剣の道
「今から何が始まるんだ?」
「お嬢様の御学友との試合だそうだ」
準備中にギャラリーがぞろぞろと集まってくる。少し目立ちすぎかもしれないが今更俺がここに戻ってきてるなど誰も夢にも思わないだろう。
「本当にやるんだね」
井上は心配そうな顔で俺を見る。
「当然」
何も無策でこの戦いになったわけではない、この戦いも俺の頭の中のパターンの一つとして考えていたことだ。決して怒りに任せて乗ったわけじゃないんだからね!
「でルールはどうする、私は何でもいいけど」
どんなルールでも私は勝つという自信の表れ、余裕しかないって感じだ。その慢心が命取りだぜ立花ぁ、その慢心ごと刈り取ってやる。
「だったらシックなしの純粋な剣道はどうかな、一本取った方の勝ちってことで」
「じゃそれで」
立花はあっさり快諾する。これはシックのやり合いだと今のところ俺に勝ち目がかなり薄い、しかしただの剣道ならば力だけでゴリ押せるかもしれないという算段の元の答えだ。運動神経ならさほど差はないはずだ。
「それともう一つ、余興に何か賭けないかい?」
「・・・別にいいけど」
懐疑的な目で一度俺を見るが、その自信はあくまで保ったままだ。乗ってくれると信じてたよ。
「賭けるもの一つ勝った方の言うことを聞く、だ」
「・・・」
流石に立花もこの内容に驚いているようだ、しかしお前は必ず受ける。お前はそういう人間だからだ、どこまで自分の強さに慢心し、自分が少しづつ抜け出せない沼に気づかない内にはまっていく。俺にはお前の考えが手にとるようにわかるよ、なぜなら今の立花は昔の俺さながらなのだから。
「いいよ、どうせ私が勝つし」
彼女が昔の自分をそのまま見ているようで気分がおぼつかない、本当に馬鹿だよお前は。
「んじゃ、始めようか、俺と君との真剣勝負」
俺は満面の笑みで竹刀を持ち、構えを取る。
「キモ」
俺は初速で一気に互いの剣戟範囲まで入る。その速さに立花は動じていない、俺の動きを見る気だろう、ここまでは予想通り。
カァン!
思い切り刀を斜め横から振り下ろす。竹刀がぶつかり合う音が道場に鳴り響き、鍔迫り合いになる、俺は本気の切り込みのつもりだったが立花は全く動いてない、こいつ俺より年下のくせにどんな体幹してやがる、大木でも殴ってる気分だ。
「それでここからどうするの」
立花は笑いながら俺に問う、立花の動きは硬くこっちから仕掛けて技を通すのは難しい、だったら…
力を抜き少し引き、鍔迫り合いをやめ、引き面を狙った。
「こうするんだよぉ!」
ブォン!
竹刀の風を着る音が耳の横を通り過ぎる。
「よく避けれたね」
「危ねぇ…」
立花は俺の予想の速度を遥かに超えてきた。彼女は俺の引き面に対しそれを見てからより速い相引き面を打ってきのだ。なんとかそれに気づき姿勢を崩し無理やり避け三歩後ろまで引くことができた。
わかっていたことだが彼女と俺では剣裁きにかなりの差がある。全く無駄がない完成された動き、大人顔負けの力、やっぱ付け焼き刃の剣じゃ、こいつには到底追いつけない。
今のはよけれたが3手目4手目続ければ必ず仕留められていた。二手目以上の打ち合いはしても無駄だ、間違いなく勝てない、今の打ち合いでこいつには確実に1手目で方をつけなきゃいけないと深く感じた。
「どうしたの、早く本気できなよ」
余裕綽々な彼女の態度が癇に障る。
「お望み通り、マジでいかせてもらうぜ!!」
最悪勝てなくてもいいと思っていたがここまで言われたら一矢報いなければ腹の虫が収まらない。黒人に教えてもらった最強の技打たせてもらうぜ。
「強すぎてチビんじゃねえぞぉ!」
「やっぱそういうやつなんだね」
イケメンキャラなんてもうどうでもいい、なぜなら今俺はこいつに一撃浴びせるために存在しているのだから。
1度叫んだ後、上段に構えを変え深呼吸をし精神を集中させる。疑念なき一の太刀がこいつに勝つ唯一の手段な以上この一撃に全てを賭ける。
「上段・・」
何かを感じたのか立花は竹刀の太刀筋を正し、身構えた。しかし予想通りこの技は知らないみたいだ。
「キエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
猿叫を震わせながら、全力で突貫する。叫びはこの道場中に轟かせ、観戦しているギャラリーまで驚きで絶句する。
「え?!」
立花は目の前の相手の理解できない行動に動揺し1度身体が固まり、対応が遅れる。急いで頭を曲げ、刀を上げ、上段からの攻撃を防ぐ体制を取ったため裏からの胴ががら空きになった。しかしここで胴を狙い少しでも隙を与えればすぐさま体制を戻し先に動かれるだろう、やはり狙うは面ただ一つ。見せてやる一撃必殺示現流奥義!!
「【骨断】」
バコォン!
竹刀が面に当たる高らかな音が鳴り響く。
井上は少し惚けた後旗を体側斜め上方に上げ大きな声で判定を告げる。
「一本!」
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