がんばろうな!

「もう君と俺は共犯者だ、大丈夫、兄さんには安全なように動いてもらうから、当然君にもある程度うごいてもらうけどね」


「本当にこれで兄はその武田家から足を洗うんですよね」


 不安そうな声で伊織は言う。


「大丈夫、俺がお金も上げるし危ないこともしなくなるさ」


「・・・」


「賢い君ならわかってるはずだ、この先困るのは目に見えているじゃないか、俺なら何とかしてあげられる」


 本当にこれでよかったのかって顔だな。

 悪いが真壁にはこれからたくさん働いてもらうよ

 どんな嘘だってついてやる、決めたんだ、桜にもう一度会って言わなきゃいけないことがたくさんある。

 この作戦は一週間の入念な下調べにより、行ったものだった。綾瀬の調べにより過去と家族構成を知れたのが一番大きかった、そこから真壁の弱点は容易に想像できた。真壁と戦う前日にすでに一芝居打つように伊織を口説いていた契約していたのだ。契約は武田家から真壁を救う代わりの芝居。もともと武田家の下につくのも限界だったようだし、大好きな妹に「正義のヒーロー」って言葉を使えばコロッとこっちについてくれると思ったよ。

 伊織は真壁の現状、妹のことを思って悪事をしていると教えると簡単に演技に協力してくれた。互いに大切に思っている兄妹愛を利用したのだ。俺は不安をあおるだけでよかった。これにより俺は強力な味方と情報源を手に入することができた。


「くくくくははははははははは!」


 つい深夜のファミレスで高笑いする、自分の思いどおりにことが進むことがこんな気持ちいいなんて。なんて美しい兄弟愛だ、せいぜいがんばってくれよ真壁。


「ことがうまく進んで浮かれるのは構いませんけど、まだまだ目標から遠いことにはかわらないんですからね、あと静かにしてください」


 周りから、特に前方から冷たい視線が送られている。


「本当にこんなので落とせてるんですかね…?」


「いやまだ昨日の今日話した男の誘いに乗ったんだ、まだ疑念があるかもな、どちらにせようまくやるさ」


「しっかり明日武田家のこと聞いといてくださいね」


「任せとけ」


 ~明日~


「ほらジュース」


 座り待っている真壁に対してジュースを軽く投げる。

 真壁はそれを受け取ると真剣な目つきで話を始める。


「話す前に教えてくれ、どうやって武田グループを壊すんだ?」


「あいつは大勢の前で力をみせつけて、グループを大きくしたんだろ?だったらこっちも同じことをしてやるだけだ。片っ端から幹部を病院送りにしてやる、そしてたらうわさが流れるはずだ、たいしてすごくないんじゃないかって、そこで、みんなの前であいつを打ち負かす、いやいや付き合ってる奴らも多いらしいからな、結束力がないところはこの程度でも瓦解するもんだ」


「武田本人はこの学校に来ていないようだがそれは・・・」


「本人もかなり強いんだろ?腕に自信があるやつならほかの駒が使えなくなったら自ら出てきて俺を潰しに来るはずだ、最悪会議に顔を出すくらいでもいいさ、その時お前が連絡をくれれば俺がつぶしに行く」


「一応筋は通っているがその程度で武田家は瓦解するのか?」


「任せとけって」


 不安そうな顔をする真壁の肩を叩く。

 確かにかなり馬鹿な作戦だ、武田をボコボコにしたところで武田家というグループがなくなるとはまったくもって限らない。だがこれだけのでかさのグループだ、武田自身の強さとカリスマで持っているようなもんだろう、武田本人を潰してこのグループがなくなる可能性は、5割程度ってところだろう。もし失敗したら俺は逃げられるが、真壁は終わりだろうな。

 だが俺の目的は七海の場所を武田から聞くだけだ、武田に会うことさへできれば後のことはどうでもいい。綾瀬との依頼はこなせなくなるが武田家だって壊せなくていいさ、彼女さへ助けられれば。


「まずは、要注意人物を教えてくれ」


「武田家は強さ、賢さで上の立場に行けるが、お前と俺は強い、ほとんどのやつらは俺らでやれるだろう、そのなかで気を付けるべきなのは【四天】ってよばれるやつらがいる、高坂、山形、馬場、内藤。こいつらは全員武田に心酔しているて俺みたいに裏切らせるのは難しい、しかも強さも他の奴らと比べると飛び抜けている」


  学校内の強者の知り戦う時のことを想像し心を躍らせる。

【四天】こいつらとやりあう時が楽しみだ。


「協力してくれそうなのは生徒会、校内唯一の反武田グループだ、生徒会メンバー、特に生徒会長が強く人望もあり、武田家も手をあぐねている、今武田グループ当面の目的『学園完全支配』を邪魔する奴らだ」


「なるほど、さぁどこから手をつけるか・・・まずはもう少し戦力が欲しいところだな」


「今それなら少し当てがある。今年度から入ってきた一年生のなかに10年に一人の神童って呼ばれてたやつが来たらしい、今俺はこいつを屈服させる命令をうけてる、こいつを俺たち側に引き込まないか?」


 神童ねぇ、、、真壁はこの話をするとさっきまでの不安そうな顔をやめ、いつものいやらしい笑顔に戻った。


「いい案だな、ていうか結構乗り気だな」


「武者震いがしてきた、今までいいように利用されてたぶんやり返せるんだからな、なにより、武田とその周りの連中とは前から戦いたかったし、調子に乗ってる奴の鼻を明かすことほど楽しいことはねえからなぁ、神童とか呼ばれて調子乗ったクソガキなんだろうなぁ」


 やべえ、やっぱりこいつもなかなかイかれてやがる、妹騙したことばれたら殺されるわ俺。


「じゃあ来週行くことになってるから時間開けとけな」


 真壁はこぶしを握り楽しそうに言う。


「あと最後に幹部の概要を教えてくれ」


「幹部には序列がある、俺たちのクラスは七組だが一組に近づくほど強い幹部になるように武田達がしたみたいだ」


「じゃあ真壁が幹部の中で一番弱いってこと!?」


「学年最初に序列を決める戦いがあるんだが、俺はもともと武田達に逆らってたからその戦いにすら入れなかった」


 ほっと胸をなでおろす。

 俺がそう思うほどにそれほど真壁は強い。こいつのシックで作り上げた直観や野生本能みたいな危機管理は恐ろしいほど敏感だ。そのくせ頭も回る。さすがに全員真壁より強かったら武田達を倒すのは無理だったろう。


「武田家の幹部のヤツらは強さも残虐性も人間性もイカれたやつが多い、最悪殺しだって選択肢に入れるような奴もいる」


 この世には自分の理解できないやつは沢山いる。俺の中のそれがこの武田家の連中だろう。


「仕事だが一クラスにつき一人幹部がついて、クラスの統制をとったり、集金の管理だ」


「なんだ集金って?」


「知らないのか?一か月に決まった日放課後クラス全員から一人五千円の金を幹部やその舎弟ががあつめるんだ、その金の半分が運営に行きもう半分はクラス幹部が管理、分配を行う」


 1人五千円ってうちのクラスが大体30人だから一クラス十五万円か。それが7クラスで百五万円それが三学年だから・・・一か月で三百十五万!?

 そういえばあの金をせびられていた女の子もその集金だろう。

 学校でなんて仕組み作ってやがる、この仕組みで学校の強いものだけを手中に置いているのか、弱いものは搾取され、強いものが搾取する。まるで社会の縮図だな。


「その金で何人か先生も取り込まれている。だから相談してももみ消される。あいつらはもう完璧なシステムを作り上げてんだ」


「もしはらわなかったらどうなるんだ?」


「リンチ、いじめ、暴力etc・・・いろいろだ、もう何人かそれで転校したやつ、退学したやつ、自殺者もでてる」


 真壁はどこかうしろめたそうだ。

 いろいろむごいことをやってきたんだろう。

 まさに悪の組織って感じだな。潰しがいがありそうだ。


「最後に・・・なんでお前は武田達を潰したいんだ?」


「・・・ヒーローになりたくてな、みんなを救うヒーローに、それだけだよ」


 聞かれた瞬間動揺で返事が遅れたがなんとかそれっぽい理由で返すことができた。

 真壁はまだ信用に値しない、俺の過去を全て教えるわけにはいかない。


「かっこいい理由だな」


 俺の質問を聞いた真壁は少し笑い、遠くを見る。


「じゃ、明日な」


 真壁は立ち上がり公園を出ていく、さっきとの態度とは裏腹に、その時の真壁の顔は新たな希望を見つけたような顔ではなくまだなにかに絶望したような暗い顔だった。

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