宇佐美の災難②

「なんで・・・?どうして・・・?」


思考を回すも目の前の現状が理解できない、いや正確にはできるんだ、したくないんだ。

後ろの壁に背をつき、力が抜けていくようにしりもちをつく。

ノアはどうみても息をしていない、血だまりが下の畳にしみこんでいる。

死体を照らす窓が割れている、おそらく犯人の侵入口だ。


「だれ?ころしたのは・・・・だれなんですか?」


混乱しぐちゃぐちゃになる思考回路をよそに犯人に思い当たる人物を考える。

この斬撃のような切り傷、刃物で刺したとは考え難い、シック?としたら誰・・・?

考える中である人間の言葉が想起する。


「宇佐美ぃ、お前んちには大事なペットがいるんだってなぁ」


つい先日言われたあの言葉。

穴山、あの人だ、あの人がやったんだ、それ以外に考えられない。

私が・・・私がすぐ従わなかったから・・・!

自分のせいでノアが殺された、この事実に呼吸が乱れる。


「はぁはぁはぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


耳をつんざくような自分の悲鳴、こんなに声をだしたのは初めてだ。

叫んだあとも過呼吸はつづき、息が吸えない、苦しい、それに涙も出てくるだんだん意識も朦朧になり、視界がくらむ、前が見えない。

ノア・・・許して・・・





「大丈夫かい?」


肩を揺らされ目が覚める、気づくと外は暗く、さっきあった死体にはブルーシートが被されていた。

そして前には全身青い統一した服をきた人たちが話をしていた。


「君、ここの家の住人だね、我々は警察だ、君の悲鳴を心配して近所の人が通報して駆けつけたんだ、この犬の死体に、割れた窓、事情を聞かせてくれるかな?」


私は警察の事情聴取を受けた、泥棒が侵入して騒いだ犬を殺したということで少し捜査が開始されたが所詮は空き巣、しかもなにも盗まれてはいない、殺されたのはただのペット、とても手の込んだ捜査とは思えなかった。

ノアの死体は検視のために一応預かるということで持っていかれた。

私は意識ははっきりとしていたが何も考えられずただ光のない目で下を見ていた。


そう、客観的には死んだのはただのペット、それでも私の唯一の家族だった。私の最後の味方、最後の、最後の希望だった、それがなくなった私の心の荒み具合は誰にも想像できないほどのものだった。

警察が帰った後自分の部屋で倒れるように眠りについた。

きっと夢だこれは、悪夢がつづいているんだ。


しかし朝起きてノアの部屋には鉄のにおいが漂って窓も割れたままだ。

今日から私はなにを支えに生きて行けばいいんだろう。

死人のような顔で学校に向かう、周りのものがすごく暗く見える。

ああ、いいなぁあそのひと今笑えていて。

今とてつもない負のオーラを背負っているんだと思います、それも周りのひとも不幸せにするくらいの、でも仕方ないじゃないですか。


そんなことを考えながらクラスの席に着くとそうな男3人に囲まれる。


「なんか大変な目にあったそうだね、なんかすごい顔しているけど大丈夫?」


そう話しかけるのは高坂くん、三年、武田家の四天ながら生徒会に監視役としておかれている。基本ジェントルメンのような感じだが一度怒ると手を付けられないというのを彼女の柿崎ちゃんに聞いたことがある。


「こりゃ、すげえ顔だな、この世の全てに絶望しちまったか?」


この人は武田家、3組幹部、この眼鏡をかけているのが山本くん、父親がシック研究者で本人もその研究者を目指しているらしい、噂によれば眼鏡をしているが、長そでで隠された腕含め、筋骨隆々らしい。


「犬一匹死んだくらいでそんな顔するか?おもしれ~」


この声は・・・!

後ろから話しかけてきたのは穴山、こいつだ、まだ100%というわけじゃないでも、動機があるのはこの人しかいない・・・!

穴山の声をきいた瞬間、反射的に睨めつけてしまう。


「おお、どうした、そんな睨めつけてきやがって殺されてぇか?」


「くっ・・・すいません・・・ 」


「そうだな、人を不快にさせたらごめんなさいだよな」


下にうつむき怒りの表情を隠す。

私にやり返す勇気さえあれば・・・


「ま、ドンマイ、お前がもう少ししっかりしてたらこうはならなかったかもな」


穴山は私の耳元に顔を置き囁くように告げる。

こいつだ・・・!ノアを殺したのはこの男に間違いない!

もう全部どうでもいい、せめてこの男をここで殺して全部終わりに・・・!

もしものための自衛用に隠しておいたカッターを取り出し穴山の首元を狙う。


ガシッ


「くそっ」


腕を穴山に掴まれ、首に向けた刃が届かない。


「いるんだよ、たまにやり返したいとか思う馬鹿が、奇襲ならいけると思っていやがる、だからこういうのも止めんのはなれてんだよ、なぁ!」


ドガァッ


思い切り腹を蹴られ私の軽い体は簡単に吹き飛ぶ。


ドガッドガッ


教室の隅で穴山はしつこく、念用に蹴る、もう二度と歯向かえないように。

私はうずくまり痛みに耐えることしかできなった。


「いつも課題しっかりやってもらってるしな、授業に支障をきたさないくらいにしてやるよ」


穴山一通り蹴り、気分が済んだのか蹴るのをやめる。


「おいおい、女子に手を出すなよ、可愛そうだろ」


高坂はうずくまり倒れる私にすり寄る。


「大丈夫?宇佐美ちゃん」


「ひゅー高坂くんかっこいい~いじめられっ子をかばうなんて~」


山本は高坂の行為を煽る。

一見紳士のような行為だが、私は蹴られている間にほくそ笑むこの人の顔を見ていた。


「宇佐美ちゃん、がんばりなね」


高坂は満面の笑みで私を見つめた後仲間の二人を連れ、去っていった。

無力感と悲壮感が同時に襲ってくる。

なんで私生きているんだろう・・・

倒れたまま放心しながら天井を見つめ、そこで私は一つの決心をする。




放課後、誰もいない屋上の階段を上り、鍵を開ける。

この屋上ははぐれものの避難場所だ、私が耐えきれなくなったときはここで心を落ち着かせている、開け方も知っている。


ガチャ


見渡す限り放課後の学校の屋上には誰もいない、それはそうか。

フェンスを乗り越え、私が最後に地につく場所に足を置く。

大きな風が刺さるようになびき、恐怖で足がすくみ緊張が体中に走る。

大きく深呼吸し呼吸を整える。

もう全部どうでもいい、一矢報いることすらできなかった、ノアのいない今私に生きる意味はない。


「いまいくからね、ノア」


ザッザッ


手を放そうとしたその時後ろから足音がする。


「全く、なんでそうすぐ自殺しようとするかね」


後ろを振り向くとそこにはいやらしい笑顔をした生徒会役員の真田勇気が立っていた。





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