学園編
出会い
黒人との修行は過酷なものだったが俺の太っていた肉体はすべて消え去り、その怠惰な脂肪はすべて勤勉な筋肉に変わっていた。黒人の修行は俺に強さと自信を同時に身につけさせてくれた。
~~修行中〜~
ドガアッッ
「ぐおっ!」
右のストレートが黒人の頬にクリーンヒットする。
黒人は目を丸くしてふらついた。
速すぎるパンチに何が起こったか分かっていないようだ。
間髪入れずに追撃をかけるため、後退した黒人に近ずき左のジャブを乱打する。
「オラオラオラァ!」
バンッバンッバンッ
黒人の腕の上から殴りつける。
黒人は防御の為腕で顔を覆っているためなかなか体制を崩せない。
ガードが硬くて剥がせない・・・まだ頭はぐらついているはずだ、そう簡単に動けないはず、ここで打つべきはフルスイングの顔面狙いの右ストレート!!
ジャブを止め腰をひねり大きく振りかぶる。
「そのガードごと殴り割ってやるよ!」
しかしその隙を黒人は見逃さなかった。
ガードの中から黒人と目が合う。気づいたら黒人も右腕は防御の構えではなくいつでも返せるように下ろしてあった。
ボゴオッッッ
「ーーーッ!」
俺の左脇腹に深く黒人のカウンター右フックが突き刺さる。
黒人はにやりと笑いしてやったりという顔をしている。
「みぞおちにも衝撃がいってるはずだ今回も俺のーーーーってまだ立つのかよ?!」
「フンッ!」
ボコォッッ
息を吸い込み力を入れ痛みに耐え、狙い通りのストレートを黒人の顔面にお見舞する。
黒人は軽く飛び仰向けに倒れる。
「腹筋ならお陰様で鍛え上げさせてもらったよ」
服を脱ぎ割れた腹筋を見せる。
そこには前あったはずのたるんだ脂肪はどこにもなく6枚に割れた腹筋が存在感を放っている。
「あー痛ぇ、ついこの前まで少しこずいただけでヒィヒィ言ってたのにたった3ヶ月でここまでやられるなんて」
黒人は立ち上がり服に着いた土を払いながら喋る。
「兄弟お前天才だよ、筋力、動体視力、体力全てが身体能力を強化したペーシェントでも勝てないだろうな。自分のこんなことなんてやめてアスリートにでもなった方がいいかもしれないお前のその力があればメダル何枚もとれるぞ」
「天才肌なもんでな」
フンと自慢げに笑いふんぞり返る。
そうだ、今までなんだって上手くやってきた、黒人から教えてもらった対能力者技術も三か月で完全に覚えきった。でもだからこそあの出来事に呆気を取られ負けちまった、今度は負けない、もう二度とあんな思いしてたまるか。
「調子に乗るのはいいが、実戦では乗らない方がいいぞその慢心は足をすくわれる。そしてくどくいうが、結局その戦闘技は近くによって自分の腕が届く範囲でしか出来ない、言うなればインファイター、遠距離や中距離で戦う相手には十分気をつけろ」
「分かってるよ」
元の圧倒的な強さとは違うがまた自分が強くなっているのを実感できるのが楽しい。この力とその力を使う条件さえ整えば1人ずつ屠っていける。
「楽しみだよ、これなら復讐できる」
「狂気の域だな、一応目的は復讐じゃないぞ」
黒人は苦笑しながら呆れたような顔をする。
~~~
お陰様で自信満々だ、例えシックが使えなくとも今なら誰にも負ける気はしない。
シックワールドに入るための検査は綾瀬が用意した身分とシックの有無を確認することでで簡単にはいることができた。
さて、いざこの町に戻ってきたもののどうしたものか。
「最初の一か月ほどはその学園になじみ、普通の高校生として学園生活をおくってください」
綾瀬の奴適当だな、このままだとこの力を使うことも当分ないだろう。これから俺は何すりゃいいんだ。しかしこの真田勇気の身分はなかなかにやりやすい、一人暮らしで友達もいない、いくら眼鏡をして顔がよく見えないとしても、中身が変わったというのに誰も違和感すら感じている素振りもない。今思えば真田勇気という人間はなかなかに悲しい人間だった。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。先生の話は終わったようだ、昼休みの時間が来る。
俺のいや、真田勇気は友達がいなかったようだ。クラスの隅っこにいても誰とも話さなくてもそれが普通らしい、しかし友達がいないというのは悲しい、クラスの学生は全員食堂にいったりクラスで誰かと食っている、俺だけ一人の悲壮感やばいわ、泣ける。
俺が悲しさのあまり、寝たふりを始めた時だった。
「えー綾瀬さんそんなのが好きなんだ」
隣のカースト上位の会話。綾瀬の最近できた友達らしい、彼女は持ち前のステータスで友達をそしてクラス内での人気とカーストを格段と上げていった。今では、俺が話しかけるだけでほかの連中に呪いの視線を受けるまでになってしまい、目立たないために校内ではなるべく話しかけないことにまでなってしまった。恐ろしい子。
教室内に弁当のにおいが漂いだし、腹が減る。ここで一人で食べるの恥ずかしいし、人気のいないところで食うか...
一人寂しく、人気のないところででも食うか...
教室を出て、人気のない校舎裏に入る。
校舎裏に入ると、不良のような奴ら5人が、ひ弱そうな少女を囲っている。
こんな光景まじであるのかよ・・・
「金出せよ~俺困ってるんだよ?」
「速くしてよ~」
下品な笑い方をしながらか弱そうな少女を追い詰めている。
「すいません・・・今月はお金なくて・・・」
彼女の目と俺の目が合う。涙ぐんだ眼、助けてくださいって感じだ。
だがダメだ、俺は助けられない。俺は君の求めているヒーローじゃないんだ。あまり目立つなと綾瀬に釘も刺されているし、恨むなら弱い自分を恨んでくれ。
うしろを向き、その場を去ろうとする。
「おい、なにみてんだよ」
立ち去ろうとする、俺の肩を一人の男が掴み、にやにやと笑みを浮かべている。
「ハハハ、いやなんでもないよ、ただ通っただけさ」
苦笑いを浮かべ弁解しなんとかこの場を収めようとする。
「俺らは武田家の人間なんだけどさぁ、財布忘れて困ってんだよね、お金貸してよ」
武田家ってなんだよ・・・
「奇遇だね、僕も忘れててさ...」
なんとかごまかし穏便にこの場を済まそうとする。
こいつら話通じねぇ・・・
「じゃ後ろのポケット見せろよ」
不良が財布が入ってる後ろのポケットに手を伸ばす。
俺もあの少女どうよう食い物にするきなんだ、ぼさぼさの目元まで来ている長い髪に眼鏡、我ながらいかにも弱そうなポイントをとらえている。この格好なら俺をなめる気持ちはわからなくもない。
しかしここまでされては俺も黙っているわけにもいかない。
というかこういう調子に乗った奴らが一番つぶしがいがあるってもんだ。
ガシッ
伸ばしてきた手を掴む。
「あ?」
腰をひねり、いきよいよく背負い投げを食らわせる。
ブンッ
不良の男の体が宙を舞う。地面とぶつかった男はそのまま気を失った。
俺が黒人にならったのはほとんどが身体能力を強化した後の戦闘方法、ボクシングや柔道の系譜をくんだ総合格闘技、対集団戦もまなんだ。黒人曰くおれには才能があったらしくたった三か月で教わったことすべてをコンプリートした。
「お前、取り返しつかねえことしたなぁ?」
それを見ていた、少女を囲んでいた後ろの4人の不良もうでを回しながらこちらにくる。
男たちは気だるそうに立つとニタニタと笑っている。
「ヒョロヒョロの癖に調子乗んなよ、日陰物が」
めんどくせぇ、さっそくやっちまったかなぁ
眼鏡をとり、髪をかきあげ、ボクシングの構えをする。
「来るなら歯ぁ食いしばれやテメェら」
くいくいとゆびを曲げ、男たちに似たようなニタニタした笑い方で挑発する。
「お前なんざシック使わずともボコボコにしてやるよ!」
一人の男が走り出したのを見て他の男も走り出す。
「口だけだなこれは・・・」
先頭の男が大きく振りかぶり顔面を狙った拳を近づけてくる。
これが修行の成果ってやつか、こんな拳、遅すぎてあくびがでちまうよ・・・!
男のこぶしをよけ、懐に入る。
シュッッ
拳をよけられ前かがみになりがら空きになった男の顎を俺のアッパーが直撃する。
ドガァッッ
男は少し浮き、倒れかけるもなんとか立っている。
「クソ・・・こいつ強いなでもシックをつか・・・!?」
体制を立てなおす前にすかさず顔面ストレートを打ち込む。
バゴォッ
先頭の男は倒れ、気絶する。
残念、喋ってる暇なんて喧嘩中にあるわけないだろ。
「ほら次こいよ!腑抜けしかいねーのかぁ!」
「卑怯だぞしゃべってるときにこうげきするとか」
「卑怯?大人数で囲ってるお前らが言うことかよ」
「・・・ちっ、もういくぞ!」
一瞬で先頭の男がやられるのを見ていたほかの不良たちは怯み、倒れた仲間を拾いにげていった。
やりがいのない奴らだ。
「ふぅ」
手をパンパンとたたき、ため息をつく。
面倒なことにつながらなきゃいいけど。
あいつらは結局大した実力もなく口だけで集団でしか調子に乗れないやつら、少し痛めつけただけで根をあげて逃げていったのがいい証拠だ。
やっぱりシックなしならほとんどのやつは倒せるな、問題はシックありでどこまでやれるかか・・・
それをみていた先ほどの少女は頬を染め、俺のことを輝きの目で見ている。
視線が痛いほど煌びやかだ。
「お前さ、いつもそうやって常に弱気でいじめられてきたんだろ、強くならなきゃ一生そのままだぞ」
彼女の見た目は自分が強者になることをあきらめている人間って感じだ、結局最後に頼れるのは自分だというのに。
「ど、どうすればあなたみたいに強くなれますか?」
彼女は興味津々に目を輝かせ聞いてくる。
「ださい黒縁眼鏡、ぼさぼさの髪、目のしたのくまもひどい、化粧もろくにしていない、まず見た目から整えたらいいかもな、見た目も立派な強さだ、弱そうな見た目をしてるから脅されるんだよ」
「・・・」
少し強い口調で口にする。彼女はその意味をよく理解できていないのか唖然としている。
俺は弱い奴は嫌いだが、その現状に甘んじて諦めている奴はもっと嫌いだ。
彼女と少し話ているとチャイムが鳴る。
「気持ち次第で人は変われるぜ。ひ弱なお前でもな、人間気持ちだ、じゃあな」
決まった・・・めちゃくちゃかっこいいセリフはいちまったぜ・・・
俺はその場を後にし、教室にも戻った。
戻ろうとすると腹が鳴る。
結局喧嘩のせいで弁当食べれなかったなぁ。
ぎりぎり授業前に教室に戻ることができたようだ。
教室はいまだ騒がしい、椅子に座わって数分待っているとようやく先生が教室に入ってくる。
「おまえら話やめろー授業始めるぞー今日の授業は食後で悪いが対人シック訓練だー」
対人シック訓練は、二人一組にわかれ互いのシックをぶつけ合う訓練だ、ここは弱そうなやつとやって適当にじゃれているのがよさそうだな。
席を立ち周りを見渡そうとすると大きな影が後ろから出てくる。
「おい真田ァ、なんかさっき俺の舎弟がお前にお世話になったみたいだな」
ぐいっと肩を掴まれる。
「げ」
つい言ってしまった、高い身長。金髪、焼けた肌にツーブロック、筋肉質の肉体、まさに不良という字を体現した男、真壁だった。性格的にも、能力的にも、人間的にも戦いたくない相手だ。人妻寝取ってそう。というか舎弟って...こいつそんなえらいやつなのか?
動きやすいジャージに着替えた後、体育館で真壁と対面する。
「お前にが力隠し持ってたなんて驚きだわ、ほら、おまえからこいよ」
「なめやがって...」
なめた態度で、にやつつきながら言ってくる。余裕でぼこしてやるよ、そんな顔だ。頭悪そうな顔してるくせにイラつくぜ、こいつはバカで慢心している。
俺だって黒人との特訓で少しだが力を取り戻した。
~~~
「兄弟が今から身に着けるのは殴り合いなどの対シックへの生身の戦闘方法だ、そして封印されたお前の力をほんの少し取り戻す方法だ。兄弟に渡したナックルダスターあるだろ、聞いてると思うがこのナックルダスターはシックの力を半減させる。バリア、念力の壁などな。
みなまで言わなくてもわかってると思うがシックの強みは念力による攻撃力以外にも、念力の防御力もある、大体の能力者、いわゆるペーシェントには念力の壁、バリアなんてもよばれてるな、それをまとったりするんだが練度にもよるが、それは銃や爆発などをシックのバリアはシックの攻撃で中和しなければ壊せない、つまりシックのバリアは、シックでないと貫通しにくい。
でもそれの性能とお前の岩だって割るほどの威力のパンチなら簡単に貫くことができるのだろうな。とりあえずはそれをうまく駆使して敵を戦闘不能までもっていけ、だが当然使うときは場所を選べ、本来の真田の戦闘方法は念力を駆使した武器の駆使だったらしいが、もしあちら側の上層部にばれれば兄弟お前は、こうだ」
黒人は親指をしたにして首を掻っ切るサインをした。
~~~
要はこういう場合はボコられて真田を演じろってことだろうが...無理!だったら進化したってことでいいだろ、こいつには一発いれとかなきゃ気が済まねえ!負けを演じるのはその後だ。
俺の強くなったという事実が昔の自分を思い出させ性格までもが昔の自分に戻っている気がする。
確かこいつは身体能力を強化して戦うやつだったはずだ。初めての相手にはちょうどいい。
微量なシックの力を自分自身にかけた、【超感覚】、これは自分の感覚の能力を底上げする能力。使えるシックが少ない俺の中でも使える能力。
俺はジャブを顔面に打ち込んだ。
運でたまたまあたったように一発打ち込んでやる!!
「へえ、やっぱり、身体を強化して戦う感じだったんだな」
真壁は俺のジャブを軽くよける、まだ余裕な顔は崩していない。だがそれはブラフ、本命の右ストレートを真壁の顔面にむけて打ち込もうとする。
どうせこいつもさっきの雑魚のと同じだろ、少し隙が大きい動きになるがどうせ見切れはしない。さっさと決めてやる。
しかしこの俺の考えは一瞬で打ち砕かれる。
ドゴオッッッ
「がはっ...」
重いこぶしが俺の顎を打つ。
殴られたのか俺は・・・
頭がぐらついて視界が曲がる。
真壁の野獣のような眼光はしっかり俺の動きを読んでいた、真壁が俺の右ストレートより先に俺の顎にカウンターを受けていた。
ついダメージに膝をつく。
これがシックの身体能力強化を含んだパンチ、恐ろしい威力だ。黒人の言葉が頭をよぎる。
「まずは相手の能力を把握することから始めるんだ、そこから分析そして叩け」
バカで慢心している相手だというのは大きな勘違いだった、慢心しているのは俺のほうだ。
「甘すぎるだろ見通しが、そんなんじゃ俺には勝てねえよ雑魚」
こいつは【超感覚】を研ぎ澄まされているのがわかる、練度を恐ろしいほどに上げている、さっき相手した奴らとは明らかに違う、血を吐いて努力をしている側の人間だ。獰猛な獣のような男と思っていたがやつのパンチは想像以上に繊細で的確だった。
「強くなったのかと期待するだけ無駄だったな」
真壁はそう言い残して残念そうに去っていた。
悔しい、本気でこそなかったが強くなった自分なら本気を出さずとも勝てると思っていた、昔の油断癖が治っていないな。
「また、驕る気か俺は、変わってねえな」
悔しさのあまり独り言をぼやく。
油断、怠慢、さっきの雑魚を倒したくらいで少しいい気になっていた。馬鹿丸出しだ。だけどその悔しさの反面少しうれしい気持ちも沸いた、悔しいと思う心が残っていたこと、ニート生活で忘れてたこの心が。俺はここでこいつを絶対に倒すと決めた。次はマジでやってやる。
俺はこの時心の中の小さな炎がどんどん熱くなっていくのを感じた。
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