佐山の過去

 〜10年前〜


「ヒィ!殺さないでくれ、私にはまだ家族が...」


 犯罪者の分際で許しを請うのか。お前が殺した家族もそんなことを言っていただろうな。


「やめておけ佐山、今回の任務が捕縛だということをわすれるな」


 上司は俺の腕をつかみ、振り下ろそうとする右手を制止する。


「ダメだね」


「ぐああああああああああああああああああああああ!!」


 左手で犯罪者の頭を掴むと、対象の血が飛び散り、肉片が散乱する。


「貴様...」


「もともと裁判所の代わりに俺らがいるんだ、俺が代わりに罰を下したって何の問題もないだろ」


 俺は生まれたときから神童とよばれ20歳の追放される日までシックの犯罪者を殺しまくった、政府直属暗部組織の一員として。

 シックが発現した最初期の日本の憲法では科学的に証明できることでの方法でないと、裁判では裁くことができないというがあった。シックという謎の能力の方法で罪を犯しても科学的に全く証明できないことで立件することができず、有罪にできなかった、さらにシックの犯罪者の力は当時の警察官がもつピストルでは全く歯が立たず、捕まえることすら難しい状況だった。


 その対策に陰でつくられたのが対ペーシェント用のペーシェントによる暗部だった。防衛相管轄で作られたその機関には、優秀なペーシェントたちが集まり、それで名をはせたのが俺だ、小学生から神童といわれ、気に入らない犯罪集団をぶちのめした、そのことがきっかけになり、10歳で暗部に加入。15歳には俺に逆らうやつはほとんどいなくなり、20歳になるころには誰もが認める最強の男になった。その特徴的な戦い方と強さで【赤の稲妻】なんて変な渾名を付けられるほどだった。当時傑出だらけの【七色】とよばれたペーシェントの中でも、強力なシックで名をはせていた【碧の殴鬼】と【萌葱の十字架】といったトップクラスと噂されていたやつらと合わせて【三原色】なんて呼ばれることもあった。


 あの時の俺は非情で冷酷。犯罪者を殺してもどうとも思わなかった、俺はろくに友達もいなく孤独に生きていた、暗部はだいたい二人一組で行動するが、ほとんどのやつが俺についてこれずにやめていった。周りは俺を畏怖し、遠ざけた。

 彼女との出会いは20歳の時だ。



「君、いつも強いからって偉そうにしてるね、それじゃいつか仕返しされちゃうよ」


「は?俺は強いから偉いんだ、偉そうにしてなにが悪い」


 新しい俺のパートナーとして当てられた女、それが彼女だった。

 彼女の名前は桜七海、俺よりも5歳年下で可愛い顔に愛嬌と元気があり、素直なやつだった。誰にでも優しく明るい彼女はいろんな人間から慕われていた。


 強さを振るい、周りを見下し、孤高に生きていた俺とは対極の人間。


 彼女との出会いは暗部の時だった。彼女との出会い方は決していい出会い方ではなかった。


「お前こそ、この俺に対して指示するなよ、殺すぞ」


 昔の俺は傲慢そのもの、力に溺れていたんだ、誰にも抗えないほどの力。


「ふーん、そんなこというんだ、私も結構強いけど君こそ大丈夫?負けたら二度とその偉そうな態度誰にもとらないことね!」


 最初は力の差もわからないバカだと思った。陽気で、破天荒、感情の浮き沈みが激しく、距離感が近い、そして何より頭が悪そう。最初はうっとおしい彼女のことが嫌いだった。


「うわーーーーーん、また負けたーーー」


 彼女はかなり強かった、だが俺との力量差は明確だった。しかし負けても負けても何度も俺に挑んで俺を改心させようとしてきた、今思えば全部彼女の言うとおりだった。


 暗部の活躍により犯罪者の数が激減、そのなかでも俺の活躍はずば抜けていた、俺の残酷さと強さに恐れ俺を見た瞬間投降してくる奴らもいた。しかしそんなときに事件は起こった。傲慢で強気な態度をとる、最強の暴走を上層部が恐れたのだ。


 上層部はシックによる犯罪を終息させた後、用済みだと考え、危険分子の俺を排除しに大掛かりな作戦をねった、ほかの暗部に、その後の生活を保障する代わりに俺の殺害を命じ、俺は仲間全員に裏切られた、上層部のやつらは俺を殺人鬼のテロリストに仕立て元仲間の暗部連中を差し向けた。


 まんまと罠にはまった俺は大きな傷を負った、だが俺はこの時はまだ何とかなると思っていたんだ。暗部のやつらは裏切ってもほかのやつらが助けてくれるって、俺はあれだけみんなを助けたんだ、きっと俺を助けてくれるやつもいるって。


 しかし誰もが俺から目を背けた、昔助けたもの、親友や幼馴染、先生、家族、みんな俺のことを見捨てたんだ。いろんな奴から罵声を受けた。


 幼馴染は


「クズ・・・!こないでよ!」


 信じてくれ!俺はテロなんて起こしてない!


 親友は


「君は調子に乗りすぎたんだ、罰だよこれは」


 俺ら二人ならどんな困難だって超えられるって言ってたじゃないか!


 なんで・・・なんで・・・


 親からは


「でていっくれ・・・ここにお前の居場所はもうないんだ」


 それが子供にいうことかよ・・・!


 七海の家族からは


「なんで姉さんを巻き込んだ!あんたがいなけりゃ姉さんは幸せになれたのに!」


 助けたものたちからは


「来るな!!!化け物!!!」


 あぁ・・・


「なんでだよ、お前ら!俺は!お前らのために!」


 意味が分からなかった、理解できなかった。これまでさんざんみんなのために、ペーシェントのために動いたのにその仕打ちがこれか・・・誰も俺を信じてくれない、今までしてきたことは無駄だったのだろうか。

 俺は深い絶望に打ちひしがれた。なんでこうなったんだろうって。そんなときぼろぼろの俺を唯一助けてくれたのが七海だった。七海は俺を説得し、上層部との直接交渉を提案してきた。


「伊吹・・・まだやり直せるよ・・・」


「うるさいな!気持ち悪いんだよ!」


 信じていた人たちに見捨てられ、あきらめていた俺にはもう生きる気がなかった、自暴自棄ってやつだ。彼女の温かい手を振り払ったのだ。


 そのあと彼女は俺の死刑を能力封印のシックワールド追放処分までに減刑する代わりに自分の人体実験の全面協力を申し出た、シックへの研究がしたかった上層部のやつらたちは喜んでそれを受け入た。暗部にも入れるほどの才能をもった七海は被検体としてちょうど良かったのだろう。


 あいつは手を振り払っても俺の手を掴もうとしてくれた。もしあの時しっかり話をしていればどうなっただろうか、その後彼女がどうなったかは知らない、きっと俺の予想できないほど酷いことにあっているだろう、でも力を失った俺にはどうすることもできない。

 もう力はない。過去には戻れない。

 あの言葉を今でも後悔している、いつまでも、いつまでも。




 〜〜〜


 昔のことを考えると自分のふがいなさとはめたやつらのことではらわたが煮えくり返りそうだ。

 もし今度こそ彼女を救えるなら俺のこの命は惜しくない。

 死んだはずの昔を取り戻す。



「桜さんが今どういう状況なのかは分かりませんが、シックワールドにいるのは確認しました」


「無事に生きていたのか・・・」


 安堵の気持ちと後悔の念が同時に押し寄せてくる。生きていたのは嬉しい。でもまだ俺のせいで苦痛の日々を暮らしているのだ。

 きっといくら人がいい彼女といえど後悔しているだろう。今ではこんな凡人以下の人間のために自分の人生を投げ出したのだ。

 今の彼女がどうなっているかを想像すると胸が苦しい。


「佐山さんには復讐、そして桜さんを取り戻すための力を我々が提供して探すのもお手伝いします。我々はが求めるのは対価としてシックワールドのとある勢力を倒して欲しいんです」


「勢力?」


「武田家と呼ばれる海嶺学園を支配する勢力です、エリート高校の海嶺学園の中でもトップに君臨するほどの実力者揃いで、ペーシェントの未来を担う有能な人物ばかりです」


 昔の俺みたいに自信に溢れて自惚れたやつが多そうだな、昔の俺が何人もいると考えると・・・やめよう、頭が痛くなる。


「あの人たちは我々シック排斥主義の天敵です。彼らはシックこそが正義だと考えています、彼らはの勢力は日々拡大していて、シックワールドの上層部にまで手を出すかも知れません、彼らがもしあの町を支配したら面倒です。その前に叩いておいて欲しいんです」


 今はすごい時代になったもんだ。そんな崇高な目的を持った奴らがいるなんて。


「そして我々はその武田家と言われるグループのリーダーは桜七海さんの居場所を知っているという情報を掴みました」


「その勢力を倒すついでに聞き出せって事か.それで具体的にはどうすりゃいいんだ?」


 一応は彼女の提案に乗ったもののいまだ彼女を怪しんでいるということは変わらない。そもそもいまだ彼女のことを俺はほとんど知らないのだから。

 懐疑的な目で彼女を見つめる。


「とりあえずはその海嶺高校の3年生として入ってもらいます」


「え、学校行かなきゃいけないの?」


「なんの身分もなくそんなことしてたら怪しいじゃないですか、ちなみにしっかり高校生活を送ってもらいますよ、不登校もダメです。あなたには今まで行ってきた人間としてその人に変装してもらいます」


「嘘だろ!?俺、今30歳だぞ!?さすがにばれるだろ、こうなんかないの?高校生に若返られる薬みたいな?」


「その人の顔はいつも髪ぼさぼさで眼鏡かけてて教室の隅にいるような人なので黙って授業受けてれば大丈夫ですよ」


「それでどうやって武田家を倒すんだ?全員殺すわけじゃないよな?」


 それを聞いた綾瀬はうーんと唸る。


「それも佐山さんなりに考えてください!」


「まじかよ・・・」


 なかなかに適当な具合だが大丈夫だろうか。しっかりしている頭のいい策略家の女の子かと思ったが少し抜けてるとこあるな。


「まあいいや、だが先に言っておく、俺は自分が危なかったら他人を置いて逃げるような人間だ、本当にいいんだな」


 一度追放された俺が無断で戻るんだ、バレたらタダじゃ済まないだろう。


「はい、私も同じ状況なら逃げさせていただきますので」


 彼女はにこやかに答える、本当にやりにくい女だ。

 しかしずっとゲームをしてへやから動かなかったニートに高校生活は重労働、でも俺はするぜ行動、往々にして闘争から逃走できないぜ。


「なんでいきなりラップ口ずさんでるんですか....?内部を調べる手段は問いません、最悪殺しも上は黙認しています。あなたは何人も人を殺しているらしいじゃないですか」


「・・・」


 そうだ、何人も殺した。全て正義のために、ペーシェントのため町のためにやったつもりだった。

 昔のことを思い出すと腹の中に黒いものが溜まっていく。


「どうしたんです?怖い顔して」


 彼女はのぞき上げるようにして俺の顔を下から見上げた。


「いやなんでもない、昔を思い出していた」


「なるほど、一応聞いておきますがそれで復讐したい方々は誰なんですか」


「シック上層部、つまりは当時の俺以外の【七色】のやつらだ」


「やっぱりですか」


 綾瀬はわかっていたと言わんばかりの返答の速さだ。

 シックワールドの重要な決定事はすべてある機関に指定された【七色】をもつ人間たちの多数決で可決される。

 あんな身勝手な理由で俺を殺すことに決めたのは絶対にやつらだ。

 【最強】の座を陣取り、好き勝手やってた俺はあいつらにとって俺は目の上の瘤だったようだしな。

 【七色】のやつらは全員相当な力をもっておりペーシェントの中でも指折り、復讐も簡単に行くとは思えない、全盛期の俺でも囲まれれば即座に殺されるだろう。


「本当に【七色】の奴らを殺せるほどの力を俺は取り戻せるのか?それにやつらは素性をあまり明かしていない奴も多い、今どこにいるかもわからないんじゃないのか?」


「場所なら我々の情報力で何とか少しづつ探し出します、力のほうですが、正直昔のシックはあまり取り戻せないと思います。ですが、あなたには我々が研究した対シック用兵器を佐山さんに貸してあげます」


 もしかして、あれか?魔術師回路を暴走させるピストルみたいなやつもらえたりする?それとも山をさき海をわる剣?


「じゃじゃーーん、ナックルダスターーー!あ、今笑いましたね、その心笑ってますね!?我々も銃系のシックの能力を完全に無効化するものを開発したかったんですがいまだに開発できていません。剣のようにもしたかったのですがこの素材、加工がすごい難しいようで、なんとかできたのがナックルダスター型ということらしいです、ですが研究もされているのでいずれできると思いますよ」


 彼女は大きく立ち上がり自慢げに俺の前にナックルダスターを出す。

 そのナックルダスターは黒く光ってまぶしいくらいだ。


「そのナックルダスターで何ができんの?」


「なんとシックの攻撃をはじけちゃいます!」


 とても興奮した。つまりは敵の攻撃きかないってことだ、このナックルダスターさえあれば能力者をぼこぼこにできるじゃないか。


「でも完全にはじけるわけではありません、威力を半減させるくらいと思ってください」


「・・まあ、そんなもんかでどうやって攻撃すんの?俺攻撃できるほどの技とかできないけど」


「そのまま弾いて近づいて殴ってください」


「嘘だろ・・・」


 とても絶望した。シックの攻撃の強さは遠距離でできる攻撃だということだ、念力やパイロキネシスなどなど、銃でみんな戦っているようなものなのに俺だけ殴りって嘘だろ。


「敵の攻撃は弾くか、よけるかしてなんとか懐に潜って殴りまくってください」


 またも絶望した。殴り合いの喧嘩とかそんなしたことないし、この女には俺のこの数年にわたるニート生活によるたるんだ、樽のようになっているからだがみえないのか。


「そんなに絶望した顔しないでください、心配ご無用!そのために佐山さんには次の進級式までの三か月’修行’してもらいます!喧嘩修行です!」


「三か月でペーシェントに勝てるまで強くなるわけ・・・」


「確かに普通の人ならできません、でも佐山さんならできます!私の勘がそう言ってます!」


 綾瀬は俺の不安をかき消すように大きい声で俺の言葉を遮る。


「そして我が組織からがとても強い方を連れてきてました!」


 彼女がおーいというと奥からグラサンをかけた190センチあるんじゃないかという40代ほどのアメリカのラッパーみたいなゴリゴリのハゲ黒人が出てきた。

 衝撃で大きく口を開けて漠然とする。

 絶対強い、てかめっちゃ怖い。


「よぉ、今日からよろしくなぁ兄弟」


 流暢な日本語でそう言うとその男は横に座って俺に肩を組む。


「俺はお前の修行に付き合う、そうだな、黒人とでもよんでくれ」


「あはは」


 あまりにフランクなのでつい苦笑いしてしまう、海外の人ってみんなこうなの?


「と、というか開発とか研究とかお前らの団体どんだけでかいん、、ですか?」


 この黒人が怖すぎてつい敬語になってしまった。

 グラサンの奥からちらつく目はフランクな言葉とは裏腹にぎろりと俺を睨めつけているようにも見える。


「まあ、この世には知らなくていいことがあんだよ・・・な?」


 怪しい、こいつら本当にあのBREAKERSなのか?異常なまでに豊富な資金に科学組織。間違いなく財閥クラスの『なにか』がバックについている気がするがしかしあまりそこは深く聞かないほうがよさそうだ。今俺はこの国の深淵を覗いている気がする。というかこれ以上聞いたらこの黒人に殺されそう、こわ・・・


「では今から頑張ってくださいね」


「え!?今から!?深夜ですよ!?」


「時間がねえんだろ、じゃあ早速走り込みからだ」


「そんなんで強くなるわけ」


「あ?」


 黒人は低い声で俺を威圧する。


「う、ういーーす」


 そこから過酷な日々が始まった。

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