決着
「【次元斬】!」
ブンッッ
後ろから急に切りかかられる。
体を横にくねらせ、攻撃を避ける。
バゴォォッ
避けてから一瞬で後ろを向き、相手の腹を蹴り飛ばし廊下に吹き飛ばす。
「だれだ?お前」
月明かりが廊下に届いておらず、顔が見えない。
「卜伝様!まだあなたにはやるべきことがあるはずだ、あなたの『願い』を信じついてきた方々を見捨てる気か!?」
吹き飛ばしたはずの男はぼろぼろになりながらも折れたあばらを支えながらまだ立ち上がってくる。
対して強くもないのになんて精神力だ。
そして聞き覚えがある、この声は。
「君か...娘を頼む...唯が人質に取られている、もう私には死ぬことしかできない」
諦めたような、力のない声で卜伝は返す。
井上・・・なんてタイミングできやがった・・・!
「大丈夫です、窓からの反射で写真を見ていましたがあの場所はただの海嶺高校の裏山です!僕が行って助けて見せます!」
おいおい、嘘だろ。こんな展開は想定外だ。
井上は卜伝に伝えるとすぐに傷を負いながらも走って逃げていく。
それを聞いていた卜伝は希望を見出したような顔だ。
「おい!いいのか!今、俺が電話して殺してやってもいいんだぞ!」
スマホの送信ボタンを見せつけようと前に出す。
「【次元斬】」
シャキンッッ
スマホを前に出した瞬間卜伝は正座の状態から一瞬で俺の腕を目掛け、刀を振る。
「しまっっ―――――――」
避けようと腕を引いたときにスマホが刀にあたり壊される。
「井上君!君を信じよう!」
「はい!」
先ほどの絶望の表情は消え、希望の笑顔に満ち溢れている。
どうやらこいつは自らの手で倒さねばいけないらしい。
まさにこれはヒーローの逆転シーン、まるで俺が悪役みたいだ、いやこいつらにとってはしっかり元から悪役だったな。
卜全は腹に刺し傷、俺の殴りのダメージを合算しても、先ほどの剣筋の速さを見るにまだ戦えるようだ。
クソ、形勢逆転か...
「悪いが君との戦いは次の本気の一撃で決めさせてもらう、井上君だけでは心配なのでね」
卜伝が刀を構えると、後ろからから大きい化身ようなものが見える。
これは幻覚か?これが最上大業物【龍斬】の力か...
その化身はまさに卜伝のイメージを具現化したような存在だった。
「【剣聖】と呼ばれる所以、お見せしよう」
卜伝の刀が光りだす。圧巻の迫力がヒシヒシと伝わってくる。後ろの化身が大きな刀を上に構えている。
俺にはダメージこそないが疲れが全身に回っている、まさに満身創痍の状態。先ほどの変化は急激な強さの代わりに対価としてかなりの体力をもっていった。
チェックメイトだな...最強の剣技【一之太刀】、剣技としては最上級のシックだ、これで死んだというなら地獄でも土産話として使えるだろう。
「次元流最終奥義【一之太刀】」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
轟音が鳴り響き、その威力は外にすら届き、きれいな中庭を大きくえぐっている。奥義の衝撃で外側の壁がぼろぼろに砕け、外の空気が入ってくる。
「うう...」
俺はまだ生きているのか...
全く動けない、体中に痛みが響いている。
気づいたらがれきの山にもたれかかっていた、鎧は砕け、仮面も欠けている。
俺が今生きているのは鎧の効果で技の威力を半減させたからだろう。
「大丈夫ですか!?卜伝様!?」
道場着を着た少女が現れ、倒れそうな卜伝を支える。
どうやらもう時間切れのようだ。
卜伝は技の消費とダメージでかなり疲労しているようで、呼吸も荒い。
「この一撃をくらいよく生きていたものだ。最後に言い残す...ことはあるか?」
「ハハ、さっさと死ねよクソが...」
今出せる精一杯の罵声を浴びせる。
仮面がぼろぼろとわれ、先ほどの穴で開いた穴からの月明かりで俺の顔がさらされる。
「その顔は...そうか、思い出したぞ...復讐のためにここまで来たのか、顔や声が変わって気づかなかったが・・・【三原色】の一人の・・・」
俺の顔を見てすべてを察したようだ、そうだよ、お前が裏切り追放した男だよ。
「君ほどの男も落ちこぼれたものだな」
卜伝は俺にとどめを刺そうと刀を振り上げる。
「今度こそ終わりだ、先に逝っておいてくれ」
『先に逝くのはあなたのほうです』
ブスッッ
小刀が卜伝の肺に刺さる。
「な...グフッ...君は...」
卜伝を支えていた少女は卜伝を突き放す。
卜伝は吐血し、膝をつく。
「ごめんなさい」
少女は冷たい目で倒れる卜伝を見つめている。
「来るのが遅ぇ、でも最高のタイミングだ」
少女の、いや、綾瀬のきたタイミングが良すぎて逆に彼女が怖い。
「すいません、でも私のせいではないです、佐山さんが剣聖さんの隙をつくのが遅かったのが悪いです」
「勘弁しろよ・・・」
綾瀬に肩を預けなんとか立ち上がる。
「そうか、彼女は仲間か・・・グフッ・・・これは一生の不覚だな」
肺に血が入り、卜伝は間もなく死ぬ。
「安心しな、お前の孫は今は殺さないでやる、利用して利用して利用しつくして価値を全部絞ってから殺してやる」
俺にしたことをせいぜい後悔しながら死んでいけ。
卜伝はすべてを悟ったような目をして生気を失っていく。
立ち上がり倒れた卜伝を見下ろす。
「唯には・・・次元流の全てを担ってもらうんだ、頼む・・・唯には手を出さないでくれ」
「誰がお前の言うことなんて聞くかよ」
卜伝の言葉に嫌気がさす、お前に安心して逝ってもらうわけにはいかない、せいぜい絶望して死んでいけ。
ガシッッ
卜伝は少し笑い俺の腕をつかみ、目を合わせる。
「唯に少しでも傷をつけてみろ、地獄の中からでも這い上がって殺してやる」
死ぬ直前だというのに瞳はギラギラ燃えているように感じる。
思わず圧巻の気迫に驚き、顔を引く。
このボロボロの老人は死ぬ直前だというのにどこからこの気迫をだす、力があるのだろうか。
「昔教えたことを覚えているか、君はその強さで英雄になりシックの象徴となるべき人間だった、君にはその責任があった」
昔の記憶を呼び起こす。
久しぶりに思い出したからだろうか、すぐに鮮明には思い出せない。
しかしこの時の経験は俺の人生の糧になったのは覚えている、ぼやけながらもなんとか一部を思い出す。
~~~10年前~~~
卜伝は立ち上がり、落ちた刀を拾う。
「だが一つ覚えてほしい、強き力を持つものはその強さと同時に責任が伴う、ということだ、君はみなの手本にならなければいけない」
「そんなの嫌だね、俺は俺の好きなように自由に生きる、俺はそんな優しくはなりたくないね」
「・・・それが君の生きざまならそれもいいのかもな」
卜伝はそのまま納得したような顔で、暗闇に消えていった。
~~~
「・・・力を持つものは同時に責任がある、って話か」
俺はこの時、卜伝と一瞬の間であったが分かり合えた気がした、でもだからこそあとから俺を排除する計画に賛同した一人として聞いたとき悲痛だった。裏切られた気がしたんだ。
「くだらねぇな、それが何の役に立つ、結局お前も責任を捨てて孫も見捨てりゃ、俺に勝てていただろうにな、家族そろってバカなもんだ」
卜伝を鼻で笑う。
なぜだかこの責任という言葉が俺は嫌いなようだ、聞くたびに腹が立つ。
「しかもそのせいであいつはお前らのその責任とやらのせいでかなり追い詰められてるようだぜ?」
勢いに負けじと引いた顔を卜伝の目の前まで戻す。
「なんだと?そんなわけがない、次期次元流のトップだ。光栄に思っているはずだ」
卜伝は全く動じていない、完全に嘘だと思っているのだろう。
くそじじいが、まだ高校生のガキにそんなものいるかよ。あいつは人並みの幸せが得たい、普通になりたいんだ。自分の期待を一方的に背負い込ませて、それがいいことだと思い込んでいる。クソみたいな善意、心底吐き気がする。
「やっぱりお前は殺してよかったよ、お前たちが俺にやったように全てをもらっていくぞ、命も孫も、お前の仲間の【七色】やほかの上層部のやつらも後々そっちに送ってやる」
それを聞くと卜伝も鼻で笑う。
「あんなことをしでかしておいてそれで追放されたら復讐か傲慢だな、犯罪者を追っていた男が犯罪者になるとはミイラ取りがミイラになるとはこのことだな」
「なんのことだ?俺はお前らに命を狙われるようなことはなにもしちゃいない!」
卜伝も俺のことを殺人鬼のテロリストだと思っているのか?
「自分がしたことも忘れるとはな・・・自分勝手なやつだ」
卜伝は血を吐きながらもしゃべり続ける。
「もうその話はいい、最後に答えろ、答えるならあの孫は殺さないでやる」
聞きたいことはいろいろあるが今聞きたいことはそれじゃない。
「桜七海はどこだ!」
卜伝は俺の質問を聞くと一瞬驚いたように目をまるくするとまた鼻で笑う。
「桜七海・・・それすらも忘れたのか・・・」
「知っているのか?!」
あたると思っていなかった質問が当たることで動揺が隠せない。
「どこだ!どこにいるんだ!」
「彼女は・・・ごはっっ」
卜伝はいきなり大量の血反吐を吐きだし体が崩れ落ちそうになる。
心身的にも限界のようだ。
「答えろ!」
「・・・」
もはや卜伝にはしゃべる力すら体力は残っていなかった。
無言で俺のことを見つめている。
ビリッ
卜伝がつかんでいた腕から電気のようなものを放つ。
「痛!てめぇまだ......」
俺の腕を掴んでいた力は抜けズルズルと卜伝は崩れ落ち、なにもいわなくなる。目の光を失った卜伝の体はみるみる、80歳のしわしわの老体に戻った。
倒れた卜伝の体から霊体のようなものが出たと思うと最上大業物【龍斬】の刀に吸い込まれていく。
「ふっ、クククククハハハハハ」
道場の中で一人の男の笑いが響き渡る。
頭を手で抱え大声で笑う。
一番聞きたいことを聞けなかった、でもかまわないさ。
恨むべき連中の一人を殺せた、ようやくだ、長かった、これまでこいつらのせいで俺がどれだけ苦痛の日々を送ってきたか。
綾瀬は心配しているような呆れているかのようなそんな顔で俺を見ている。
「ふぅ・・・クソッ!」
笑いおわると地面を思い切りあげる。
かまわないわけがないだろ・・・
心の中に引っかかったものが少し解消した気がするが、まだ人を殺すのはなれないていないからか、七海の所在が分からないからかスッキリしない。
どうやら俺の心は復讐より、七海のほうが大事なようだ。
まだまだ殺したいやつらはいる、あいつらに復讐しきるまでは終われない。
だが彼女さへいればその復讐すらどうでもいい、今すぐにでも彼女に会いたい。
そして今度こそ・・・
「すさまじい情緒不安定っぷりですね・・・」
綾瀬は俺を見て少し引いている。
その顔を見てハッと我を取り戻す。
こんな取り乱すなんて俺らしくねえな、でも自分でもわからないほどに取り乱してしまった、わかってるよ、それを考える前に今はこの復讐に一区切りしろっていうんだろ。
「じゃ、予定通り唯さんを助けに行きましょうか、少し休憩したら馬場さん達とたたかわなきゃなので」
「ああ...そうだ、井上を早く止めないと面倒なことに・・・」
「井上さんならよろよろと走っていたのを先ほど寝かせておきましたので大丈夫ですよ」
こいつ相変わらずできる女だな...
意気込んで走っていったにもかかわらずあっさり止められていて、敵ながら井上が気の毒に感じる。
「何時間休んでいいと思う?」
「5分?」
何時間!って言ったよな!?、時間って!?
綾瀬はがんばってください、と言わんばかりに親指をたてている。
今日はまだまだすることがあるということに気が滅入る。
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