謀略
そう唯が捕まるように仕組んだのはこの俺だ。真壁に武田家幹部、四天の馬場との日程を決めさせ、ちょうどいいタイミングで襲撃を決行させた。立花唯をとらえたことを聞いた俺は卜伝の暗殺を決め、卜伝を脅すために写真を馬場からもらった真壁に俺のスマホに送らせて今に至る。これにより道場にいつもいる立花唯と立花卜伝を引き離し、同時に人質にも使える一石二鳥の作戦。
だから俺は最初から時間を稼ぐだけでよかった、もうこれでお前は終わりだ。
「ああ、そうだ、ちなみに俺がワンコールで電話を切るか、あと一時間以内に彼女のもとに行かなければ彼女は死ぬことになっている」
当然、彼女を殺すというのは嘘だ。あくまで脅すだけの秘密兵器。しかしやつにそんなことがわかるわけがない、そしてこの写真だけの情報では一時間で立花唯のいる位置まで行くのは不可能だろう。
「フッ、これは嘘だな、あいつは【天照】と呼ばれるほどにしっかり戦えるよう一流の剣士に育て上げた、そうやすやすと捕まる娘ではないわ」
卜伝はあくまでしらを切る。
「いつもなら帰ってきているはずの娘が帰ってきていないことくらいきいてただろ?連絡もきていない、ちゃんとわかってるはずだ。孫に何かあったということを、変な強がりはやめろ」
卜伝は刀を強く握り、顔の焦りを表情にださないようにこらえているのがわかる。
戦闘しかしてこなかっただけの男にうまい交渉術はできない。
「人として恥ずかしくはないのか...」
「人として?よくそんなことが言えたな、卑怯な手段で俺の全てを奪っておきながら」
「・・・君は一体...」
地獄に落としてきたやつがおおすぎて、復讐者が誰かもわからないのか。
「おしゃべりは終わりだ、さっさと選べ、自分の命か、孫の命か」
俺はスマホを大きく突き出し、電話の送信ボタンに指を置く。
立花唯はこいつやこいつの家族、流派のものが作り上げた最高傑作とも呼べる集大成でもある、それをそうやすやすと手放せるわけがない、道徳的にも武士道のようなものを持っているようだし、実の孫を見捨てるわけにはいかないだろう。それこそここで孫を見捨てれば、この取引を聞き、自分の命大事に将来有望な人気者の孫の命を見捨てた老人のことを周りの人間はどう思うだろうか?今まで集めてきた名声、や称号、を失い、次元流に悪いイメージが付くのは間違いないだろう。人間としての道理、周囲の人間からの尊敬、今まで積み上げてきた、地位や名声の喪失。つまり立花唯を見捨てるということは、実質的な人間としての死につながる。もうお前は詰んでいるんだよ。
卜伝は顔をしかめっ面にし、苦悶している。
「早く決めろぉ?仕方ないじゃあ俺のことを見逃してなおかつ、しっかり頭をこすりつけ、無様に唯と私の命を助けてくださいお願いしますと言えばたすけてやるよ」
先ほど言われた雪辱を返すように同じことを言い返す。
それを聞いた卜伝はぐっとこぶしに力を入れながら膝をつく。
「唯と私の命を・・・助けてください・・・」
卜伝は言われた通りに土下座をする、その様子は屈辱感がよく出ていてとても滑稽だ。
俺は耳元に行き囁くように言葉を告げる。
「はぁ?
「き、きさまぁぁぁぁぁぁ!」
卜伝は怒りにふるえつつ、立ち上がり俺の首に刀を向ける。
「ククク、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
大きな高笑いが出る、笑いすぎて涙まで出てきそうだ。さっきまで俺を追い詰めていた男があんなに困った顔で俺に救いを懇願にする様子はまさに俺の全ての人生分全ての笑いを集めても到達しないような滑稽さだった。
まったく我ながらまたしても完璧な作戦だ。
「さぁ、どうする!もし孫を殺すなら殺す様子をみせてやるよ」
「・・・たとえ私が死んだとして、唯を開放するという保証はどこにある...?」
「お前が死んじゃうんだからお前が確かめられる保証はないなぁ、だが安心しろ俺は嘘をつかない男だ」
俺はにっこり笑顔で答える。
卜伝は悔しそうに刀を下すと、寝室奥にある棚の中から小刀を出し、胴の服を脱ぎ、半裸になる。
そうだ、それでいい。
「じゃあな、【剣聖】あの世で懺悔しな」
卜伝が死を決意し、自分の腹に刀を刺す。
「ぐ...」
卜伝は痛みに耐えようと歯を強くかんでいる。
「俺が介錯してやる、安心して腹を裂きな」
先ほど投げ弾かれた刀をとり、介錯するため卜伝の背後に立つ。しかし割腹しようとする瞬間に後ろから何者かの気配を感じる。
「お前の好きにさせてたまるかぁ!!!」
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