天照

 そのオーラを一瞬で感じギターケースからの≪何か≫を立花が取り出す前に真壁は攻撃を仕掛ける。


「先手必勝!アンパンマンの変身を待つばいきんまんは現実にいねえぞ!」


 もう一度真壁は右ストレートを打ち込むために振りかぶりながら、立花に近づく。立花はギターケースを開けており、全く防御の体制をとっていない。だれがどうみてもクリーンヒットするその時だった。立花が明けたギターケースを向けたとき、ギターケースからその何かが射出され、真壁を吹き飛ばす。


「最後にアンパンマンに勝ったばいきんまんもいないけどね」


 立花は倒れた真壁に対して皮肉めいたことを言う。立花の周りに棒のようなものが飛んでいる。木刀だ、それも20本はあろうかという量。


「念力の使い手ってわけか、チッ、いってえ」


 吹き飛ばされた真壁はゆっくり起き上がる、苛立っているようで立花をにらみつけている。勢いをつけて突っ込んだ分、吹き飛ばされた時の衝撃のダメージはでかそうだ。木刀は立花の周りを飛び、太陽のマークのような円を作っている。それを見て綾瀬の資料に書いてあったことを思い起こす。


「これでついた異名が天照ってわけか...」


 まるで天照の光背のように木刀が連なっている。


「おお、すげぇ....」


 つい、圧巻の光景に独り言をつぶやいてしまう。夕焼けも相まって神々しさも感じる光景だ。本来なら念力で持ち上げられるものはうまいペーシェントでも一度に3つ、4つだ。しかし彼女は1キロほどの木刀を20本自由自在にやすやすと扱っている。これほど一度に繊細で大量のものを動かせるのは確かに神童という言葉が一番適切だろう。

 しかしまずいあの真壁が押されている、このままじゃ俺の作戦が水の泡だ。


「うごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 急に真壁が叫ぶ、その叫びはまさに獣の雄叫びだ。あまりの五月蠅さに真壁の目の前にいた立花、遠くで見ていた俺まで耳をふさぐ。

 鼓膜破れるかと思ったわ。


「ふう、心機一転、だったらそのばいきんまんが勝つ初めての瞬間お前に見せてやるよ」


 真壁はさっきの大声をだしてストレスを解消したようで、うれしそうだ。無邪気な子供のような顔をして、目を輝かせている。


「そりゃ楽しみ」


 立花はあくまで余裕な態度を崩さない、それが真壁の闘争心を煽る。そしてよくみると立花は笑っているように見える、互いに本気の目だ。

 ガチバトル始めやがった、これは長引きそうだな。

 そんなことを思っていた時俺の横を誰かが走りながら通る。


「お嬢!!」


 勉強のできそうな顔の眼鏡をしている青年だ。制服を着ており、三年生のマークを付けている。


「また道草くってるんですか!おじい様の剣修会に遅れてしまいますよ!」


 どうやら卜伝の道場の弟子らしい。あの頑固爺が弟子をつくるなんてな、こいつは立花唯の目付け役ってところだろう。生意気な孫と気難しい爺さんの板挟みでつらい日々を送ってそうだ、目にクマがある。


「井上...こいつが絡んできたの、別に行く気はあったし」


 そういうとプイと拗ねてしまった。


「おいそこの君、この方は【剣聖】様のお孫さんだ、その傷、君も気が済んだだろう」


「なんだと?」


 そのどうやら井上は良心で言ったようだが真壁はまた苛立っているのがわかる。ただの不良扱いされて負けたような扱いを受けたのがとても気に食わないらしい。優しさが人を傷つける典型的な例だ。


「邪魔するんならお前もぶっ飛ばすだけだ」


「・・野蛮な人だ。まだ実力の差がわからないのか」


 優しい口調で、井上は煽り帯刀していた立花と同じくらいの木刀を出す。最悪の状況だ、追い詰めるどころか二体一になってしまった。真壁はまだやる気だが、このまま続ければ結果は見えている、本来の仕事も忘れてそうだし、仕方ない。俺はぼさぼさの髪を櫛で髪をかき上げ、立花たちの前に飛び出した。


「やいそこの不良、その子が困っているじゃないか、この俺が相手だ!」


 真壁は苦虫を噛み潰したような顔で、立花と井上は「誰?」と言ったようないぶかしげな顔で俺のことを見ている。俺は自分が出せる最高のキメ顔でウインクした。

 我ながら最高の演技だ。

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