで変われた、そしてそれは私の努力もあったが全部真田くんのおかげだ、彼に私がここまで成長したというのを見てもらいたい、それこそが最大の恩返しだ。
ぐっと手を合わせ強く念じる。
お願いします、神様、一位を・・・!
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